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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
大学生編
16/21

予測できない未来へ


「サークルってどれくらいあるんだ」


大吾は疲れた声を出した。

未来を知るすずとしてはどのサークルに入るかは決まっているので、別にサークルの見学に行く気にはならなかったのだが、大吾にとっては初めての経験だ。

付き合うべきだと黙ってついてきたのだが、元々人付き合いが得意ではない大吾にとってはかなりしんどかったらしい。


「ここ見にいかね?」

大吾が写真サークルのチラシを指差している。


私達が本来入るサークルは、テニスサークルという名の所謂飲みサーだった。

ここに入ったのは私がテニスサークルという響きが青春ぽくて気に入ったからだ。

私が曖昧に返事をすると、大吾は了承したと受け取ったのか、そのまま写真サークルの部屋へ向かってしまった。


大吾は写真サークルの部屋に入ると先輩にカメラのことを教えてもらって、かなり熱心に話し込んでいた。

そんな姿を見ながら、飾られている写真に目をやる。

綺麗な風景写真や楽し気な人物写真が並んでいる。


高校の修学旅行の時、大吾にカメラを撮らせた。

本来は大学に入ってから強くカメラに興味を持つはずだったのに、高校の時点で興味をもたせてしまったのだ。

そのせいで本来とは違う未来に進み始めているのかもしれない。

未来を変えるとどうなるのかー

すずは不安になり、大吾に違うサークルも見ようと声をかけようとしたが、楽しそうな顔に言葉を飲み込んだ。


「写真サークルに入る」

大吾は帰り道でそう宣言し、すずも一緒に入ることにした。


これまでは過去を生きていた。

でもここからは知っている未来とは違う世界が待っている。

どんな未来が待っているのか―

想像すると、ドキドキしてくる。


私は実家にあった古いカメラを手に取った。

「・・・新しい未来に、はい、チーズ」

家の庭に咲いているチューリップをパシャっと撮影した。


すずが知っている世界の大吾はあまり人と交わらず、すずとのみコミュニケ―ションをとっていた。

それが今はカメラに夢中で先輩や詳しい同級生とよく話している姿を見かける。

サークルは楽しむものだから、楽しそうなのはいい事なのだが、ほんの少し靄っとした気持ちになる。

特に女の子たちが大吾に話しかける姿を見ると、イラっとする。

嫉妬深いところは中身が大人でも変わりはしない。


「あの、美山さん」

声をかけて振り返ると、このサークルの幹事の成瀬太陽がこちらを見ていた。

成瀬はあまり明るいタイプではないが、カメラには詳しく、面倒見がいい。

その上にアマチュア部門で賞もとったことがあることからこのサークルの幹事になっていた。


「あの、今度写真の・・・モデルになってもらえないかな?」

「私がですか?」


私がモデルにと言われるなんてというびっくりもあったが、成瀬の写真は基本風景が多く、人物写真を撮るイメージがなかった。


「うん・・・なんか人物写真にもチャレンジしたくて、それで美山さんにモデルをしてもらえたらいい写真が撮れる気がして」


目がかなり泳いでいて、きっと勇気をだして言ってくれたのは十分伝わってくる。

賞をとったことある人にモデルなんて言われるのも光栄なので、すずは了承することにした。


「モデルを引き受けた・・・」

大吾にも大学の帰り道にその話をした。

てっきり頑張れとでも言ってもらえるかと思ったら、最近見ることのなかった尖った顔で、「ふーん」とだけ言った。

「どこで撮るんだ?」

「そこまではまだ聞いてない」

「そうか」

まるで興味ありませんという顔をしているが、気にしているのは目を見ればわかる。


「賞とったことある人のモデルなんて緊張するし、私ひとりだと心細いから一緒に行ってくれる?」


そういうと、一瞬口元が緩み「まぁ予定が合えばな」と言って、大吾はそっぽを向いた。


「素直じゃないな」

小さくそうつぶやくと「なんて言った?」と大吾が少し不機嫌そうにこっちを見てくる。

「ありがたいなって言ったの」

フンと鼻を鳴らして、「最寄り駅まで送ってやる」とすずの前を歩き出した。

「ありがとうね」

大吾の後ろに続く。

背が高くて広い背中の後ろを歩くと安心する。

ちぐはぐな身長の二人の影が揺れて、近づいていく。

あと少しの距離で、つながりそうな影は引っ込められた。


成瀬に言われた撮影現場が海だった。

まだ夏には早いが、足首くらいならつけても大丈夫そうだ。

なんで海なのか尋ねたら、すずをモデルにと思った時に海で撮影したいと思ったそうだ。自分に海のイメージなんて全くないが、才能ある人からすれば画がみえているのだろう。

撮影現場が海だと大吾に伝えた時は、少し怒って成瀬に文句を言おうとしていた。


「大吾。一応伝えておくけど、水着とかにはならないよ?」


その瞬間大吾は動きを止め、「わ、わかってるに決まってるだろ。成瀬さんにはその、あれだ、海開きもしてないのに海はってちょっとあれだろって言いに行くんだよ」とよくわからないことを言って去っていた。

「あれは図星だな」

水着だったらモデルなんて速攻で断っただろう。

そういう私の性格をわかってないのね、とすずはため息をついた。


撮影当日は快晴だった。

梅雨の時期だったので、屋外の撮影は厳しいのではないかと思ったが、たまたまその日だけ晴れた。

成瀬に言われて、白のワンピースを買ってきた。


「じゃあまずはそのまま白のワンピースで撮影しよう」

言われるがままにワンピースを着用して、言われた通りのポーズをとる。

大吾がいることで成瀬はかなり緊張していたようだが、撮影が始まったらさすがという感じで、どんどん指示が出して、シャッターをきっていく。


「じゃあワンピース脱いで」


「はぁあ!?」大吾が殴りにいこうとした瞬間、成瀬は顔を真っ赤にさせて「そういう意味じゃない」とブンブン首を振った。


白のワンピースからパーカー、ジーパンに着替え、ワンピースは成瀬に渡した。

成瀬はそのワンピースに絵の具で色を付けていく。

どうやら衣装に少しずつ色を付けて撮影したいらしい。

「誤解するだろ」と成瀬が先輩であることを忘れたように大吾は怒っていた。

成瀬は謝りつつ、ワンピースに色をつけ、またすずに着用するように言った。


そしてすずの顔にも少し絵の具をつける。

成瀬の手がすずの顔に触れた瞬間、一瞬だけ大吾が鬼の形相になっているのを見て、少し笑ってしまった。

そうこうしているうちに撮影は終わった。


「すごい」

撮影した写真を見ると、まるですずとは思えないくらい透明感のある写真に仕上がっている。

「さすがだな」

大吾も褒めるしかなかったらしく、素直にそう言った。


「モデルがいいからだよ」


成瀬は少し頬を赤らめて、小さな声でそうつぶやいた。

すずの耳には届かなかったが、大吾の耳にはしっかり届いていた。

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