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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
大学生編
15/18

真面目から踏み出す明日


「久しぶりだな」


すずは、スーツに身を包んだ自分を見ながら思わず呟いた。

就職してからはいつもスーツだったが、過去に来てから制服だし、化粧もしていない。

当時は大人になったなとか早く化粧したいとか思っていたが、今となってはやらなくてもいい今をもう少し大事に過ごしたいと思える。


「早くしなさい!入学式から遅刻する気!?」


1階から母の声がする。

これは噴火5秒前だ。

急いで鞄を掴むと、1階に降りた。


「桜が綺麗」

駅前は桜が満開だ。

いつもの景色も少し違って見える。

今日から駅に恵美はいない。

恵美は通える範囲の私立大へ進学した。

私は勉強が得意なわけじゃないからと早々に推薦入試で合格をもらっていた。

恵美がいなくて少し心細い。


新しい場所へ一歩踏み出す時はいつだって不安だ。

でもその先に楽しいことが舞っているのも、大人だからこそわかる。


電車に乗って揺られていると、大吾がキョロキョロしながら乗ってきた。

目があうと、何でもないように目を逸らしながらこちらへやってきた。

絶対私を探してたくせに可愛らしい。

「おはよ」

「おぅ」

なんだか今日の大吾は幼くみえる。

スーツ姿に着慣れていないせいもあるが、なにより印象を変えているのは髪形のせいだ。

今まで明るい茶色だったのが、黒髪になっている。

それが幼い印象を与えるのだ。

こんな若い子となんてと考えたが、電車の窓に映る自分は18歳。

同級生だから今は大丈夫。

「髪、黒にしたの?」

「まぁな」

「何か心境の変化?」

「別にそういうわけじゃねぇよ」

高校生の時にあんなに派手でヤンチャだったのに、大学に入ってから落ち着くとは。

「似合ってるよ、黒髪」

すずがそういうと大吾は照れくさそうに笑って、「当り前だ」と照れくさそうに小さく言った。


入学式が行われるホールに着くと、すでにたくさんの人が座っていた。

大吾とは入学式後に集合する約束をして別れると、係員の指示に従って指示された席へと向かった。

しばらくして入学式が始まったが、学長の話が始まり、来賓の話など次々とつまらない話が繰り返される。

2度目の入学式に興味を失って欠伸をしていると、携帯が震えた。


(大吾?)


“入学式、つまらん 抜けるぞ ”と書いてある。

昔の私ならきっと最後まで聞くべきだって残っていただろう。

でも大人になってわかる。

真面目にやってるより、少しはみ出た方が人生は楽しい。

“了解”と送信すると、座っている人の間を「すいません」と言いながら通り抜けた。


□■□


「美山さんって真面目だよね」

会社の先輩はそういいながら「これ明日までによろしくね」と書類を置いてとっとと自分の席に戻っていく。

真面目という言葉は本来誉め言葉だ。

だが、さっきの先輩の顔を見る限りこちらを馬鹿にしているのは明らかだ。

要領よくやれよとでも言いたいのだろう。

すずは、丁寧に仕事をするのでどうしても人より仕事が遅い。

それを真面目と言って嫌味を言っているのだ。

同期の他の可愛い女の子は先輩に上手く甘えたり、ミスをしても可愛らしく謝って許してもらっている。

同期に「少し仕事出来ないくらいがいいのよ」と言われたこともある。

理由を尋ねると、「仕事できると思われたら、仕事が振られて仕事が増えちゃうじゃん」と笑っていた。

なるほどな、とは思った。

ただそう言われても、性格を簡単に変えることはできない。

結局真面目に書類と格闘し、終わりが見えた時、時計の針は22時を過ぎていた。

思わずため息がでる。

翌日会社で書類を先輩に渡すと、「ありがとう」と形ばかりのお礼を言われ、上司には自分の手柄として報告していた。

くそやろうと思うが、そう言えるはずもなく、黙って色んな感情を飲み込むだけだ。


これが社会で生きる、大人になるということだ。


いつかこの我慢も報われると信じるしかない。

そう思っていたのに神様は真面目な人は好きじゃないらしい。

しばらくして同期から結婚すると朝礼で発表があった。

それなりに財力のある人と結婚するらしく、新婚旅行はヨーロッパを10日巡るからしばらく日本に戻れなくて寂しいと絶対思ってなさそうな言葉をはいている。

嬉しそうに微笑み、花束を受け取っている同期の姿を見ながら、私は自分が笑っているのに心は空っぽで何の感情もなく拍手をしているなと自分を俯瞰で見ていた。

真面目にやってるのに、負けたくない。

そう思ってその日からがむしゃらに仕事を頑張った。

そのおかげで仕事は認められたが、孤独を感じることも増えた。

今となっては真面目にやることが正しいのか、はっきりとは答えらない。


■□■


「めちゃくちゃ気持ちいいな。こんな日に学長のしょうもない話聞いてる場合じゃねぇよ」

大吾はそう言って、リュックを枕にしてベンチの上で横になった。

「そうだね」

ベンチの端っこに腰かける。

これまでの人生で学校行事をさぼったのはこれが初めてだ。

悪いことをしていると思うのに、なぜかすっきりした気持ちだ。

隣に座った瞬間、風が吹いて青空の中を桜が大きく舞う。

この公園には大学生の時よく大吾と授業をさぼっては、ここでのんびりしたり、待ち合わせしたりしていた。


(懐かしいな)


大吾と別れてからは、辛くて来ることが出来なかった。

(最後の場所も思えばここだっけ)

何も知らない大吾は、気持ちよさそうに目を閉じている。


「ここまでこれたのは、すずのおかげだ。ありがとう」


不意に言われて驚いて大吾の方を見ると、恥ずかしいのか目を閉じたままだ。


「ううん。大吾が頑張ったからだよ」


「すずはバカにしなかっただろ?、大学行きたいって言った時。親ですら、口では言わないけど、無理しないでいいのよとかって信じてくれなかったのに、すずはまっすぐこっちをみて応援してくれた。その時、絶対この期待に応えたいって思った。それで頑張れたんだよな」


大吾が目を開けると、起き上がった。


「・・・どうして信じてくれたんだ?」


それは大吾が大学生になることを知っていたからだ。

でも本当の最初、本当に高校生だった頃にも打ち明けられて勉強を教えることになった時も、信じていた。


「なんでだろうね。わからないや。目を見た時、本気だってわかったからかな」

フっと大吾から笑みがこぼれた。

「やっぱり、お前には勝てないな」

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