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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
12/24

未来への選択

電車の窓に映る山は赤くなって、秋が深まってきた。

季節が移り変わるのが早いと感じるのは、今の私が高校生だからだろうか。

そんなことを考えていると高校の最寄駅についた。

今日は恵美が風邪で休みなので、仕方なく1人で登校だ。

電車を降りて、ぐーっと背伸びすると歩き出す。

同じ高校の子達がたくさん高校に向かって歩いていく。

この光景ももう見慣れたものだ。


大吾との噂は今や誰もしてこない。

誰も話しかけてすら来ない。

堂々としていれば噂されないと言われて、隠すから噂されるんだと思って実行したが、どうやら噂されないのは私も本当はヤンキーであると認識されて怯えられているからだった。

特に不便も感じないし、理由はどうあれ陰でごちゃごちゃ言われるよりはマジだ。

教室に入ると、大吾はいつものように教室の後で眉間に皺を寄せている。


「おはよ」

「おぅ」

「また数学?」

大吾の机を覗き込むと、数学の問題が並んでいる。

「やっぱベクトル苦手だ」

そういって頭を伏せて、「カーッ」と頭を掻いた。

「朝から勉強なんて感心感心」

すずは隣に椅子を置くと、いつものように教える。


こうやって過ごすのも当たり前になってきた。

担任も最初こそ大吾と仲良くするすずを心配していたが、大吾の素行が良くなってきたこともあり、なぜか感謝されるようになっていた。

大吾が中間テストで高得点をとってきた時には、大吾より褒められてしまった。

模試の点数もまずまずで、すずはB判定、大吾はC判定まででた。

「負けた…」と大吾は不服そうだったが、こればっかりは仕方ない。

受験生なので勉強ばかりの日々だが、確実に距離は縮まっているのをすずは感じていた。

それと同時に、過ぎていく日々に不安が募る。


「どうしたんだ?ため息なんてついて」


気づいたらため息をついていたらしい。

図書館の壁にかけられているカレンダーは12月になっている。

周りにいる人もダウンコートなど分厚いコートを着て、寒そうに肩にコートをかけたり、マフラーを膝掛けのようにして過ごしている。

「もうすぐセンターだもんな」

返事をしてないのに大吾は1人で納得してペンをくるりと回している。

「そうだね」


母のことを考えると、胸が苦しくなる。

どうしても母のことが気がかりで病院に行かせることはできた。

でも検査結果は問題なしだった。

何か原因でも見つかれば運命が変わるかもしれない。

そんな期待をしていたから、それを聞いた時は心臓が痛み、血の気が引いた。

あと2週間。

どうすれば母を救えるのだろう。


「すず、顔色悪いぞ?」

「大丈夫」

わざと目を逸らして、英文に目をやるが、まるで頭には入ってこない。

やがて気付けば涙がこぼれそうになり、英文は滲んで見えなくなる。


「何があったんだ?」

泣きじゃくるすずを図書館から連れ出し、大吾は近くの公園のベンチに座らせた。

ただ黙って隣に座っている。

こちらを見るでもなく、無視しているわけでもない。

ただ隣で静かに落ち着くのを待ってくれている。

そんな大吾の優しさが伝わってきて、少しずつ気持ちが落ち着いてくるのが自分でもわかった。


「…もしもの話なんだけど」


「ん?」


「もしこの先にすごく悲しいことがあるのはわかってて、でもそれを避けられなくて・・・」


未来がわかっているのに何もできない。

自分が無力すぎて辛い。

自分の手がふわっと温かいものに包まれた。


「それは避け方がまだ見つかってないだけかもしれない。俺なら・・・」


すずの手を大吾の手が優しく包んで、そっとすずの右手と左手を離した。

思ったよりきつく握っていたようで、左手が赤くなっている。


「俺なら、最後まであきらめない。避ける方法が見つかるまで、全力で探し続ける」


そう言って、穏やかな目をして微笑んだ。

そこからの帰り道、すずは大吾にお願いして、手を握ったまま分かれ道まで歩いた。

大吾の温かい手から勇気がもらえる気がした。


「俺に手伝えることはないか?」


大吾はそう言ってくれたけれど、未来での出来事を話すわけにはいかない。

厳密にはルールなんて知らないけれど、何となくそんな気がした。

大吾にはお礼だけ伝えて、家に帰った。


「おかえり」

母は孫の手で背中をかきながら、横になっている。

「ただいま」

部屋に入ると、最後まであきらめないと心に決め、カレンダーをみた。

あと2週間。

出来ることは、まだあるはずだ。


そう思って過ごしたけれど、そう簡単にどうしていいかはわからない。

母になるべくくっついているが、結局亡くなった当日以外は元気に過ごしているので、どうにもならない。

学校にも、図書館にも行かずにくっついていたら、母の怒りを買ってしまって、結局高校へ来ている。


「まったくどうしたものか・・・」

小さくため息がでた。

「すず」

「ん?」

大吾が真剣な顔で何かの案内を差し出している。


「俺、センター試験の前にこれ受けとこうと思う」


何の案内だろうと受け取ってみると、模試の案内だった。

そう言えば、この時期に一緒に模試を受けた気がする。

日付を見ると、母の亡くなった日の前日だ。

「うん、いいんじゃない?」

「すずは受けないのか?」

「ちょっと考えてみるね」

「・・・そうか」

大吾は少し残念そうな顔をしたが、すぐにまた数学の問題に取り組んでいる。


この模試をきっかけに大吾は志望校を決めて、より一層勉強に取り組むようになる。

そして私自身もこの模試で苦手な部分がわかり、そこを対策することで受かった。

つまり、2人の未来にとって大事な模試なのだ。


でも今回は模試に行くことは出来ない。

その日こそ母が亡くなるきっかけになった日だからだ。


(そういえばあの日も寒かったな…)


■□■


「大吾!こんな寒いとこで待たされたら風邪ひいちゃうでしょ!」


模試の受験会場まで一緒に行こうと待ち合わせしたのに、大幅に大吾が遅刻してきた。

それでなくても初めて行く会場で迷うかもしれないのにと、すずは焦っていた。


「まぁ大丈夫だって」


大吾はそう言いながら、マイペースに歩いている。

「あのね、これが本番だったら終わりだよ?お!わ!り!」

「そう言うなって。1限目地歴だろ?遅刻したって満点とれるぜ」

「そんな冗談言ってる場合じゃないから!」

走りながら怒って、なんとか会場に滑り込んだ。

模試はいざ受けてみると、いつもより難しく感じた。

実際には問題の難易度は高くなっていたわけではないのだが、緊張から解けなくなってしまっていた。

焦る中、時間だけが過ぎていく。

午前の試験が終わった段階で、吐きそうなくらい気分が悪くなっていた。


「大丈夫か?」

試験会場の隣の公園でお弁当を広げてみるが、食欲はない。

「うん、なんとか」

「メシ・・・は食えないよな」

「そんなことな・・・」

大吾は心配そうに顔をのぞき込んだかと思うと、すずの顔を見てニヤニヤ笑いだした。


「お前、緊張してるだろ?」

顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。

「き、緊張してるわよ!別にいいでしょ」

すずの肩に大吾がコートをかけて立ち上がると、座っているすずの頭をぽんぽん叩いた。


「気楽にいこうぜ」

「・・・私が先生なのに」


「そんなこと言えるなら大丈夫だな。お守りもあるんだし、大丈夫だ」

すずのカバンのお守りを指差した。

「これ、恋愛成就のお守り」

「え?」

「全然効果がないお守りだよ」

つんとお守りをつつく。

「・・・そんなことねぇだろ」

小さく大吾がつぶやいて、口をとがらせている。

そんな姿が可愛らしくて、思わず吹き出してしまう。

「午後も頑張りますか」

「おぅ」


あの時の大吾の眩しい笑顔が浮かぶ。

あの思い出も無くなってしまうのか―

胸の奥がツンと痛む。

でも今は母を守るのが最優先だ。

大吾に今日も図書館に行けないと断ると、まっすぐ家に帰った。

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