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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
11/18

お前って変わってるよな

「おはよう」

恵美がこちらを見て手を振っている。

「おはよう」


相変わらず暑いが、少し暑さも落ち着いてきている気がする。


「今日から学校とかマジでだるい」

恵美はそう言ってため息をついた。

「まぁまぁ。残りの高校生活を楽しまないとね」

「それは確かにそうだね。JKでいられるのもあと半年だもん」


若さが何よりも宝物であることは、すず自身が一番よくわかっている。

将来の夢が言えるのも、顔にシミがないのも、若いうちだけだ。

25を超えると傷の治りも遅くなる。

身体の傷も、心の傷も、とにかく治すのに時間がかかる。


「そういや、すず、川嶋と図書館デートしてたんだって?」

ニヤニヤとした顔で恵美が肘でつついてくる。

「デートというか、勉強教えてたんだよ」

「え!川嶋が勉強!?」

「大学受験するんだってさ」

「マジで?そうなんだ~。それでなんですずが勉強教えることになったの?」

「成り行き?かな」

「何それ」

詳しく聞こうとする恵美にどう返事しようかと考えていると、タイミングよく電車がホームに入ってきた。


教室に入ると、久々の再会にクラスはがやがやと盛り上がっていた。

後ろの方の席を見ると、大吾が突っ伏して寝ている。


「おはよ」


すずが声をかけると、そのままの姿で「おぅ」と小さく返事をしてきた。


「ちゃんと夏休みの課題やってきた?」

それには返事をせずにぐっと親指を立ててきた。

おそらく昨日徹夜で仕上げたのだろう。

夏休みの課題なんてと大吾はサボろうとしていたが、大学受験では調査書も見られる。

合否を左右するなんてことはないだろうが、少しでも良いにこしたことはない。

そう言って、大吾を夏の課題をやるように説得したのだ。

夏休みの課題を回収する段階で、大吾が提出した時、担任を始めクラスメイトみんながどよめいた。


そして予想はしていたが、大吾とのことが瞬く間に噂になっていた。

修学旅行でも一緒にいたことや図書館でのデートが目撃されたことで、二人は付き合っていると一気に広まったようだ。

正直、すずとしてはどうでもよかった。

32歳でこんなことで動揺することなどない。

ただ田舎の高校生からすれば、ヤンキーと付き合っているというのは、いじめる理由になるらしかった。

女の子達から派手ないじめはなかったが陰でコソコソいわれることが増えた。

すずからすれば、高校など小さな世界の一つで、そこで何を言われても大人になれば関係ないということを理解しているので、さほど気にはならない。

むしろ、親友の恵美がかなり激怒し、悪口をいってる子を見つけると蹴散らしに行っていたので、そのことの方がよっぽど心配だった。


「もういいから」

放課後に大吾が突然そう言いだした時、きっと私が仲間外れにされているのを気にしてのことだとすぐにわかった。

高校生の時にそんなことをあったのを思い出したからだ。

ただあの頃は少し冷やかされる程度だった。

どうやら少し過去も変わっていっているようだ。


「何がもういいの?」

「勉強、一人でやるから」

「何言ってるの?ここまで来て一人でやるなんて」

「いいんだよ。お前だって受験生だろ?自分のことやれよ」

「あのね、私だってそれなりの覚悟をもって勉強教えるって決めたの。そう言われて、はい、そうですかとはならないわよ」

「いいから、ほっといてくれ」

「ほっとけるわけないでしょ?」

「うるせぇ」

そう言って大吾は帰ってしまい、その日から図書館に来なくなった。


「どうしたものか・・・」

ため息をつきながら、ごろんと寝転がった。

母親が台所で晩御飯を作っている音がする。

大吾は予想以上の頑固さで、全く気にしていないことを伝えても、無理やり図書館へ引っ張ろうとしてもダメだった。

授業には出ていたが、教室で話しかけてもほぼ無視されている。


「どうしたんだ?」

父親が珍しく新聞を脇に置いて聞いてきた。

高校時代の自分なら反抗期真っ盛りで、父親をほぼ無視していたが、今の自分として意見が聞きたくなり、これまでの経緯を話した。

気づいたら隣に母も座って、聞いている。


「そんなことがあったのか」

「正直、私としては悪口とか全然気にしてないんだけどね。頑ななんだよね・・・全然話してくれないし」

「彼はすずのことがよっぽど大事なんだな」

「そうなのかな~、なんか噂されるのが嫌なんじゃない?」

「いや、きっと悪口を言われて傷つくすずを見たくないんだろう」

「全く気にしてないって言ってるのに」

「その言葉だけでは無理よ。自分のために傷ついてないふりしてるって思ってるだろうから」

「じゃあどうしたらいいの?」

「悪口を言わせないことだな」

「言わせないって、どうしたら?」

「堂々としてりゃあいいんだよ」

そう言うと、父はいつも通りに新聞を読み始めた。

「堂々って・・・」

すずは再び頭を悩ませた。


翌日父のアドバイスに従って、堂々とすべく校門で大吾を待ち構えた。

あと少しで授業のチャイムが鳴るという段階で大吾がやってきた。

「おはよ」

「お前、ここで何してんだよ」

「大吾を待ってたんだけど」

「は?また噂されるだろ」

「いや、もう噂にさせないから」

そう言って、すずは大吾の手を握った。

「え?は?え?」

予想外の行動に戸惑ったのか大吾はすずの手を握ったまま教室に入った。

クラスメイトはあまりの堂々っぷりに、誰一人騒がず静かになった。


(ここだ―)


「見ての通りだから、しょうもない噂たてないでくれる?気になるなら直接聞いてきて。色々教えてあげるわよ」


そう言ってすずが席に座ると、大吾も驚きながらも席についた。

高校時代の私はこんなことが出来るタイプではなかった。

社会に出て、自分を強く見せることや意見を言うことの大切さを知り、経験を積み重ねたおかげだ。

とはいえ、本当は心臓はバクバクしている。

それを誤魔化すように涼し気な顔を作っていると、授業開始のチャイムが鳴り、事情を何も知らない担任が教室に入ってきて、いつも通り授業が始まった。


「お前、何考えてんだよ」

放課後、図書館に向かっていると、大吾が声をかけてきた。

「何って、噂されないようにしただけ。あれだけ堂々としたら、陰で言いようがないでしょ」

「いやいやいや、あれは誤解をうむだろう?俺ら付き合ってないし」

「まぁ、今はね」

「今はって・・・」

「とにかく!あそこまでやったらもう後戻りはできないから。私を避けるのは止めて」

「避けたりなんか」

「今度避けたりして距離ができたら、別れたんじゃないかって噂になるよ?いいの?それに私なら大吾を志望校に受からせてみせるよ」

ぐっと言葉につまった大吾に「図書館に行くよ」とすずは手を差し出した。


「・・・お前って変わってるよな」


「最高の誉め言葉ありがとう」


「・・・お前には勝てねぇわ」

大吾はすずの手を握った。

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