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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
10/19

雨の日のこと


窓の外を見ると、雨が降っている。

昨日はカンカン照りで暑かったが、今日は蒸し暑い。

汗で濡れたパジャマを着替え、一階に降りると朝食が準備されている。

父と妹はもう出ていったようだ。

妹が私より早く出ているなんて珍しいこともあるものだ。


「おはよう」

そう台所に声をかけると「おはよう」と母の声が聞こえた。

「今日も図書館行くんでしょ?」

そう言って母はおにぎりの入った袋を差し出した。

「ありがとう」

「受験勉強、頑張りなさいね」

母はにっこり笑うと、隣に座って「いただきます」と手を合わせてからご飯を食べ始めた。

これが当たり前の光景だったが、今は特別だ。


「ねぇ、お母さん」

「なに?」

「あのさ、今度母さんの煮物の作り方教えてくれない?」

「煮物の作り方?いいけど、今じゃなくてもいいんじゃない?受験勉強もあるんだし」

「息抜きに料理してみたいなって思ってさ」

大人になってからどうしても母の煮物が食べたくなって、何度も再現しようとしたが、上手くいかなかった。

教えてもらうのはいつでも大丈夫って思ってたから、料理を教えてもらったことがなかった。

あれほど後悔したことはない。

「そう。まぁ私としても手伝ってくれたらありがたいし、いいわよ」

「じゃあ今日少し早めに帰るから」

「わかった。でもちゃんと勉強はするのよ」

「うん」


「いってきまーす」

ご飯を食べ終わって着替えると、外に出た。

雨は少し小降りになっているようだ。

それでも道がぬかるんでいて気持ちいいものではない。

靴を汚さないように気を付けて歩く。


「ひゃ」


足元に気を取られて前を見ていなくて、誰かにぶつかった。

傘を少しぶつけただけで済んだが、ぶつかった男の人の背中が少し濡れてしまった。


「ごめんなさい!私、ちゃんと前見てなくて」

「別に・・・あ!」


振り返った男は、大吾だった。


「どうしてここに?」

「いや、別に雨だし、なんとなく・・・」

「迎えに来ようとしてくれたの?」

「いや、別に、たまたま?そう、たまたまだよ」

そう言って顔を逸らす大吾は、耳まで真っ赤だ。

「ありがとう」

「いや、だから別に迎えとかじゃねぇから」

「そう」

そう言ってクスクス笑うと、二人で図書館に向かって歩き始めた。

傘のせいで少し距離が遠い。

信号で立ち止まって水たまりをみると、赤い傘と黒い傘が並んで揺れている。


(そういえば、雨の日にデートしたことがあったな・・・)


■□■


「あちゃー」

空を見上げると、雨がかなり降ってきている。

今日に限って傘を持ってきていない。

家を出る時は曇りだったのでいけるだろうと思ったし、何より家を出るのに手間取って遅刻ギリギリの時間だったので、深く考えられなかった。

結果、この大雨だ。

デートの待ち合わせまであと10分くらいしかない。

ここから走れば10分でつけると思うが、この雨の中走れば服も化粧もめちゃくちゃになる。

仕方なく、どこかで待っておいてもらうと携帯を探す。

「・・・家だ」

充電器に携帯を差しっぱなしだったのを思い出した。

全く自分のそそっかしさにはため息がでる。


とにかく急いでコンビニで傘を買って向かうことにした。

コンビニで傘を買おうと並ぶが、今日に限って列が長い。

宅配便の依頼まであって、レジだけで15分もかかってしまった。

その間も雨は強くなっている。

さすがに大吾も帰るか、どこかカフェとかに入っているかもしれない。

でも携帯を持っていないので、連絡しようがない。

とりあえず傘をさして、急いで待ち合わせ場所に向かった。

こういう時に限って、待ち合わせを公園の時計台の下という屋根もないところで待ち合わせにしている。


公園に着いて、急いで時計台の方へ向かうと、人影が見える。

大吾が小さな赤い傘をさして、大吾が立っている。

近づいてみると、赤い小さな傘から身体がはみ出ていて、濡れてしまっている。


「大吾、ごめん」

「よかった・・・すずに何かあったのかと思った」

心底ほっとした顔で、すずの頭をぽんぽんとなでた。

「ほんとに待たせてごめん!!それで、その傘・・・?」

「あー、これ?親戚の子供が忘れた傘。寝坊して慌てて家出ちゃって。その時に掴んだ傘がこれだった」

恥ずかしそうに笑って、「そっちにいれて」とすずの傘へ収まった。

「コンビニで傘買ったりしなかったの?」


「遅刻しそうだったからさ。すずが俺を待つ間に濡れてたら嫌だし・・・待ち合わせ場所変えたかったけど、携帯忘れちゃってさ」


すずは、大吾の腕に自分の腕をからませて、ぴたりとくっついた。


「俺濡れてるから、そんなくっついたら」

「いいの」

ぎゅっと大吾の腕を抱きしめた。

「・・・雨も悪くないな」

耳まで赤くしながら、大吾がぼそっとつぶやいた。


■□■


「すず?」

大吾が怪訝な顔をしてみている。

「あ、別に。大丈夫」

すずは何でもないというように大吾に笑顔を向けた。

信号が青に変わった。


「ここが、こうで、そう。で、こっちに当てはめると・・・」

大吾の眉間のしわはどんどん深く刻まれていく。

「ムズい」

「でも橋作るのに数学は絶対いると思うよ」

「・・・もう1回教えてくれ」

「えっと、だからこっちにこの公式当てはめて、要はこの問題はこの前の問題の応用になってて」

「じゃあ、こうで、こうか?」

「そう!すごいじゃん」

思わず大きな声が出て、口をふさぐ。

本を読んでいる人たちがこちらを見ていて、気まずい。

「ごめん」

「いや、俺も解けて嬉しかったし」

そう言って大吾は次の問題に取り組み始めた。

数学と理科を何とかもう少し伸ばすことが出来れば、間に合うかもしれない。

大吾が解き始めたのを見届けると、自分のに苦手な英語に取り組み始めた。


図書館を出ると、雨はすっかり上がっている。

「雨やんでるね」

「そうだな」

「よかった~雨だと帰りづらいもんね」

「・・・まぁな」

大吾がほんの少し不服そうな顔をしている。

そんな顔が可愛らしい。


バン!

ビニール傘を広げる。

「雨も降ってないのに何やってんだよ?」

「いいじゃん、入って」

大吾を無理矢理に傘の中に入れると歩き始めた。


「雨も悪くないよね」

「なんだよ、それ。ってか、雨降ってないし」

恥ずかしそうにしながらも口元が緩んでいる。


例え夢の中だとしても、この幸せな時間が続けばいい。


「おい、赤だ」

大吾に言われて信号を見ると、赤色に変わっていた。

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