最終章 朝を定義する者
世界は、
誰かが決めなければならない。
朝があるのか。
夜だけでいいのか。
あるいは――
その間に、
居場所はあるのか。
夜明会の塔。
都市の中心。
最も高く、
最も暗い場所。
ユウは、
そこに立っていた。
戦争は、
終わっていない。
だが、
結論は、
もう出ていた。
ミオは、
彼の隣にいる。
彼女の顔には、
疲労と、
覚悟があった。
「ここまで来たら、
もう止まれない」
「ええ」
ユウは、
静かに答える。
「止めるつもりも、
ない」
塔の最上階。
ハルカが、
待っていた。
「来たね」
「境界の子」
背後には、
制御装置。
《ノクス・コア》。
夜を、
永続させるための
最終装置。
「これを止めれば、
朝が来る」
ハルカが言う。
「完全な朝が」
「夜は、
終わる」
「……違う」
ユウは、
首を振った。
「朝か夜か、
その二択が
間違ってる」
彼は、
一歩前に出る。
床に、
影が伸びる。
同時に、
淡い光が
足元を照らす。
「夜は、
守るためにあった」
「朝は、
生きるためにある」
「どっちも、
人に必要だ」
ハルカは、
静かに笑った。
「理想論だ」
「人は、
矛盾に
耐えられない」
「耐えられる」
ユウは、
断言した。
「“選ばされる”から
壊れるんだ」
彼は、
胸に手を当てる。
痛みは、
もうない。
代わりに、
静かな確信がある。
「俺が、
定義になる」
ノクス・コアが、
暴走を始める。
警報。
塔が、
揺れる。
ミオが、
叫ぶ。
「ユウ!
それをやったら――」
「知ってる」
彼は、
振り返らない。
「俺は、
“人間”を
やめる」
光と影が、
完全に重なる。
朝でも、
夜でもない。
第三の定義。
都市全体に、
変化が走る。
夜は、
消えない。
だが、
固定されなくなる。
朝は、
訪れる。
だが、
支配しない。
人々は、
目を覚ます。
ある者は、
夜の中で
柔らかな光を見る。
ある者は、
朝の中に
安らぐ影を見つける。
ノクス・ガードは、
動かなくなる。
命令が、
存在しない。
ハルカは、
膝をついた。
「……負けた、のね」
「いいえ」
ユウの声が、
どこからともなく
響く。
「あなたも、
救われた」
彼の姿は、
もうない。
塔の中心に、
人影はない。
ただ。
夜と朝が、
自然に
呼吸する世界。
ミオは、
空を見上げた。
涙が、
こぼれる。
「……ばか」
「でも……
ありがとう」
世界は、
再定義された。
誰かが、
支配する朝でもない。
誰かが、
縛る夜でもない。
人が、
選び続けられる世界。
最後に。
都市の片隅。
一人の子どもが、
影を踏みながら
歩いている。
空は、
ほんのり
明るい。
「……きれい」
その声は、
誰にも
命じられていない。
それが、
新しい世界の
証明だった。
完




