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サンライズ・コード ――夜明けを奪還せよ  作者: 波浪


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第七章 境界に立つ者

朝と夜の間に、

立ってはいけない場所がある。


そこに立った者は、

どちらにも戻れない。


拠点は、

移動を余儀なくされていた。


夜明会の索敵網は、

想像以上に早く、

そして正確だった。


「このルートも、

三時間以内に

塞がれる」


ミオが、

地図を切り替える。


「……逃げ続けるのは

無理ね」


ユウは、

黙って聞いていた。


自分の足音が、

やけに遠く感じる。


歩くたびに、

世界との“距離”が

ずれていく。


人の声が、

少し遅れて届く。


空気の温度が、

肌ではなく、

内側で分かる。


「……俺、

ちゃんと

ここにいる?」


思わず、

口に出た。


ミオが、

足を止める。


「ユウ」


彼女は、

真っ直ぐ

彼を見る。


「それ、

“変質”の

初期症状よ」


変質。


それは、

夜明会が

最も恐れ、

同時に

密かに研究してきた現象。


人が、

世界の定義そのものに

近づきすぎた時に起きる。


「あなたは今、

“人間”より

少し外側に

立ってる」


「朝でも、

夜でもない」


「……境界」


ユウは、

苦笑した。


「ヒーローでも、

怪物でもなく?」


「どちらにも

なれる」


ミオは、

静かに答えた。


「だから、

危険なの」


夜。


一行は、

地下鉄跡に

身を潜めていた。


仲間たち――

元技師、

元教師、

元警備員。


誰もが、

不安を

隠しきれていない。


視線は、

自然と

ユウに集まる。


希望。

恐怖。

疑念。


すべてが、

混ざった目。


「……俺が

いると、

危ないよな」


ユウが言う。


空気が、

凍る。


「夜明会は、

俺を

“起点”だと

言ってる」


「正しい」


「だから――」


「やめて」


ミオの声が、

強く遮った。


「“自分を切り離せば

解決する”って

考え方」


「それ、

夜明会と

同じ論理よ」


沈黙。


やがて、

一人の男が

口を開いた。


「……だが」


「正直に言う」


「俺たちは、

普通の人間だ」


「お前が

何者になりつつあるのか、

分からない」


別の声。


「でも、

あの時」


「ノクス・ガードを

止めたのは

彼だ」


意見は、

割れる。


境界は、

ユウの中だけでなく、

集団の中にも

生まれていた。


その夜。


ユウは、

一人で

地上へ出た。


夜と朝が、

混ざった空。


都市の輪郭が、

わずかに

歪んで見える。


「……俺は、

誰なんだ」


問いは、

虚空に

溶ける。


「その問いに

答えを出すには、

遅すぎる」


背後から、

声。


振り返る。


ハルカだった。


「……司祭」


「久しぶりだね、

“起点”」


彼女は、

銃を持っていない。


それが、

逆に

恐ろしかった。


「迎えに来た」


「正確には、

見極めに」


「殺しに

来たんじゃないのか」


ユウが問う。


ハルカは、

微笑んだ。


「殺す?」


「違う」


「完成させる」


彼女は、

一歩近づく。


「君は、

私たちが

ずっと作ろうとした存在だ」


「夜を守るための、

“朝を内包した器”」


ミオの言葉が、

頭をよぎる。


――研究してきた。


ユウは、

息を飲む。


「……ミオも?」


ハルカの視線が、

一瞬だけ

揺れた。


「……彼女は、

優秀だった」


「だが、

失敗作だ」


次の瞬間。


ユウの視界が、

赤く染まった。


怒りが、

形になる。


空間が、

軋む。


「……言うな」


声が、

低くなる。


足元に、

影と光が

同時に揺れる。


「彼女を、

道具みたいに

言うな」


ハルカは、

笑った。


恐怖ではなく、

歓喜の笑み。


「ほら」


「もう、

人間の怒りじゃない」


遠くで、

警報。


夜明会部隊が、

迫っている。


ミオの声が、

通信に割り込む。


「ユウ!

戻って!」


ユウは、

一瞬

迷った。


ハルカを見る。

ミオの声を聞く。


夜。

朝。


人間。

象徴。


そして、

選んだ。


ハルカに背を向け、

走り出す。


「……今日は、

完成しない」


彼は、

言った。


地下へ。


仲間の元へ。


だが。


走る背中が、

少しだけ

透けていることに、

ユウ自身は

気づいていなかった。


境界に立つ者は、

選び続けなければならない。


止まれば、

“定義”に

呑まれる。


夜明会は、

確信した。


ユウは、

兵器ではない。


災厄でもない。


――革命だ。

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