第一章 夜しか知らない少年
少年は、
「朝」という言葉を
映像でしか知らなかった。
都市第七層、
永久夜区画。
空は、
いつも紫がかった黒。
街灯とホログラム広告が、
昼の代わりだった。
少年の名は
ユウ・カミヤ。
十七歳。
夜明け消失後に生まれた、
いわゆる「夜世代」だ。
ユウは、
旧世界のデータ修復を仕事にしていた。
正確には、
違法データサルベージャー。
政府が封印した
「朝の記録」を、
こっそり掘り起こす。
理由は、
金でも反抗心でもない。
ただ――
知りたかった。
なぜ、
人々は朝を恋しがるのか。
「……これも、違うか」
暗い部屋で、
古い記録映像を閉じる。
そこに映っていたのは、
太陽。
雲。
鳥。
どれも、
ユウにとっては
“現実味のない幻想”だった。
「眩しそうだな……」
目を細める。
見たこともないのに、
なぜか胸が
少し痛んだ。
その時。
部屋の通信端末が、
警告音を鳴らした。
【未登録信号 受信】
「……誰だ?」
次の瞬間、
画面に映ったのは――
白い光だった。
ノイズの向こうで、
誰かが言う。
「ユウ・カミヤだな」
低く、
だがはっきりした声。
「違法サルベージの腕を
買われたと思え」
「拒否権は?」
「ない」
ユウは、
息を呑む。
こういう連絡は、
ろくなことにならない。
だが。
次の一言で、
全てが変わった。
「本物の朝を、
見たくはないか?」
画面に、
一枚の画像が映し出される。
それは――
ユウが今まで見た
どんな映像よりも
鮮明だった。
雲を割る光。
地平線から溢れる黄金。
作り物じゃない。
加工でもない。
現実の朝だ。
喉が、
震えた。
「……どこだ、これ」
一瞬の沈黙。
「サンライズ・ポイント」
「そして――
君には、
世界を朝へ戻す
“鍵”がある」
通信が切れる。
部屋は、
再び夜に包まれた。
だが。
ユウの胸の奥で、
何かが確かに
灯っていた。
それは、
まだ誰も見たことのない――
夜明け前の光だった。




