8.迷い猫ハチ
「そう言えば今更ですけど、ミケさんって人間と同じもの食べて大丈夫なんですか?」
素朴な疑問だった。
人間用の食べ物は基本的に動物には食べさせてはいけないのに、ミケは普通に食べているから。
「アンタ、オレのこと普通の猫と同じように考えてないか?」
「違うの?」
「違えーよ」
ミケが言うには猫とは言えあやかしは普通の猫の食事とは異なるらしい。
だから油ものや味の濃いものだって食べられる、と。
「なんなら猫のあやかしは油好きが多いぞ。あと魚より肉を好む奴の方が多い気がするな」
「そうなんだ。なんか意外だなぁ。猫と言えば魚ってイメージあったから」
お魚くわえた猫を追いかけるという歌が頭の中に流れる。
あれで魚好きというイメージが固まっていたけれど、どうやらお肉も好かれているらしい。
「そうか? まあ個体で好物なんて変わるだろ。それよりも腹ごしらえ終わったら行くぞ」
「あ、うん。ちょっと待ってね。……あれ?」
ふとお店の壁に目がとまる。
そこには手作りっぽいチラシが貼られていた。
『迷い猫、探しています!
名前:ハチ
性別:メス
年齢:2歳
特徴:キジトラでカギしっぽです
見つけた方はこちらまでご連絡ください。
TEL:○○-○○○○ 飼い主:赤堀
ささやかながら、お礼もございます』
「ハチちゃんのポスターだ。どれどれ」
ポスターには写真も添付されていた。
どうやらハチは茶色よりも黒寄りの毛色をしているらしい。
カギ尻尾も先端だけこぶ状になっており、先端が黒、後は縞模様だ。
そして首元に赤い首輪が付けられているのも見て取れる。
(……赤)
紡生は一瞬だけ止まったがすぐに頭を振って再びポスターを見つめた。
今はハチの見た目の情報をできるだけ仕入れておきたい。
「目がグリーン系の子なんだね。顔もシュッとしていて美猫さんだなぁ」
「その子に見覚えが?」
「え?」
突然店の奥から声が掛けられた。
視線を向けると「肉の赤堀」と書かれたエプロンを着た五十代くらいのおば様が出てくるところだった。
「突然ごめんね。ポスターを見てくれていたから気になって。あたしは赤堀。ここの店主さ。……それで、もしその子に見覚えとかがあったら聞かせてほしいんだけど」
「あ、いや。えっと……」
赤堀は期待のこもった目で紡生の元へとやってきた。
紡生がポスターを食い入るように見ていたから、もしかしたら見かけたのかもと思わせてしまったようだ。
「すみません、見かけてはいないんですけど……あれ?」
ちらりと隣へ視線を向けると、そこにミケはいなかった。
どこへ消えたかと辺りを見回せば、なんと店から遠く離れた場所であくびをかましているではないか。
(しかも口パクで早くしろって言っていない? ウソでしょ?)
情報はそろったから早く次に行くぞと言いたげである。
とはいえ話しかけられているのに無視するわけにもいかない。
紡生は少しだけ話すことにした。
「ええと、すみません。私、こういうポスターがあるとつい見ちゃって」
「あら、そうなの」
「ごめんなさい。期待させてしまいましたよね」
「いえ、大丈夫よ。気にかけてくれるだけで嬉しいわ」
眉を下げれば赤堀はニカリと笑った。
気前がよく話しやすい奥さんという印象だ。
「脱走しちゃったのって最近なんですか?」
「そうなの。洗濯をしているときにチャイムが鳴ってね。いつもは窓閉めてから出ていくのだけど……その時はそのまま行っちゃって。戻ってきたらハチがいなくなっているのに気が付いて……。不注意だったわ」
徐々に言葉尻がしぼんでいった。
自分の不注意で愛猫を危険にさらしてしまっている現状に心を痛めていることがよくわかる。
よくよく見ればその目元にもうっすらと隈ができているし、心配のあまり眠れていないらしい。
「……あの、大丈夫ですか?」
「あらやだ。気を遣わせちゃった? ごめんなさいね」
紡生の言葉にハッとした様子の赤堀は慌てて笑みを作った。
「大丈夫よ。猫社にもお参りしたし、きっとそのうち帰ってきてくれるわ。知っているかしら、商店街の先にある小さな神社なんだけど」
「あ、えっとはい。私も猫社にお世話になった事あるので」
お世話になったというか現在進行形で所属しているのだけど、それはいう必要はないだろう。
コムギの話だけをすれば、赤堀はパッと顔を明るくした。
「あらそうだったの! あなたの猫ちゃんは帰ってきた?」
「ええ、無事に帰ってきてくれました。自分で探し回っても見つけられなかったんですけど、お参りしたらすぐに帰ってきてくれたんです」
「それはよかったわね! あそこは猫飼い界隈では結構有名だものね」
「はい! だからハチちゃんもきっとすぐに帰ってきますよ! きっと大丈夫です」
「……そうよね。きっと大丈夫」
ニコリとほほえめば赤堀はぐっとこらえた表情になった。
恐らく赤堀はハチがいなくなってから自分を責め続けているのだろう。
愛猫を危険にさらしてしまった罪悪感と心配ばかりが心を占めているのだ。
その気持ちは痛いほどよくわかる。
赤堀を見ていると余計に早く見つけてあげたいという気持ちが湧いてきた。
「そんな顔しないでください。私も探してみますから!」
「……ありがとう。なにかあったらここに電話をくれると嬉しいわ」
元気づけるように明るく言えば、赤堀もニコリと笑った。
紡生は店に貼ってあったポスターを一枚貰い、気合を入れて店を出た。
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