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猫とのご縁、おつなぎします。~『あわせ屋』ミケさんと猫社の管理人~  作者: 香散見 羽弥@コミカライズ版『夜の聖女』7/17配信開始!


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7.デリカシーは家出中


「……あの」

「なんだ」

「もうちょっとゆっくり歩いてもらってもいいですか?」

「っち」



 こちらを振り返ったミケは露骨(ろこつ)に嫌そうな顔をして足を止めた。

 その間に開いてしまった距離を走っていく。



「遅い」

「そうはいってもしょうがないじゃないですか」



 追いついた紡生(つむき)は少しだけ(くちびる)をとがらせてミケを見上げた。



「これだけ身長差があるんだからさぁ……。一歩の長さが違うんですよ」



 見た所人型のミケは一八〇センチくらいある。それに対して紡生は一五〇センチ程度しかない。


 そりゃあ足の長さも違う。つまりは一歩で進む距離が違う。

 だから歩く速度が違うのは当然のことなのだ。


 そう言うと、ミケは紡生をまじまじと見つめた。



「な、なに?」



 頭の先からつま先までを舐めるように見られ、ドキリと心臓が跳ねる。

 美形に見つめられるという体験をしたことがなかった紡生は、思わずどぎまぎしてしまった。



「……確かに、マンチカンみたいだな」

「はあ!?」



 マンチカンって、あのマンチカン!?

 さすがにそこまで短くないけど!?


 流石にカチンと来た。ドキドキを返せ。

 そう思って腕をバシバシと叩く。



「なんだよ。アンタが言い出したことだろ」

「そうだけど! それでも言っていいことと悪いことがあるでしょう!?」



 マンチカンはない。可愛いけれど、ない。

 足の長さの話でそれを出すのはかなり失礼だと思う。デリカシーはないのだろうか。



「じゃあちんちくりん」

「……ケンカ売ってます?」



 頷かれたのでシバいておいた。

 どうやらデリカシーは家出してしまったらしい。



「はあ、まあいいや。……それで、今日探す猫ちゃんってあそこの子なんですよね?」

「ああ」



 二人が見つめる先には昔ながらの肉屋さんがあった。

 あわせ屋のある商店街の表通り、その入り口付近の店だ。


 お昼時だからか、店からは油ものの良い香りが漂ってきている。

 コロッケやハムカツなどの総菜を揚げているのだろう。お腹を刺激する香ばしい香りだ。



「一応言っておくが、アンタと組んでるのは仕方がなしにだからな。足を引っ張んじゃねーぞ」

「そんなこと言われなくても分かってますよ」

「どうだか……さて」



 ミケはこちらを振り返ると、いかにも仕方がなくと言った様子で仕事の概要を話しだした。



「ターゲットは『ハチ』。長年猫社に参拝している『肉の赤堀』の猫だ。キジトラで頭に眉毛のように八の字の模様があるってんで、ハチらしい。完全室内外だったが二日前に脱走したようだ。まずは脱走した経路が探れないかと思ってここに来たんだが……これだけいろいろな匂いが混じってると辿るのは難しそうだな」


「……ちょっと気になっていたんですけど、そういう情報ってどうやって知るんですか?」

「んなもん、普通探してほしいやつのことは相手に伝えるだろ?」

「あ、そっか」



 直接話していないのにアメがコムギのことを知っていたのを思い出す。

 どうやら猫社に祈ったことは神様、つまりアメに伝わっているようだ。



「まあ基本的なことくらいしか伝わってこないから、こうして他の手がかりを探しに行かないといけないんだけどな」

「なるほど。確かにキジトラちゃんってだけじゃ分からないですもんね。八の字みたいな模様のある子もいっぱいいるし、日本で一番多い模様だったはずだし」

「へえ。よく知ってるな」



 意外そうに目を丸くするミケに、得意げな顔になる。



「大学で習いました。獣医師になりたくて獣医学部のある大学を選んだんです」

「ふーん。獣医ね」

「はい! うちの家系、動物関係の仕事に就く人が多くて。両親もですし、いとこの姉なんて若いのに自分の病院まで開いてるんです! 小さいころからよく出入りしてたこともあって、動物にはちょっと詳しいんですよ!」

「ふーん……ふわぁ」



 むんっと胸を張った紡生に対して、ミケは興味なさそうにあくびをかましてきた。



「…………興味ないなら聞かないでくださいよ」

「別に、アンタが勝手に話し始めただけだ。興味があるだなんて言ってない」

「それはそうですけど……。もう、屁理屈(へりくつ)ばっかりなんだから」



 紡生の非難めいた視線にも動じずに、ミケはもう一度あくびをかました。



「さて、と。匂いは辿れなさそうだし、ここにいても仕方がないな。とりあえず次のところに……」



 ――ぐうううう



「……」

「……」



 ミケの言葉を遮って、盛大なお腹の音が響いた。

 慌てて押さえるもばっちり聞かれてしまったらしい。


 足を引っ張るなと言ったはずだという目線が突き刺さった。



「し、仕方ないじゃない! 朝からずっと神社の掃除をしていたんだからっ! これだけおいしそうな匂いを嗅いだらお腹もなるってもんでしょ!?」

「なんも言ってないだろ」

「うそ! 目が物語ってるもん!」



 ――キュルルルル



 もう一度大きな音をたてた。



「うわああ! もうやだぁ!」



 紡生は熱をもつ顔を両手で覆ってしゃがみ込んだ。

 絶対にバカにされる。そんでもって事あることに笑われるに決まっているんだ。



「……はあ、ったく」



 恥ずかしくて上を向けないでいると、ミケが遠ざかっていく気配がする。

 呆れられて置いていかれるのかもしれない。



 と思っていると、少ししてからふいに良い匂いが近づいてくる。

 香りにつられて顔をあげると、そっぽを向いたミケがコロッケをこちらに突き出しているではないか。



「え? これ……」



 意図が分からずミケとコロッケを交互に見ると、不機嫌そうに眉を顰められた。



「……なんだ。いらないなら食うけど」


 どうやら買ってきてくれたらしい。

 そんなことをしてくれるとは思っていなかったので理解が遅れてしまったが、慌てて受けとった。


「い、いる! いただきます! ありがとう、ミケさん!」

「……別に。自分のを買うついでだし、ずっと腹を鳴らされ続けたら仕事にならねえと思っただけだ」



 ミケはぷいっと顔を反らし、自分の分のコロッケにかぶりついた。

 紡生も貰ったコロッケに目を移す。


 きつね色の衣が陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 たまらず一口かぶりつくと、サクサクとした衣に包まれた柔らかく口当たりの滑らかな芋が解けるように広がっていく。

 味付けはシンプルに塩コショウだけっぽいのに、噛めば噛むほど甘さが際立つ。

 香ばしさもさることながら、芋の甘みと、お肉の甘みが絶妙に絡み合っていて……



「おいしい!」



 このコロッケなら何個でも食べられる気がする。

 そう言えばミケは満足そうに笑った。



「ここのはオレも気に入ってる。唐揚げもここのが一番だな」



 どうやら「肉の赤堀」の総菜が好物らしく、お気に入りの店が褒められたのが嬉しかったようだ。



(可愛いところあるじゃん)



 おそらく素直になれないだけで、根っこの部分まではひねくれてはいないのだろう。

 紡生はなんだかほほえましくなって笑ってしまった。



「なんだ」

「いえ別に」



 いけない。そんなことを言ったらまたへそを曲げられてしまう。

 紡生はこみ上げてくる笑みをごまかすようにコロッケをほおばった。


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