31.アメの責任
大粒の雨が降り続く中、紡生は神余につれられて猫社までやってきた。
社の中ではアメが真剣な表情で床に広がった資料に目を落としていたが、紡生に気がつくとぎょっとなり駆け寄ってくる。
「紡生ちゃん!? ど、どうして!?」
「僕もまだ詳しくは聞いていないけれど、犯人とエンカウントしていたから連れてきたよぉ」
「犯人と!? え、ちょっとまって。紡生ちゃんなんで一人? ミケは!?」
ミケの名に、胸がズキリと痛んだ。
予想外に犯人と接触した恐怖で忘れていたけれど、そう言えばミケには……。
「……いらないって、言われました」
「へ?」
「足手まといだって。私のこれはただのエゴだって」
思わず乾いた笑いが出てしまった。
でもそう言われても仕方がない。
だって実際、ミケの言うことは正しかった。
紡生には何もできなかったのだ。
犯人を捕まえられないかといいながら、犯人に会っても捕まえるどころか証拠すら取れなかった。
神余に助けてもらえなければどうなっていかすら分からない。
本当に滑稽だ。
自分には何もできないくせに、それでもなにかしたいと望んでしまうなんて。
こんなの、エゴだなんだという以前の問題ではないか。
「……幻滅されて当然だ」
あわせ屋に誘われたとき、自分にもなにかできると言われたようで嬉しかった。
飼い主たちにお礼を言われ、猫と人を繋ぐことができると実感した。
でもそれは、結局のところ自分の力ではない。
アメのように縁を辿ってあげることも、ミケのように猫から情報を得ることも、紡生にはできない。
情けなくて、不甲斐なくて、涙が滲んでくる。
それでも奥歯を噛みしめて耐えてみせた。
涙を流すのも、反省するのも後だ。
今はそれどころじゃないのだから。
紡生は顔を上げ、話を進めようと口を開いた。
「公園にいたら偶然、黒い袋を持ったあの人を見かけて」
「それで追いかけた、と」
「はい。駅前の作りかけで放置されているビルってわかりますか? あそこの三階まで行ったんですけど……」
そこで見たものを思い出し顔を顰めた。
酷いありさまだった。
台の上に無造作に寝かされた猫と、転がるケージ。
不衛生な臭いが満ちているそこでは、到底まともな飼育がされている訳もない。
むしろ害すためだけに作られた様な場所だった。
それこそあそこで毒を与えているかのような――。
「昨日見つけた猫に毒を盛ったのも、あの人なんでしょうか」
「…………まさか、現場を見たの?」
「……ちゃんとは見えなかったけど、猫を台の上に乗せるところまでは」
「そう……」
控えめに答えれば、アメは深いため息をついた。
「ごめんなさい紡生ちゃん。あたしの責任だわ」
「ええ!?」
ガバリと頭を下げられ、慌てて止めに入る。
「や、やめてください! なんでアメちゃんがそんな……」
「危険な目にあわせてしまったからよ」
「危険な目にって……今日のは私の完全自業自得ですけど!?」
「いいえ。元をたどればあたしのせいだよ。貴女をあわせ屋に引き込んだのはあたしだから」
アメは悔しそうに眉を寄せた。
「あわせ屋に入らなければきっと犯人とも会わずに済んだ。もっと注意すべきだったのに……」
「な、なに言って……?」
いまいち話が見えない。
アメはいったい、何に対して謝っているのだろう。
助けを求めて神余を見れば困ったように眉を下げて頬を掻いた。
「アメちゃん、順を追って説明しないと分からないよぉ」
「……そうね」
アメは下げていた頭をようやくあげて、じっと紡生を見つめた。
「説明するわ。一から全部」




