1:暇じゃないと言えば暇じゃな
見渡すかぎりの小麦畑を兄さんと追いかけっこする――。
俺も将来、大人になったら子供たちのそんな姿を眺め、あの頃を思い出すのだろう……。
そう思っていたが、そんな……当たり前だと思っていた日々は来なかった。
今や俺らが育った故郷は焼け野原。
魔獣の血がたっぷり染み込んだ土壌では、もう作物が育つ兆しはなく。
何年かすれば、ただの荒野と化すだろう。
生活圏を失った俺らは魔獣たちが好んで立ち入らない樹海に移り住み、狩りを覚えた。
それから三百年――――。
長命になった俺らのことを、元同種の人間たちは『アナザーエルフ』と呼んだ。
おそらく生活した環境による後天的なものだろうが、基本的な考え方は人間種と何ら変わらない。
そして、気長なエルフとは違い、俺らは群れを作らない。いや、作れなくなったと言った方が正しいか。
親兄弟とはいえ、百年以上もの期間――共に生活すると、肉親という感覚は薄れ、他人のうちの一人にしか見れず。小さないざこざで縁を切っていった。
また、老えずに長生きすることはその分、無駄に哲学的なことを考えるようになるようで。
何人もの仲間たちが精神を病み――命を絶った。
実際に俺も――。誰よりも早く精神を三度病み、生きる意味など無くし。自分が今日死んだ所でこの世界には何の影響もない家の中を這いまわる蜘蛛となんら変わらないことを悟ったが。
……他の誰よりも『生きる』とは何かを理解しているのではないかと思う。
まあ、アナザーエルフ含め人間たちとは三十年以上会ってないから、単に俺の思い上がりに過ぎないかもしれないがな。
そんなある日――。
俺のテリトリーに一人の娘っ子が迷い込んで来た。
彼女の名前は「ミア」。
樹海の守り主『ジャッジアイズボア』に追われている所を助けてやったが、その幼女は自分の事を千年以上生きる――樹海の魔女だと誇らしげに言った。
「あっそ」
「あっそとはなんじゃ、あっそとは――ッ! もっと何かあるじゃろ! 樹海の女神が目の前におるんじゃぞ!」
「いやいや、数秒前に魔女言ってたし。弱いんだから、あんなのにもう手出しすんじゃねーぞ」
それが、自分の事を間接的に『可愛い』と言いたげなミアとの出会いだった。
それかというもの――。ミアは毎日のように俺の家に来た。
「暇なのか?」
「まあ~暇といえば暇だし、暇じゃないといえば暇じゃな」
「暇なんじゃねえかよ」
「まあまあそんな事よりアナエル、せっかく遊びに来てやったんじゃ。さっさと茶の一つでも出さんか、わしは客人じゃぞ」
「へいへい」と言いながら、いつものようにエレメンタルオーガハーブを木箱から出そうとした時だった。
「あ、いつもの空だわ」
「なぬ――――ッ!?」
お絵描きセットを広げたミアは大きな目を見開き、「どうすんの?」と訴えているように見えた。
面倒だが、採りに行くしかない……そして。




