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チャプター7

 一天にわかにかき曇り、ギルド前の広場が常闇の森と同じような暗がりになる。この闇こそドラコンダのテリトリーであり、最も力を発揮できる環境なのだ。今やドラコンダそのものになった私は、そんなことまで知っている。


「ちょいちょいちょいちょい! これヤバくね? なんでドラコンダがこんな所に出て来るんだし!?」


 先程まで勝ち誇っていた戦士が慌てている。彼女に縋りつかれた僧侶も、私を締め上げていた時の余裕が嘘のように張り詰めた面持ちだ。


「……あれはただのドラコンダではありません。秘法により人間が化身した姿。危険性は比べ物になりません」


「マジで!? ヤバ!!」


 天を突くような竜蛇になってみると、周りの様子が俯瞰できて良い。深刻そうに話し合う二人を通り越して、私の目は後ろで怯えるイサムくんを見ていた。待っててね。すぐ片付けるから。


「とにかく手加減は無用です。大技で一気に決めてください」


「りょ〜かい!!」


 僧侶の指示を受け、戦士が突っ込んで来た。武器は再び戦斧にチェンジ。空中に飛び上がってコマのように回転し、勢いを増した斬撃を私の胴体に叩き込む。


千人斬(せんにんざん)!!」


 掛け声一閃、凄まじい衝撃音と共に斧が鱗とぶつかる。並みの魔物ならひとたまりもないだろうが、残念ながら私の鱗は鋼に等しい強度を持っている。砕け散ったのは戦士の斧の方だった。


「そん、な……あり得なゴフッ!!」


 戦士が己の敗北を認識したのはほんの一瞬だった。私が無造作に振った尻尾が彼女の土手っ腹を打ち据え、体をくの字に折りながら無慈悲にも跳ね飛ばしたからだ。建物の壁を盛大に突き破り、戦士が沈黙する。


「なんてこと……!」


 仲間が一瞬で屠られるのを目の当たりにし、僧侶が戦慄する。そんなに期待しなくても次はお前だよ。


「くっ……イサム、わたくしの後ろに!」


 僧侶がイサムくんを庇って立つ。それと同時に、私は彼女に向かって猛烈な火炎を吐きかけた。


「報復よ在れ!」


 僧侶が光り輝く杖を振るうと、大きな円形をした光の壁が現れて火炎を遮った。更にその壁からは、私が吐いた火炎を押し戻そうとする斥力が働いている。なるほど、反射バリアーというわけか。


「うぐ……神よ!」


 力を振り絞り、僧侶は私の火炎を私へ送り返し続ける。しかし、私の炎耐性はそこいらの魔物の比ではない。我慢比べで勝てるものなら勝ってみろ。


「この……このっ、イカレ女あっ!!」


 そんな悲痛な叫びを最後に、僧侶の反射バリアーが弾け飛んだ。反動と爆炎に吹き飛ばされ、彼女もまた沈黙する。


 一人残されたイサムくんは、炎と黒煙の舞う中で剣を抜き、震える手でそれを構えた。私に立ち向かおうというのだろうか。でもね、イサムくん。キミが向いている方向にもう私は居ないんだ。


「こっち、だよ」


 僧侶を倒すと同時に私は変身を解き、元の人間に戻った。そして煙を隠れ蓑にイサムくんの背後に回ったのだ。


 そして今ちょうど、彼の首の後ろを包丁の柄で打ち据えたというわけ。


「“当て身”のスキル……攻撃対象の昏倒確率60%アップ、ねぇ」


 糸が切れた人形のように崩れ落ちるイサムくんを両手で抱き止め、私は微笑んだ。気を失った彼はどこか疲れて眠っているようでもあり……母性本能をくすぐられてしまう。


「ああ、やっぱ好きだなぁ」


 焼けて燻る広場の真ん中で、私はとうとう愛する彼を取り戻したのだった。


〜〜〜


 そこからはトントン拍子だった。


 騒ぎを聞きつけた兵隊が広場に駆けつけてどうしようかと思ったけど、またどこからともなく現れたマンジが馬車で私たちを連れ出してくれた。そして、最初に目覚めた常闇の森へと送ってくれたのだ。


「お主やイサムが通って来た空間の穴がまだ生きておったでな。そこに飛び込めば、元の世界に戻れるはずじゃ」


「うん、うん……マンジさん本当にありがとうね。もう何てお礼を言ったらいいのかわかんないや。こうして帰れるのも、あいつらに勝てたのも、全部マンジさんのおかげ!」


 何だか感極まってしまい、マンジの手を握る私。マンジは可笑しそうにエハハハと笑った。


「なんのなんの。ワシはただ“竜蛇の秘法”の威力を拝みたかっただけよ。それにしても、まさかポーチから出すことなく秘法を発動させてしまうとはな。全くお主は何から何まで前代未聞じゃわい」


「う〜ん、そうかなぁ」


 結局ポーチの操作方法は会得できなかったし、私はそんな大層なものじゃないと思うけどな。


「ヒヒヒ……まあ謙遜も美徳よな。さ、名残は尽きぬがそろそろ行くが良い。イサムともども達者でな」


「うん。それじゃあ、マンジさんも元気でね。バイバイ!」


 イサムくんを小脇に抱えたまま手を振り、私はワームホールに飛び込んだ。こうして私の冒険はハッピーエンドに終わったのである。


〜〜〜


 あれから数日。元の世界に戻った私は穏やかな日常を送っている。向こうで戦った時のように華麗には動けないし、蛇に変身することもない。イサムくんも部屋に戻ってくれたから、平和そのものだ。


 でも、私は思うんだよね。平和に慣れすぎると人はそのありがたみを忘れてしまう。イサムくんがくれる幸せに溺れるあまり、私は彼への感謝の心を忘れていたんじゃないかって。


 離れ離れになってみてわかったけど、元は他人同士だったふたりが一緒に暮らすってそれだけで特別なことだ。これからはイサムくんが隣に居てくれる幸せを噛み締めながら、もっともっと愛を育んでいかないとね。


 だから私は、今日は仕事帰りにケーキなんか買っちゃってる。私とイサムくんの絆が深まった記念日をお祝いするためだ。


「たっだいまぁ〜❤」


 有頂天で帰宅し、私はイサムくんの部屋のドアを開け放った。


「イサムくん良い子にしてたかなぁ❤❤ 今日はねぇ〜、一緒にケーキ食、べ……」


 が、そこには衝撃の光景が。


「……な、ななな、なんじゃこりゃああああああああああああああああ!?」


 なんと、彼の部屋には再びワームホールが出現していた。しかも厄介なことに今度は同じような穴が三つも並んでいる。当然イサムくんは居ないわけで、彼がどの穴を通ってどこに行ったのやら見当もつかない。捜索は絶望的だ。


「そっか……そうですかそうですか。あくまでも私から逃げようってわけですか」


 しかし、私のやることは変わらない。地の果てまで、異世界の果てまでも追いかけて、必ずイサムくんを連れ戻す。何度だってこの部屋に閉じ込めて、私の愛を伝えてあげるんだから。


 それでいつか、彼が思ってくれるといいな。自分はこの世界に居ていい。消える必要なんてないんだって。


「殺してでも連れ戻す!! ヤンデレ舐めんな!! おりゃああああああああああああああああああ!!!!」


 包丁を手に、穴へ飛び込む。私のクエストはまだまだ続きそうです。


《おわり…?》


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