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チャプター5

 受付嬢の語ったところによると、イサムくんは常闇の森近くを満身創痍で彷徨っていたのをクエスト帰りの冒険者に保護されたらしい。そして傷を癒したのち自分もギルド所属の冒険者となり、ユニークなスキルを武器にめきめきと頭角を現しているとのことだ。


 私としても、前々からイサムくんには特別な何かがあると思ってた。だからこそ、私のイサムくんが活躍するのは我が意を得たりという感じで、鼻が高くもあるんだけどさ。ひとつ巨大な問題があって……彼、パーティー(冒険隊)を組んでるらしいんだよね。それも彼を慕う女の子たちで構成されたパーティーを。


「イサムさんのハーレム……ゲフンゲフン失礼、イサムさんのパーティーはこのところ調子良いんですよ〜。今だって結構大きな討伐クエストに出ている所ですし、お戻りは夕方じゃないですかね」


 受付嬢のその言葉を聞いてからというもの、私はギルド前の広場に座り込んで待ち構えている。イサムくんが姿を現した時、万に一つも見逃さないようにだ。


「私というものがありながら他の女を囲って鼻の下伸ばしてるなんて……私を置いて異世界生活を謳歌してるなんて……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……」


 などとブツブツ呟きながらレンガで包丁を研いでいる私を、通行人がことごとく避けて行く。冷たい怒りをたぎらせること数時間。日も傾き空が赤らむ頃、とうとうその時が来た。


「……さない許さない許さない許さない許さない許さない……ハッ!」


 鼻腔をくすぐる大好きな匂いに私が顔を上げると、大通りの向こうから大好きな顔がやって来た。間違いない。間違えるはずもない。私のイサムくんだ。


「イサムくん……っ」


 凍てついていた私の胸に、熱いものが込み上げて来る。イサムくんに会えた。彼が無事だった。そのことが何より嬉しい。いつものスウェットの代わりに胴着とマントなんか身に着けちゃってるけど、なんだよ元気そうじゃん。


「イサムくぅ〜〜〜〜ん❤❤❤」


 怒りなど瞬時に忘れ、私は前のめりに立ち上がって彼へと駆け出した。愛しい彼を今すぐ両手で抱き締めるべく、もう包丁なんかかなぐり捨てようとしたんだけど……その時だった。


「ちょお〜っと待つし!」


 長柄の武器が横合いから顔を出し、私とイサムくんとの間に割り込んだ。


「誰だてめぇ? 見ない顔だけど、ウチらのイサムに気安く近寄んなし!」


 癖の強い喋り方で私を制したのは、鎧を纏った女の戦士だった。何となく知ってるよ。防具が硬そうで、でっかい武器を持ってるのは戦士って言うんでしょ。この女が持っているのは……大きな両刃を持つ戦斧。ゲーム風に言えばバトルアックスってやつか。


「私はイサムくんの恋人だよ。そこをどいて」


「こ、い、び、と、だぁ〜? なぁ、どう思うし?」


 戦士は私の返答に眉をひそめ、後ろに居る仲間の一人に水を向けた。それは、私たちの世界に居る西洋の聖職者を彷彿とさせる服と装身具に身を包んだ女だった。敢えて言うなれば僧侶ってところだろう。


「あり得ませんね。イサムは異界からの漂流者ですが、そこでは全くの天涯孤独。残して来た者は居ないと言っていました。彼女はイサムに一方的な執着を向けているに過ぎないか……或いはバサーク(狂乱)の魔法でも受けているのでしょう」


 呆れたような口調で僧侶が言う。その言葉を聞いて私は思わずイサムくんの顔を見た。


「イサムくん……そんな風に説明してたの? 本当に……?」


 イサムくんは何も言わない。戦士と僧侶の肩越しに私の方をチラリと見て、怯えたように目を伏せるだけだ。


「そう……それがキミの答えってわけ」


 正直、イサムくんがワームホールに消えた時点でわかっていた。彼が私を拒絶しているのだと。私の愛に守られながら生きることに嫌気が差して、何もかもリセットしたくなったのだと。そして彼はこの世界で自由になり、新しい女たちに守られている。


「……ははっ」


 予想してたことだけど……いざ突きつけられるとキツいな。私は自嘲的に笑った。


「おい、いつまで突っ立ってんだし! ウチらは忙しいんだから早く失せろし!」


 と、戦士が言って私に詰め寄ろうとした時、道の向こうから「お〜い!」と何者かが走って来た。


「みんな歩くの速いよぉ、討伐帰りなんだからもうちょっとゆっくり……って、うわあっ! なんか揉めてる!?」


 追いつくや否や驚きの声を上げたのは、つばの広いとんがり帽子を被った小柄な女だった。他の仲間と比べると軽装で、手には革表紙の本を携えている。体力で劣るあたり、さしずめ魔道士なのだろう。


「も〜、一般の人に絡んじゃ駄目だよぉ。一旦落ち着こ? ね?」


 仲裁の意図を感じさせる仕草で、魔道士は私と二人の間に割り込んだ。


「ごめんねぇお姉さん。ボクら三人でイサムを守っていくって決めたからさ、パーティーメンバーは募集してないんだ。この二人ってすぐ喧嘩腰になって本当に良くないんだけど、あのね、ただイサムのことが大好きで取られたくないだけなの。だから許しゲブッ」


 魔道士がそれを言い終えることはなかった。私が持っていた包丁で彼女の腹部のド真ん中を刺したからだ。


「カハッ……えっ……なんっ、で……」


 魔道士が口から血を吐き、開いた瞳孔で私を見る。構わず包丁を乱暴に引き抜いてやると、彼女は白目を剥いて膝から崩れ落ちる。その瞬間に僧侶が動いた。


「癒しよ在れ!」


 僧侶の手にした杖から光が発せられ、魔道士を包む。すると、内臓まで達するかという刺し傷が瞬く間に治癒した。どうやら回復の術をかけたようだ。


「てめぇ!! やろうってんだな……上等だし!!」


 意識を失った魔道士を抱きかかえ、戦士が吠える。僧侶もまた無言の怒りを燃やして臨戦態勢を取る。


 だから何だ? 私のやることは変わらない。イサムくんが自分の居るべき場所を忘れているのなら、はたまたこんなに彼を愛している私からも目を背けるのなら、この手でわからせるだけだ。例え彼自身に拒絶されたって、私の思いは揺るがない。


 まずは邪魔な女どもを片付ける。かくして戦いの火蓋は切られたのでした。


《つづく》


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