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海軍モノ

日本が早めの護衛船団用の艦艇を用意していたら

作者: 仲村千夏
掲載日:2025/09/16

 港の水面はまだ暗く、薄い霧が立ち込めていた。夜明け前の静寂に、僅かに波の音と係留索の軋む音が響く。護衛艦隊は、これからの長い航海を前に、最後の点検を行っていた。


「艦隊、各員確認。輸送艦列の間隔を守れ。護衛艦は中央、駆逐艦は左右と後方。空母は巡回哨戒機による上空監視に入る」

 艦隊司令の声が艦橋に届き、士官たちは緊張の面持ちで報告書や双眼鏡を手にする。護衛艦「霞」では、艦橋士官が海面をじっと見つめ、潮流や波の変化を読み取ろうと目を凝らしていた。


「司令、輸送艦列は全艦出揃いました。艦載機も整備完了です」

 副官の報告に、司令官は静かに頷く。


「よし、これより南方航路へ。潜水艦の接近に備え、警戒を怠るな」

「了解、司令。駆逐艦は左右警戒、護衛艦は中央を保持。空母の機体が上空から哨戒ですね」

「その通り。通信は艦隊間で必要最小限、静かに維持せよ」


 護衛空母「瑞風」の飛行甲板では、整備員が96式艦上攻撃機と戦闘機の最終確認を行っていた。滑走路の上で翼を揺らす複葉機たちは、朝の海風に乗り、ふわりと浮き上がる。戦闘機も次々に発艦し、輸送艦列を中心に防空・巡回の位置に就いた。


 甲板上には静かな緊張が漂う。整備員たちはエンジン音や機体の振動を感じ取りながら、パイロットたちが無事に上空哨戒に入れることを見守る。空母自体は静かに船団を先導しつつ、上空の目による警戒に全幅の信頼を寄せていた。


 旧式駆逐艦「春風」では、艦長がソナーを覗き込み、微かな振動を耳で感じ取ろうとしていた。

「おい、副官、まだ異常はないか?」

「艦長、今のところ海面に不穏な反応はありません。ただし初期型ソナーなので遠距離は不確実です」

「ならば、警戒をさらに強めよ。攻撃のタイミングを逃すな」


 海面は穏やかだが、霧が薄くなったり濃くなったりを繰り返し、視界の変化が気を抜けない状況を作る。護衛艦隊の列は整然と維持され、輸送艦はゆっくりと南方への航路を進む。士官たちの目は、波間に潜むかもしれない潜水艦の動きに鋭く向けられていた。


 港を離れたばかりの海は、静かでありながら緊張感に満ちていた。上空を旋回する攻撃機と戦闘機のプロペラ音が、微かに霧の中に響き、護衛艦隊は無言の連携で航海を開始する——これは、戦いの序章に過ぎなかった。


 護衛艦隊は南方航路を進みながら、上空の複葉機が一定の高度で旋回する。96式艦上攻撃機と戦闘機は交代で哨戒に入り、船団の安全を見守る。静かな海面に、プロペラ音だけが規則正しく響いた。


 護衛艦「霞」の艦橋では、司令官が双眼鏡で海面を見渡す。士官たちの手には地図と通信機が握られ、波間のわずかな動きも見逃さない。

「副長、ソナー反応は?」

「なし、艦長。ただし遠距離は不確実です」

「ならば、視界と上空哨戒に頼る。油断はするな」


 旧式駆逐艦「春風」も左右警戒を続ける。副官が艦橋で海面を睨み、微かな波紋を見逃さない。

「艦長、あの微振動……潜水艦かもしれません」

「距離はまだあるな。警戒を強め、攻撃準備を怠るな」


 上空の攻撃機が旋回し、潜望鏡と思しき影を発見する。操縦士は無線で艦隊に正確な位置を報告した。

「艦隊、潜望鏡確認。距離千五百、右舷前方、潜航深度二十メートル」


 司令官は地図に目を落とし、艦橋士官に命じる。

「駆逐艦は左右から接近、護衛艦は中央を保持。攻撃のタイミングを逃すな」


 駆逐艦の艦長は爆雷軌条を慎重にセットする。手が微かに震える。

「三、二、一、投下!」

 爆雷が水面に落ち、白い泡が炸裂する。海中に微かな振動が伝わり、潜水艦の存在を知らせた。


「反応あり! 潜水艦が回避行動!」

 副官の声に、司令官は唇を引き結ぶ。

「追撃を続けろ! 攻撃機は旋回して通報し続けろ」


 攻撃機が旋回しつつ潜望鏡の位置を修正、護衛艦と駆逐艦は連携して再度爆雷を投下する。水面が泡立ち、潜水艦が深く潜ろうとする様子が微かに見える。


「艦長、再度投下完了。反応減少、攻撃は成功の可能性あり」

 副官の声に、司令官は短く頷いた。

「油断するな。完全撃破とは限らん。引き続き哨戒を維持し、船団の安全を確保せよ」


 水平線の霧が少しずつ晴れ、朝日が海面に反射する。輸送艦列は依然として整然と航行し、護衛艦隊の士官たちは呼吸を整えながらも、次の潜在的脅威に備える目を逸らさなかった。


 海は静かでありながら緊張を孕み、護衛艦隊は無言の連携で船団を守る——これが、戦いの本番の始まりだった。


 潜水艦の反応は海中深くに消えたかと思うと、再びソナーに微かな振動を伝えてきた。護衛艦「霞」の艦橋では、士官たちの呼吸がわずかに乱れる。


「艦長、潜水艦が再び接近中。右舷前方、距離一千二百メートル」

「了解。駆逐艦は左右から挟撃、護衛艦は中央で追尾。攻撃機は上空から通報を継続しろ」


 旧式駆逐艦「春風」の艦長は、緊張を押し殺しつつ爆雷軌条を整える。手元でカチリと金属音が響き、艦橋に静寂が戻る。

「三、二、一、投下!」


 水面が白く泡立ち、潜水艦は深く潜航しようとする。艦橋の士官たちは双眼鏡を握りしめ、わずかな水面の動きを見逃さない。


 上空の攻撃機は旋回を続け、潜望鏡の正確な位置を艦隊に知らせる。複葉機のプロペラ音が霧に吸い込まれ、静かな緊張を演出する。


「再度投下、完了。潜水艦の反応が鈍い。損傷した可能性あり」

 副官が声を震わせながら報告する。司令官は艦橋の手すりに手を置き、視線を水平線に向ける。


「よし、追撃を止めるな。完全撃破とは限らん。上空機は燃料と交代の準備を怠るな」


 霧の間から朝日が差し込み、海面に淡い光の道を作る。輸送艦列は整然と航行を続け、護衛艦と駆逐艦は潜水艦の影に怯むことなく進む。


 突如、水面に小さな水柱が立った。潜水艦が反撃の魚雷を発射したのか、士官たちの胸に冷たい緊張が走る。

「全艦、回避行動! 船団列を維持しつつ回避せよ!」

 駆逐艦の艦長が声を張る。波間に小さな爆発が散り、輸送艦列はわずかに蛇行するが、大きな損害は出なかった。


 攻撃機と護衛艦の連携により、潜水艦は遂に攻撃の網にかかる。白い泡が広がり、海面に沈黙が戻る。

「艦長、潜水艦反応消失。攻撃成功の可能性高し」

「よし、しかし油断は禁物。船団護衛はまだ続く」


 海面に残る波紋を眺め、士官たちは深く息をつく。敵潜水艦は撃破できたかもしれないが、海の静寂が完全な安堵を与えるわけではない。護衛艦隊の任務は、まだ続くのだ。


 潜水艦との攻防から数時間が経過し、護衛艦隊の緊張はまだ完全には解けない。海面には、先ほどの戦闘の波紋が淡く残り、霧が少しずつ晴れ始めた。


「艦長、潜水艦の反応は今のところなし。海面も安定しています」

 副官の報告に、司令官は艦橋の双眼鏡を下ろした。肩の力を少し緩め、だが視線はまだ遠方に向けられる。


 旧式駆逐艦も左右警戒を続けるが、士官たちの表情にはわずかに安堵の色が差す。空母搭載機も旋回を終え、最後の上空哨戒から着艦準備に入る。整備員が機体の最終点検を行い、予備機もスタンバイしている。


 霧が完全に晴れると、南方の港の輪郭が水平線に浮かび上がった。司令官の口元に、わずかに笑みが漏れる。

「司令、目的地視認しました。船団列は維持、損害はなし」

「よし、全艦、航行を続けよ。港に入るまで油断するな」


 輸送艦列は慎重に港口へ進入し、護衛艦と駆逐艦は周囲の警戒を緩めずに続ける。港の波止場に近づくにつれ、輸送艦たちの士官や乗員は肩の力を抜き、息を整える。護衛艦隊の士官たちは表情に出さずとも、長時間の緊張を胸に刻み込んでいた。


 港の水面に反射する朝日の光が、船団列と護衛艦隊を淡く照らす。司令官は艦橋から海面を見つめ、静かに言った。

「任務完了。船団を守り切った。だが、これで終わりではない。次の航路、次の護衛任務に備えよ」


 空母「瑞風」の甲板では、着艦を終えた攻撃機と戦闘機が整備員によって手入れされる。士官たちは機体を確認し、次の任務に向けた準備を始めた。


 港に停泊した輸送艦の乗員たちは、短く互いに頷き、静かに達成感を分かち合う。しかし司令官の目は遠くを見据えていた。海の向こうには、まだ潜む脅威がある——護衛艦隊の任務は、決して終わらない。


 波止場に着岸した船団の船体が、朝日に輝きながら静かに揺れる。海面の光景は穏やかだが、士官たちの胸には、再び訪れる緊張の航海への準備が刻まれていた。護衛艦隊は、任務を全うした誇りとともに、次なる航海への覚悟を静かに新たにするのだった。

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