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最期を看取った機械

04:25、私が一生忘れることが出来ない朝。友人が亡くなった、それはメールとか電話とかじゃなくてある来訪者で知ることになった。インターホンが鳴った、こんな朝早くに非常識だなといつもは2度寝するけど、いつもはこんな人気の無いアパートに朝から私の部屋のインターホンを押す人なんかいないし、なんか嫌な予感がして私は、ベッドから起きるとブランケットを肩に掛けてインターホンモニターをつける、映ったのは見知らぬ人……?「……?誰?」私は思い当たる節が無くてモニターを見ても分からなくてドアを開けた。

 ドアの向こうにいるモノはドアが開く音がすると少し避けたような気がした。「誰アンタ」そう声をかけると、私のことを見つめていた彼女が口を開き機械音声が告げる「あなたの友人、キホさんが亡くなりました。」私はまたアイツが仕込んだ巧妙なイタズラだと思って「キホが?アイツのいたずらかなんかでしょ?」「嘘ではありません」「は?証拠は?」朝早く起こされて心臓に悪いことを目の前の知らない奴に知らされるのなんて最悪の朝。と思いながら目の前の彼女が証拠を出すのを待っていると、彼女は物怖じすることなく私のことをまっすぐ見て「家に上がらせてもらうことは可能でしょうか?」と言い玄関に上がるとズカズカと私の制止も聞かずリビングへ歩いって行った「何?証拠を探す時間稼ぎ、やめてよ縁起でもない」私はキホの悪い癖の度の過ぎたイタズラだろうと思って彼女が自分の家に入ることを必死に拒んたがあっけなく突破されてしまった。

 彼女はリビングに入ると、テレビの前に座り自分の長い髪をかきあげて、項を私に見せてこう言う。

「私のうなじにHDMIケーブルを挿す口があるはずです」「は、はぁ……」「キホさんからの遺言を預かって来たんです、見たくないですか」彼女は一切こちらを見ず髪をかきあげた状態でそういう、私は痺れを切らしてHDMIケーブルを彼女とテレビに繋いで、テレビを付けるとキホの病室だろうか、それとも退院して家に帰ったのだろうか優しい日差しが差す時間帯に彼女が撮ったのだろう映像が映し出された。「カネタ、撮れてる?」「……それは分かりかねます」「はは、いつもそうだよねヘルパーアンドロイドだし」「……では、よろしいですか」カネタと呼ばれた彼女はこのいま私の目の前に居るカネタで良いのだろうかと思っていると映像の中のキホが嘘らしい咳を1つすると、パッと笑みを浮かべて「これを見てるってことはちゃんとカネタがナナのところに行けたってことだね、とりあえず良かった」「……なにこれ」「ナナがこれを見ている時間帯はいつ頃になるかなぁ……朝?昼?夜?分からないけど、これをカネタから見せられたということは私はもうこの世にいません」「うそ、やめてよ……ちがうでしょイタズラでしょ」「ナナ、病気になってから遊ぶ時間も取れなくなっちゃったしヘルパーアンドロイド雇ってから会う時間が少なくなっちゃって、そろそろ会いたいなって思ってたはずなのはわかってた」「やめて、やめてよ、キホは死んでなんかないやめてよ」私はキホのこの後の言葉が怖くてケーブルを引き抜いて、ヘルパーアンドロイドだとかいう女の胸ぐらを掴んで「アンタ、やっていい事と悪いことあることアンドロイドでも分かるでしょ」そう叫んで揺さぶると彼女はアンドロイドらしくあっけらかんとした顔をしていた。私はだからキホから距離を取ったことを思い出してアンドロイドの胸ぐらを掴んでその場に泣き崩れた。

 アンドロイドは私の手を優しく、それでも彼女を介護していたような優しさはない。

 他人行儀な優しさの手の離し方をすると、項垂れて泣いている私を見下ろして

「キホの葬儀は3日後です、来ますか」とドアへ向かいながら私に問うてきた、私は顔を上げて「行くに決まってるでしょ」と声を絞り出して言うと彼女は一度もこちらを振り返ることなく出ていった。

 カネタ以外の家族はほぼ居ないも同然だったのは知っていた為、私はキホの葬儀に出た。あんなに仲が良かった学生時代の友人も病気になってからキホと距離を置き始めたことは知っている、私もその1人だったから。私じゃなくてヘルパーアンドロイドを雇ったから。「ヘルパーアンドロイドねぇ、そこは人間じゃなくていいの?」「死ぬ前にアンドロイドにお世話されてみたくって、学生時代はたくさんみんなに迷惑かけちゃったし」雇う話をしてきたのは私にだけだったからその経緯も知っている。会うのはいつもこの隣に居て家族ヅラしているアンドロイドが、いない時だったからそりゃ私は知らないよな。

 パラパラと来ていた参列者も去っていき、私とアンドロイドの二人でキホの遺影を眺める謎の時間があった。「アンタさ、この後どうするとかキホからあれこれ言われてんの?」タバコに火をつけながら聞く、アンドロイドは私のことを見ることは無く、目線はずっとキホの遺影に向けたまま「あなたの家に住め、そう言われていました」と零した。私は意外……と呟いて灰皿にタバコの灰を落とす。「で、私のところに来てもキホみたいに手のかかるようなことはなんもないと思うけど」「……あなたの生活を見守って欲しい、共に過ごして欲しいキホはそう言っていました」「あー、それを間に受けた感じね、少なくとも私の生活にアンタはいらない」キホの口車に上手く乗せられたことがわかると私は笑うと灰皿にタバコを押し付けて消して、ずっとキホを見ているヤツにそう宣言して私も葬儀場を後にした、遺影を見る目がいつかの私と重なって気持ち悪かったから。

 夜行バスで地元から離れ、いつものアパートに戻るキホと行った商店街、バスロータリー、近所の浜辺、彼女が歩むはずだった人生は病気のせいで潰されたのに彼女はそれでも病気になる前と同じように振舞おうと必死だった、私が地元に帰ると言うと無理矢理退院してきたり、消灯時間が過ぎているのに私の長電話に付き合ってくれたり、人には見せられないなーと笑って私には見せてくれた刈り上げた髪を、仕事行ってくるとたまにメッセージで送ると、たくさんのチューブが繋がった細い腕と共にマジックで書いたのか仕事頑張れ〜と写真を添付してくれたり……「病人は病人らしくさぁ……じっとしてて良かったんだよ……キホ」キホとカラオケで歌った曲を聴きながら夜行バスの中で私は静かに泣いた。

 

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