第71話 幼馴染彼女と重なる肌
気が狂いそうな熱と、触れ合う肌の感触、そして里桜の漏らす甘い吐息が、俺の世界の全てになっていた。
「あっ、んっ……」
薄暗い明かりの下で、里桜が身体をくねらせる。俺と里桜を遮るものはなにもない。
いや、一応あるにはあるか。薄っぺらいけど、大事なもんがな。今はまだ、これが必要だ。俺と里桜の、幸せな将来のために。
途中でまごつかないようにと、俺はそれをさっさと装着していた。
ゆっくりと、恐る恐る、でも抑えきれない衝動に駆られて里桜に触れる。俺が触れるたびに、里桜は小さく息を呑み、小鳥が囀るように美しい嬌声を響かせていた。
「ひゃっ……あっ……」
その声を聞くと、また俺の中に熱が生まれる。ずっと探し求めていたものが見つかった、そう錯覚してしまうほど、里桜の声が耳に心地良い。
俺は思う存分に里桜の身体に触れた。緊張を解きほぐすように、じっくりと時間をかけて。自分の身体がいくら急かしてきたとしても、グッと抑え込んで。
それが里桜にはもどかしかったみたいだけどな。
「隼、くん……それくらいで、いいから。私もう、待てないよぉ……」
「わかった。なるべく──できるだけ優しくするからな。でも、痛かったら言ってくれよ」
「ううん、そんなの絶対言わないもん。痛くてもいいから、早く、しよっ……?」
「あ、あぁ……いくぞ」
最後はちっとばかし里桜に急かされちまったが……それはしょうがねぇよな。俺だって初めてなわけだし、加減ってもんがわかんねぇんだからさ。
「んんっ……隼、くんっ……」
里桜は小さく声を上げ、そしてすんなりと俺を受け入れた。緊張もしているだろうし、不安もあるだろう。でも、里桜はそんなもの微塵も感じさせず、一切の抵抗もしなかった。
まるで、はるか昔からこうなることが決まっていたかのように、あっさりと俺を受け入れてくれた。
思い返せば、物心ついた時には俺の側に里桜がいた。人見知りで、引っ込み思案な女の子ではあったが、里桜はいつも俺に笑顔を向けてくれていた。
里桜が屈託のない笑顔を向けるのは、気心の知れた極々限られた相手にだけ。里桜はそこに、俺を含めてくれていた。家族や親族を除けば、男はたぶん俺一人だったはずだ。
いつからかなのかは、自分でもはっきりとわからない。ただ、俺を特別に扱ってくれる里桜に、心惹かれていた。ずっとずっと好きだった、大好きだったんだ。
なのに心無い言葉で傷付けてしまった。六年前の別れ際の出来事は、自分への戒めとして、一生忘れることはないだろう。
里桜はそんな俺を許し、想いを伝えるために戻ってきてくれた。おかげで俺は自分の気持ちに正直になれて。さらに今、俺達は一つになっている。
俺はそこに、身体を重ねるという愛情表現以上のものを感じていた。
この先の人生を、里桜と共に歩む覚悟を。
里桜を、俺の最初で最後の女の子にするという決意を。
言葉にすれば陳腐になってしまうけれど、心を締め付けるほどの愛おしさは本物だった。
俺がこんなにも里桜を想っていることを、今、この瞬間に丸ごと全部伝えたい。言葉ではなく、この身体を通して。言葉でなんて、到底表しきれるわけがないのだから。俺の動き一つ一つに、どれほど里桜を大切に想っているのか、どれほど里桜を愛しているのか、その全てを込めているつもりだ。
ちゃんと伝わっているのかどうかは、里桜を見ればなんとなくわかった。
里桜の身体は、湯上がりというだけでは説明ができないほどの熱を持っている。触れ合う肌が、耳を撫でる声が、俺の心を乱す。言葉はなくても、『嬉しいよぉ』って、そう言ってくれている気がする。
それだけじゃない。里桜の身体は、柔らかく俺を受け止めてくれている。一度は失ったと思っていた里桜がここに、俺の腕の中にいる。たった一人の女の子、里桜という存在が、俺を満たしていく。
これから幾度、こうして一つになるのかはわからない。でも、この瞬間だけは、一度きりだ。
生涯、決して忘れることができない、里桜と俺の初めて。その全てを、この身体と記憶に刻み付ける。
大切に大切に。ゆっくりと優しく。
なるべく、里桜が痛くないように。
里桜にとって、イヤな記憶にならないように。
里桜が俺以上に、この時間を特別だと思ってくれるように。
「はっ、はぁっ……り、お……」
肩で息を付き、愛おしい名を呼び、顔を覗き込む。里桜は、じっと俺を見つめ返してくる。
「んっ……なぁ、に?」
「大丈夫、か? 無理、してねぇか?」
「う、んっ……大丈夫、だよぉ。えへっ……」
里桜は時折、辛そうに眉を寄せる。でも、その瞳だけはずっと、蕩けるような笑みを浮かべていた。
その顔を見ると、また心臓が締め付けられ、愛おしさが全身を駆け巡る。
きっと、大丈夫じゃねぇんだろうな。でも、大丈夫だと、俺のために笑ってくれている。その優しさが、さらに俺を焦がす。
俺だけの、里桜だ。
なにがあろうと、もう二度と手放さない。
いつまでも里桜だけを愛し続けると、改めて誓う。
だからさ、ずっと俺の隣にいてくれよな。
そして、俺はよりゆっくりと、さらに優しく、そして深く里桜と繋がった。
ここからこうして、少しずつ慣れていこうな。そんな想いを込めて。
あとはまぁ──もうちっとだけ、色々と手加減してくれると助かる、かな……。
◆side里桜◆
隼くんの動きが、まるで揺りかごのように私を揺さぶる。
肌と肌が触れ合う、焼けてしまいそうなほどの熱い感触。隼くんの荒い吐息が、首筋を撫でる。私の世界は、隼くんに染め上げられていた。
隼くんは、たくさん私に触れてくれた。頬を、首筋を、胸を、お腹を、おヘソを、太ももを、それから、私の女の子の部分を。隼くんの指先が肌の上を滑ると、身体の奥底から熱くなってくる。
熱くなりすぎて、思わず、隼くんを急かしちゃった。だってね、もう待ちきれなかったんだもん。
そして、私の身体はいとも容易く隼くんを受け入れた。不思議に思えるくらい、抵抗する間もなく、するりと私の心と身体に入り込んできたの。
思えば、これは当然のことなんだよね。私はとっくに、隼くんの全てを受け止める覚悟をしていたんだから。離れ離れだった六年間を経て、隼くんのもとに戻る決意をした時から、覚悟は決まっていたんだよ。
といっても、痛みが無いわけじゃないの。ううん、本当はとっても痛い。身体が初めての経験に驚いて、悲鳴を上げてるのがわかる。
でもね、今の私はこの痛みすら喜びに変換してしまうんだよ。
だって、隼くんが私を求めてくれてるの。私の中に入ってきてくれてる。心と身体の隙間を、全部隼くんが満たしてくれてる。まるで、寂しくて仕方のなかった六年間が、存在しなかったんじゃないかって錯覚しちゃうくらいに。
痛みでバラバラになりそうな身体を、ここに繋ぎ止めてくれているのもまた、隼くんだった。
これは、隼くん以外には成し得ないことなんだよ。隼くんは、私が世界で唯一、好きになった男の子なんだから。
物心つく前から一緒にいるのが当たり前で、私はいつも隼くんだけを見ていた。この想いが揺るぎないものになったのは、暗闇に一人取り残されて泣いていた私を隼くんが見つけ出してくれた、幼かったあの日。それからずっと、遠く離れていた間ですらも、常に私の心の中には隼くんがいたの。
生涯消えない、初めての証《痛み》。それを今まさに、隼くんが私に刻み付けてくれている。
そう思うと、涙が溢れ出しそうなくらい嬉しくて。痛いはずなのに、顔が緩んでしまいそうになるのを止められない。
それにね、隼くんは私をとっても気遣ってくれるんだよ。少し動くたびに、
「大丈夫、か? 無理、してねぇか?」
って、優しく聞いてくれるの。私の顔を覗き込む真剣な表情に、勝手に胸が高鳴る。
本当はもっと動きたいんだろうね。それくらいは、わかるよ。隼くんの顔、苦しそうなんだもん。でも、私のために我慢してくれてる。そんな隼くんがちょっぴりもどかしくて、とっても愛おしい。
「大丈夫、だよぉ」
私は、漏れ出る吐息の合間に、こう応えるので精一杯だった。
本当は、もっと伝えたい言葉があるのに。私は大丈夫だから、隼くんの好きにしていいんだよって。なのに、痛みと、それをはるかに上回る喜びで言葉にならない。
ただただ、優しく私を揺さぶる、隼くんに溺れていた。
隼くんの動きはゆっくりで、丁寧で、私を壊してしまわないように、大切に扱ってくれているのが感じられる。それがまた、私を隼くんへの愛おしさでいっぱいにするの。
ずっとずっと待ち望んでいた、この時。きっと私は、この瞬間を、この痛みを忘れない。忘れたくても忘れらんないよ。この先、何度身体を重ねたとしてもね。
これが、私と隼くんの始まり。ううん、違うかも。大きな節目、なんだよね。幼い頃に始まって、一度は途切れてしまったけれど、繋ぎ直すことができて。今、ようやく一つになれた。そしてそれは、この先の未来に続いていく。二人で一緒に続けていくの。
私の大切な隼くん。
もう二度と、離れてなんてあげない。
今までも、そしてこれからも、隼くんだけを愛し続けるよ。
だから、いつまでもずっと隼くんの隣にいさせてね。
でも──
これだけは宣言しておこうかな。
私、これくらいじゃ満足してあげない。この先ずーっと隼くんの愛情を独り占めしちゃうんだから。私って、とっても欲張りなんだもん。
覚悟しておいてね、隼くん?
その分、私ももっともっと大好きを伝えるから。
そう思った瞬間、隼くんがゆっくりと優しく、より深く私の中に入ってきた。
全身に電流が駆け抜けたみたいだった。一瞬だけ痛みを上回ったその甘い痺れに、私は思わず甲高い声を上げた。
「あぁっ……!♡」
なっ、なに……今の?
こんなの、知らない……。
…………。
知らないなら、知らなきゃ、だよね?
なんとなくだけど、その正体を知ってしまったら、ますます隼くんの虜になっちゃうんだろうなぁって予感がした。
……そんなの、知るしかないでしょ?
そしてこの夜、私は大好きな人と身体を重ねる幸せを知った。




