第64話 幼馴染彼女の水着の威力
さて、到着したのならまずは水着へと衣装チェンジをするのが流れというものだが──海の家の更衣室、その男女に分かれる手前で里桜を引き止めた。
「里桜、さっきも言ったからわかってるとは思うが、くれぐれも──」
「なんのことー?」
里桜はキョトンとした顔で小首を傾げる。
わかってねぇのかよ……。
俺は里桜を軽く睨み付けた。
「おい、里桜」
「冗談だよ、冗談っ! ちゃーんとわかってるってばぁ。隼くんがいるの確認してから出てくるよっ」
「……頼むから、そういう冗談はほどほどにしてくれ」
じゃないと俺の心臓がもたん。いつもとは違う意味でな。
「はーいっ、気を付けまーす」
「ならよし。ほれ、着替えてこい」
「うんっ、また後でね!」
里桜はパタパタと忙しなく、女性用の更衣室へと入っていく。俺もそれを見送って、着替えに向かった。
里桜に釘は刺したけど、どのみち俺の方が先に出てくることになるんだろうな。男の着替えなどは、たかが知れているのだし。
服を全部脱ぎ捨て、海パンを履いたらできあがりだ。必要最低限の荷物だけ残して、あとはロッカーに放り込んでおいた。
準備が終わったら、更衣室の出口から見える範囲で太陽のもとへと向かうことに。裸になった上半身を夏の日差しが容赦なく照りつけてくる。日頃は屋内に引きこもっているので、たまにはこういうのも悪くないかもしれん。
そういや里桜が今日は最高気温更新するって言ってたっけ。
これだけ暑いなら、海に入ったらさぞ気持ちいいんだろうな。里桜には負けると思うが、俺もかなりテンションが上がっているらしい。思わず海に飛び込みたくなる──が、ここはぐっと我慢だ。離れるなって言ったのは俺だからな。それに最初は里桜と一緒に、っていうのがやっぱり醍醐味だろう。一人で先走ったらもったいねぇよ。
そうして誘惑に駆られつつも、ぼんやりと海を眺めて待つことしばらく、ヒタリとなにかが俺の背中に触れた。
「しゅーんくんっ、お待たせっ」
「おっ、きたか。そんなには待ってな────」
振り返り、里桜の姿を視界におさめた瞬間、俺の世界は静止した。真っ白なビキニを身に纏った里桜が立っていたのだ。
この水着姿はすでに何度か披露してもらっている。にも関わらず、俺の目を釘付けにするには充分な破壊力だった。
透き通るような素肌を惜しげもなく晒し、そこにフリルのあしらわれた白ビキニが彩りを加えていた。燦々と降り注ぐ陽光を反射して、眩いほどの輝きを放つ。その姿は、まるで美術品のように一切の無駄がなく、完璧な美しさを誇っていた。わずかに恥ずかしげにしているのもポイントが高く、その魅力を何倍にも引き上げている。
海というシチュエーションで見るだけで、こうも変わるとは予想もしてなかったぞ。
やべぇな、海効果。
「えへへ。改めてどうかな、この水着は?」
「……可愛すぎる」
「本当っ? よかったぁ。あっ、言い忘れてたけど、途中で違う水着に着替えるからね。そっちも楽しみにしててね?」
「まじかよ……」
もしかして、3着とも全部着るつもりかよ。ってことは、これをあと2回もやるのか?
末恐ろしいことを考えるやつもいたものだ。俺の幼馴染であり彼女であった。
「ふふーん、そのために全部持ってきたんだもーん。せっかく隼くんが選んでくれたんだからぁ、ちゃーんと着てあげないとねっ」
「わかった。覚悟しとくわ……」
諦めにも似たなにかを感じた。たぶん、俺はあっさり里桜に悩殺されちまうんだ。
……もう十二分にされてるんだけどな。
だってさ、里桜が動くたびにふるふる揺れるんだぞ。そんな危険なもんが──
「それじゃ、まずは場所取りしよっか?」
──俺の腕にむにゅりと押し付けられた。
ぐぅっ……これは、まずい。
おかしいぞ。日頃から押し付けられてるからそれなりに慣れてるはずなのに、布が少ないだけでこんなにも違うものなのか。
いや、それも知ってたさ。風呂でもたまにやられるからな。でも、こんな容赦なく……。
あっ、もう無理。クラリと目眩がして、俺は死んだ。
「隼くんっ、パラソルのレンタルがあるみたいだよ。休憩場所の日除けに借りよー?」
「……そうだな」
おっと、どうやら俺はまだ生きているようだ。言葉を発している、すなわち生きている。
「隼くんっ、周りに人が多いと落ち着かないから、隅っこの方行こうねっ」
「……そうだな」
生きてはいるみたいだが、致命傷に近いダメージからは回復していないらしい。里桜の言葉に『……そうだな』とだけ返すロボットみたいになっていた。
いつの間にかパラソルも担いでるしな。レンタルした後、無意識に里桜から奪い取ったんだっけ。
「この辺りがよさそうだね。隼くんっ、適当なところにパラソル刺してくれるかなぁ?」
「……はいよ」
まるで里桜の操り人形のように、俺は言われるがままパラソルのポールを地面に深く突き刺す。今のところ風はあまりないので、ほどほどに固定できていればいいだろう。グラつかないことを確かめて傘を開いた。
「いい感じだねっ。じゃあここにシートを敷いてっと……」
俺が作った日陰に里桜がレジャーシートを広げて、持ってきた荷物で重しをした。
「よーしっ、完成っ! ありがと、隼くんっ」
あぁ、またそんな笑顔で俺を見る……。
眩しすぎんだろ、ちくしょう。
「さーてっ、遊ぶぞーっ! と言いたいところなんだけどぉ──まずは日焼け止め、塗ろっか?」
「……そうだな」
里桜は持ってきたバッグから日焼け止めクリームのボトルを取り出すと、シートの上に置いた。そして、自分はころんとうつ伏せに転がる。
「隼くんっ、お願いしてもいいかなぁ?」
「……はいよ」
──はっ! はいよ、じゃねぇだろっ!
なに普通に俺が塗る流れになってんだ?!
俺の頭はようやく再起動した。とはいえ、身体はまだ硬直状態にある。そこに里桜から催促がかかった。
「ねぇーっ、隼くん、まだぁ?」
「ちょい待てっ! 俺が塗るのか?!」
「そうだよ? 隼くんも返事してくれたでしょー?」
「したけど……」
「それに私が背中に手が届かないの知ってるよね? だからぁ、ねぇ……お願ぁい?」
確かに、里桜が背中のボタンが留められないほどに身体が硬いことは知っている。ついでに言えば、俺も里桜のこの白い素肌が真っ赤に日焼けするところはあまり見たくない。となれば、逆らうことなどできないわけで。
それ以前に、こんな甘えた声出されちゃ断れん。
「……わかった」
「へへっ、やったぁ! あっ、水着の紐が邪魔だったら解いちゃってもいいからね?」
「いや、それはさすがに……」
ハードルが高いというかなんというか。
「えーっ。まだらに日焼けしたらやだなぁ? 隼くんがしっかり塗ってくれたら安心なんだけどなぁ?」
こいつ……海水浴に乗じて俺を籠絡する気満々じゃねぇかよ。しかも、俺が断らねぇことを見越した上でやってるからたちが悪い。
はぁ……しゃーねぇ、こうなったら腹括るかぁ。早いとこ塗ってやらんと、いつまでも里桜はこの場所でころころしてそうだもんな。それはそれで可愛いかもしれんが、里桜を置いて一人で遊ぶわけにもいかんし、俺もつまらん。
もう、どうなっても知らんからな。
俺は無言で里桜のビキニの紐を引いた。はらりと布がレジャーシートの上に広がり、押しつぶされたお胸のサイドが露わになり、なんとも刺激的だ。
「なんかこれ、ドキドキしちゃうね?」
ドキドキするのはこっちだっての……!
色仕掛けも大概にしとかんと、いつか俺がぶっ壊れるぞ?
「余計なこと言わんでいいから、ちょっと黙っててくれ……」
「ふふっ、はぁいっ」
里桜が嬉しそうにくつくつと笑う。俺は日焼け止めクリームを手に取り馴染ませた。
「……触るぞ?」
「いつでもどーぞっ」
ペタリと里桜の背中に触れると、もっちり肌が吸い付いてくる。そこに日焼け止めクリームのぬるっとした感触を味わいつつ手を動かすと、里桜の身体がピクリと震えて、艶めかしい声が漏れ始めた。
「んっ……あっ、んんっ」
……わざとやってんのか?
人気のないところを選んでくれて正解だったな。そっちがその気なら、俺もやってやろうじゃねぇか。パチンと、頭の中で変な方向にスイッチが入った音がした。
「んにゃっ! 隼く、んっ……そんなっ、急にぃ……」
「ほれほれ、どうした。さっきまでの余裕はどこいったんだ?」
俺の動きは大胆なものに変わっていた。クリームを刷り込むように、マッサージをするように。
「やっ、ぁん……だって、そんなにされたら、ゾクゾク、するよぉ……」
「里桜がしろって言ったんだぞ。しっかり塗れるまでやめてやらねぇからな」
「あっ、やぁんっ。そん、なぁ……」
挑発していいのは、挑発される覚悟があるやつだけ、ってことだな。
里桜がピクピクしながら声を上げるのにも構わずに、どんどん塗っていく。背中から肩へ、肩から腕へ、腕から手へと。
手に塗る時は恋人繋ぎのようにして、指の隙間まで満遍なく。一応、ここがクールダウンポイントだ。
それが終われば、脚へと移動する。つま先から始めて、ふくらはぎ、太ももへと手を伸ばす。
正直俺も限界だが、歯止めが効かなくなっていた。お尻の際まできっちり塗ってやったさ。
「ん……塗り終わったぞ。お疲れさん」
ついでに俺もかなりお疲れだ。
「はっ、はぁっ……ふぅ……隼くん、すごかったよぉ」
「これに凝りたら、今後はやりすぎないことだな」
俺の理性も無限の耐久力ではないのだ。屋外だからどうにか耐えられたが、これが家だったら今頃美味しく里桜を頂いていたところだったかもしれん。




