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第48話 幼馴染兼恋人は友人の義姉になる

「ねぇ、隼くん。私達、なにか忘れてないかなぁ……?」


 里桜が足を止めてそんなことを尋ねてきたのは、会場の最寄り駅までの道のりを半分くらいまで歩いた頃だった。


「忘れてるって、なにをだ?」


「それがわかんないから聞いてるんだよっ。なんか引っかかるっていうかね、すごく大事なことだったような気がして……」


「大事なこと、ねぇ……」


 里桜への告白は済んでめでたく恋人同士になれたし、おまけにプロポーズみたいなこともした。里桜にキスされて、俺からもして、二人で夢中になって、でも最後だけはしっかり花火も見た。つまり今日の目的は予定外のものも含めて全部果たしたってことになるはずだ。


 とすれば──


「あぁ、リンゴ飴食べ損ねたとか?」


「違うよぉっ! 私、そんなに食い意地張ってないもんっ! というか、そんなの買ってあるんだから帰って食べればいいだけでしょー!」


 ですよねー。俺もそう思う。


 とりあえず、ほっぺをぷくぷくにした里桜が可愛い。思わずツンツンしてぷすって言わせたいところだが、本気で拗ねるかもしれないからここは我慢だな。


「冗談だって。思い付かないから適当に言ってみただけだよ」


「もーっ、隼くんの意地悪っ!」


「ごめんごめん。許してくれって」


「いっぱいよしよしして、ちゅーしてくれないと許してあげなーいっ」


「まじかよ……」


 よしよしはまぁいいだろう。ひとまず里桜の頭を撫で回しておく、髪が乱れない程度にな。


 ただなぁ……キスはさすがに厳しいぞ。さっきまでいた港と違って、駅への道は俺達と同じで帰宅する人で溢れているのだ。


「ねぇ隼くん、ちゅーはしてくれないのぉ……?」


 よしよしだけで機嫌が直っているように見えるのに、無茶言うなよなぁ。


「帰ってからじゃ、ダメか?」


「いーやっ! 今したいんだもん」


 さっきまで散々してたっていうのに、我儘な子である。


「しょうがねぇなぁ……こそっと軽く一回だけだぞ……?」


「やったぁ!」


 ここで負けて折れてしまう俺もたいがいなんだろうが、可愛く上目遣いで見上げてくる里桜が全部悪い。里桜が俺の彼女なんだと思ったら余計に可愛く見えて、なんでも許してしまいそうだ。


 意を決して里桜に顔を近付けようとしたところで──


 不意にポケットの中のスマホが震えて、ビクっとしてしまった。やましい気持ちがいっぱいだからな……。


「……どしたの、隼くん?」


「いや、スマホが──あー……すまん、悠人から電話だ」


 俺がそう言うと、里桜は飛び上がりそうな勢いで声を上げた。


「あぁっ、そうだっ! 忘れてたの、時雨くんと蛍ちゃんのことだよっ!」


「悠人と蛍……そういやほったらかしにしたままだったな……」


 俺から誘っておいて申し訳ない話だが、里桜に夢中で完全に頭から抜けていた。帰りの話なんてしてないけど、置き去りはさすがにまずいか。


「とりあえず……電話、出るな?」


「ちぇー、いいところだったのにぃ……」


「まぁ……帰るまで我慢してくれよ。その分、いくらでもしてやるからさ」


「はぁい……」


 しょんぼりさせてしまったので、また頭を撫でて落ち着かせながら電話に出ることに。


『あっ、やっと出た。隼、今どこにいるのさ?』


「すまん、悠人。もうすぐ駅に着くくらいだ。そっちは?」


『こっちはまだ会場だよ。終わったら連絡来るかと思って待ってたのに、ひどいじゃないか』


「わりぃな……。んで、蛍も一緒か?」


『そりゃね。蛍ちゃんを一人にするわけないでしょ。それとさ、俺達も色々あって……少し話したいこともあるんだけど、合流できないかな? さすがに戻ってきてもらうのは手間だろうし、駅前にいてくれたらいいからさ』


「わかった、待ってるわ」


『うん、すぐ行くよ』


 電話を切ってスマホをポケットに戻すと、里桜が興味ありげに俺を見ていた。


「時雨くん、なんだって?」


「話があるから駅で待っててくれって。なぁ里桜、この話ってもしかしてさ……」


「そのもしかして、かもね」


 途中でトラブルでもあったのならもう少し慌てているだろうし、その時に連絡が来ててもおかしくはない。そうなれば考えられるのは一つしかない。


「ま、それは聞いてみてから、だな」


「だねっ」


 俺達は同じ予感を抱きつつ、再び歩き始める。


 悠人達と合流できたのは、駅について15分ほどしてからだった。


「お待たせ、隼、高原さん」


 相変わらず爽やかな笑顔を浮かべる悠人、ただどこか浮かれているようにも見える。そして蛍は、そんな悠人の服の袖をちょこんと摘んで、恥ずかしそうに俯いていた。


 それだけで予感が正解だったのだと察するが、あえて突っ込んだりはしない。


「わりぃな、悠人。置き去りにしちまって」


「ごめんねぇ、時雨くん……」


「いいよいいよ、気にしないで。それよりも隼、ちゃんと言えたんだね」


 悠人の視線は、俺と里桜の手に注がれていた。俺達だって今も恋人繋ぎのままだしな。お互い、わかりやすいことで。


「まぁな。改めて紹介した方がいいか?」


「いや、それはもういいよ。でも良かったね、高原さん」


「うんっ。ようやく隼くんに捕まえてもらえたのっ」


「おめでとう、二人とも。それと──言ってもいいよね、蛍ちゃん?」


 悠人が優しい声で尋ねると、更に顔を赤くした蛍がコクリと頷く。


「えっとさ……俺達も、付き合うことになったんだ。俺から告白して、ね。隼にお膳立てしてもらったからさ、報告くらいはしておこうと思って」


 やっぱりそうだったか。俺としてはデートさせてやろう、くらいの気持ちで誘ったわけだが、さすがは我が頼れる友人、まさか今日でそこまでいくとは恐れ入るな。


「よかったな、悠人。ついでに蛍も。お前ら、俺と里桜のこと言えないくらいもどかしかったからな」


「おめでとう、時雨くん、蛍ちゃん! とってもお似合いだよっ」


 俺達に祝福されると、ますます蛍は小さくなって、悠人の後に隠れてしまった。まったく、しおらしくなっちまって。普段からそれなら、まだ可愛げがあるってのに。


「お似合い具合で言えば、隼と高原さんには負けると思うけどね……。でもまさか隼にバレてるとは思ってなかったなぁ」


「いや、バレバレだから。二人して顔合わせるとあわあわしやがってさ。見てるこっちが恥ずかしかったくらいなんだぞ」


「そっか、ごめん……。それから、ありがと。これで隼は俺のお義兄さんになるんだねぇ」


 おいおい、ここにもいたよ、気の早いやつが……。


「あれ? なら、時雨くんは私の義弟になるのかな……? 蛍ちゃんは元々義妹になる予定だったけど」


 里桜も里桜でシレッとすごいこと言ってるな。もちろん嬉しいけど、元々っていったいいつからなんだか。


「っ?! 里桜ねぇが、私のお義姉さん……?」


 蛍よ……お前はさっきまで黙りこくってたのに、なんでそこにだけ食い付いてんだ……。

 揃いも揃って本当に困ったやつらだよ。


 でも、そうなれたらきっと楽しいんだろうな。俺は里桜を離すつもりはないし、あとは悠人と蛍が別れたりしなけりゃ実現するのか。


 まぁそっちもあんまり心配はいらなさそうだけどな。悠人はきっと蛍を甘やかすだろうし。


 とはいえ、往来でこんな話を繰り広げるのは少し恥ずかしい。それに里桜へのお詫びのキスもお預けにしてることだしな。さっきしそこねたせいか、俺までまたしたくなってきちまった。


「アホな話ししてないで、いい加減帰るぞ。俺と里桜はそのまま帰るから、悠人は蛍を送ってやってくれよ」


「言われなくてもそのつもりだよ。付き合いたての大事な彼女だからね。でもいいなぁ、二人は」


「なにがだよ?」


「だって同じ家に帰るんでしょ。羨ましくもなるよ、好きな人とずっと一緒にいられるんだから」


 それは確かに。俺達、付き合って早々に同棲カップルってことだもんな。同棲自体はそろそろ5ヶ月になるけどさ。


「それは里桜が頑張ってくれたからだな。マジで感謝しきりだよ」


「えへへ、褒められちゃったぁ」


 本当に里桜様様だよな。家でも、学校でも一緒に過ごせて、遊びに行くのもほぼ一緒、そんな贅沢をさせてくれて。


 だから──


「……里桜」


「ん? なぁに?」


「ずっと……大事にするからな」


 こそりと、里桜にだけ囁いた。この感謝は、生涯をかけてでも伝えていくつもりだ。


 突然の俺の言葉に、里桜はぱちりと瞬きを繰り返す。それから、ようやく意味がわかったのか甘く蕩けるように微笑んだ。


「……うんっ」


 あぁ、やばいな。早く帰って、里桜を思い切り可愛がりたくなってきた。


 そんな思いに突き動かされて、俺は繋いだままの里桜の手を引く。そして、


「そろそろ電車来るっぽいから行くぞ」


 悠人と蛍にそう声をかけつつ、振り返りもせずに駅のホームに向かうのだった。

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