表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嘘をつかれて婚約破棄されて人生ぶっ壊れました

作者: 一宮 千歳
掲載日:2024/11/29

忘れもしない運命の日。


雪溶けを迎え、厳しい寒さも遠のいた穏やかな気候にみなが笑顔になる時期。

季節の変わり目に開かれる、年に4度の華やかなりし季節祭。

その開幕にささやかながら行われたパーティにて、私はエガンカ国の王太子殿下、イサア=グラン=エガンカ様に「ノワールけこうしゃくれいじょうクロエ=ノワール! おまえとのこんやくをかいしょうする!」と言われてしまった。


突然の婚約解消宣言、受け入れられずに話を聞く側に回ってしまったのがまず悪かった。

イアサ殿下の口から出るわ出るわのその時の私に身の覚えのない凶行にはその場で反論することができず、「あの、その、えっと」ぐらいしか言うことができなかった。まさか王太子殿下が証拠もなしに悪口雑言を述べたてるわけもないと思われていたのか、あの場だけではこちらに責ありの流れだった。

巷で流行っていた婚約破棄ざまぁモノみたいに理路整然と反論なんてできなかった。


まあ、可愛げがない女だったとは思う。

淑女教育で遊ぶ時間はほぼ全て潰れた。でも、淑女らしい立ち居振る舞いも、年頃の女らしい振る舞いもどちらもできていなかった。勉強時間が増えるほど厚くなるメガネと艶の足りない髪の毛。遠い東の国から嫁いできたおばあさまから受け継いだ自慢の黒は、その髪色は不吉の象徴だと言われてしまった。


まあ、教養の浅い女だったとは思う。

繰り返しになるが淑女教育でほぼ全ての時間を潰してしまい、それでも完璧には程遠い。美術、芸術がぴんとこない。踊りはまあ得意な自覚はあったけど、逆に得意すぎて王子が霞んでしまうと言われれば一緒には踊れない。1人で踊るのももちろんダメだ。


まあ、正式な王妃教育は始まっていなかった。

始まる直前だったのだ。王妃教育が始まってしまえばもはや替えが効かなくなるが、今この時点ではまだ間に合った。


いちおう、わたしになすりつけられた嘘はきちんと検証され、述べられた罪に事実はひとつもなかった、と結論づけられた。それを聞いた時は素直に喜べた。

しかし、子供同士の相性が悪そう、というのもまた事実として受け入れられ、かくして殿下の婚約解消のご希望は認められた。

イサア=グラン=エガンカ、クロエ=ノワール、10歳になる年の春の出来事だ。


お父様から聞いた話では、おじいさまとおばあさまの代に「王位継承権第一位を持つ男児と同じ年に我が家に女子が生まれたら」と、ノワールの家から請うた婚約だったらしい。由緒代々侯爵家ではあるが、おじいさまとおばあさまの代だけでなく、その前からも願っていたそうだ。

王家との婚約がきちんと婚姻として成立すれば、基本的に王の縁戚しかなれない公爵位が現実的に近づくのだ。そりゃあまあ、家の幸せを願って、その座を狙うのは自然の成り行きだ。私だって全力でその夢を実現しようとした。


だめだったなあ。


----


イサアさまには、わたしよりいいこがつく。

そういわれた。

わたしよりいいこなら、くにもよくなるだろう。

そういわれた。


「……よいことですね」


けれど、なんでだろう。かなしい。

かなしくてたくさんないてしまって、ねむれなかった。


----


そこから5年。私が15歳になる年。

ノワールの家は、すっかり立場を無くしてしまった。


「しょうもない嘘を並べ立ててまで遠ざけたいほど、王太子の不興を買った」という話で広まったらしい。こちらの社交界デビュー前にそんな噂を立てられていては、ノワールの家からは手のつけようがなかった。王家はこの話を大きく否定しなかった。


子供の縁というのは親同士が仲良くしていてはじめて繋がるもの。私の噂を聞いた親世代が、それまで擦り寄ってきていたのに、ノワールの家自体を遠回しに避け始めた。交流が減った。

家、領地の経済に打撃が入るほどではない。民に物がいかなくなるわけではない。

商売の話だけが、各家とのつながりとして残された。


死んでいないが、生きているかと言われると微妙。

侯爵家と言う立場があるはずなのに、軽んじられている。

私の社交デビューは当然のように上手くいかなかった。

家への招待状は来る。わたし宛の招待状は来ない。


それがノワールの家の当たり前になった。


----


そういえば、これは婚約解消の申し出から1年後だったか。

イサア様の新しい婚約者が発表され、

また正式に王太子として指名された。


婚約者の名はアリス=ジョーヌ。ジョーヌ家のご令嬢で、殿下や私と同い年。王妃教育はすでに始まっており、覚えも良い、みたいな報告を聞いた覚えがある。


「よいことですね」


わたしは、何も気にしていないかのように、あの時と同じ言葉を返した、と思う。というか、一つのこと以外はあまり覚えていない。


何よりも。

私への報告を担当した私付きのメイドの、

苦虫を噛み潰したような顔を、よく覚えている。


----


16歳のある日。あるいは真なる運命の日。


アリス=ジョーヌがごくごく小規模の私的な茶会を開催したいとの事で、わたしに招待状が来た。

招待状でしたよ、と伝えると、メイドが止めてきた。


「お嬢様、行ってはなりません」


また苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。


「ですが、これには赴かなければなりません」

「何故ですか……ッ!」


「こんなものを今更送ってくる人間の頭の中身が単なるお花畑なのか果たして悪意の塊なのか、きちんとこの目で確認するためです」


自分でもちょっとびっくりするくらい冷たい声が出た。

大丈夫、私は落ち着いている。微笑め。


にこり、と笑うと、メイドは観念した顔で応じてくれた。


「身の安全だけは確保してください」


----


赴いた茶会での記憶はほとんどない。


ただ、


わたしはすごく、思い違いをしていたなあ


と感じたことは覚えている。


それで十分だ。


----


思い出に耽るのはここまでだ。

私が18歳となる年、というか18歳となる日。


準備が整った。


家からは離れた、我が領地ですらないとある地の民家。

これからやる事を考えれば、領地では遠すぎる。


鶏の血をたっぷりと貯めた血桶。それと黒曜石のナイフ。これを使って、地面に魔術的に意味のあるカタチを描く。

御伽話にいう魔法陣。

おばあさまの手記に「人間をやめる(・・・・・・)ための、血で描く魔法陣」について記されていたので、使わせてもらうことにした。

……私は何故おばあさまの手記に何かあると確信して手記を見ることができたんだろうか? まあ、それはいいか。


さくさくと、ナイフで地面を掘る。

二重円は深く。文字らしき部分は浅く。

描く際に内側には足を踏み入れてはいけない。

描き直しは許されるが、血を注ぐ時に間違っていては意味を失う。

失敗すれば二度と成功しない。

一人で成し遂げなければならない。

注意事項をしっかり守って、魔法陣を形作った。


----


内側の円に血を注ぐ。


「王太子……」


円を囲むように刻んだ文字に、ひとつひとつ血を注ぐ。


「アリス……」


外側の円に血を注ぐ。


「……」


----


まず、雨が降った。


次に、雷鳴が轟いた。


雨が雹に変わる。


雹に赤色が混じる。


鉄の匂いがする。


焼ける音がする。


「あは、あはははははは! わかった! わかっちゃった!」


エガンカの国土(・・・・・・・)に、血の混じった雹と雷が降り注いでいる。


クロエ=ノワールは嗤い、歩く。


----


「クロエ=ノワールが参りました」


クロエ=ノワールが声を張り上げる。

血の混じった雹と雷が降り注いでいる。


「参りましたー」


クロエ=ノワールが、二度声を張り上げる。

血の混じった雹と雷が降り注いでいる。


「こまりましたね。先触れを出せていないので、しょうがないのですけど」


血の混じった雹と雷が降り注いでいる。


開け(ヒラケ)


クロエ=ノワールが、三度声を張り上げる。

王城の扉はぎぎぎと音を立てて、人の手を借りず開かれた。


「最初から開けていただけると助かるんですけどね」


血の混じった雹と雷は、変わらず降り注いでいる。


----


「様変わりしましたね」


こつこつと響く足音。

崩れた壁。

ちぎれた布飾り。

割れた壺。

飛散した彫像。

辺りを見まわし、頷く。


「賑やかでよいと存じます」


クロエ=ノワールは見ていない。

怯える貴族を見ていない。

自らを取り囲もうとする兵を見ていない。

だが、それらからは見られている。


「止まらんか! クロエ=ノワール!」

「貴様何を考えている!」


クロエ=ノワールは聞いていない。

制止の声を聞いていない。

故に。向けられた刃を気にしない。


クロエ=ノワールは歩く。

怯える兵士の剣先に、真正面から突き進む。


それを見ていた全員が刺さると思った瞬間。

するり、と剣がクロエ=ノワールをすり抜ける。


クロエ=ノワールは歩く。

目的地へ。


兵は走る。

クロエ=ノワールの形をしたバケモノの目的地になると思しき場所へ、非常事態を伝えるために。


----


こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。


何度も響く、ドアのノック音。

片側が閉じられなくなり、開いているにも関わらず、以前そうであったため(・・・・・・・・・・)に、部屋の主から入室の許可が出るまで繰り返される。


こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。

こんこんこん。


「……入るな。要件があるならそこで言え」

「畏まりましたわ」


震えた声と、堂々とした声。

王太子と闖入者としては、立場が逆のような声色でやり取りは続く。


王太子は、逃げなかった。自らが破局に導いたものが、復讐に来たのだと。復讐を受けても良いと、そう思っていた。


「殿下は仰られました。その髪色は不吉の象徴だと」

「……」


堂々とした声。


「殿下は仰られました。殿下と仲良くしようとする女を陥れようとしていると」

「……」


変わらぬ声。


「殿下は仰られました。お前は悪魔と契約していると」

「……」


響く声。


「殿下は仰られました。お前はこの国を滅ぼさんとしていると」

「……ちがう」


声。気付く声。


「概ね合っていたのです」

「ちがう」


声。否定する声。


「殿下は伝承に伝わる予言の力を、お持ちだったんですよ」

「ちがうんだ!」


よいことですね(・・・・・・・)

「こんなこと、望んでいなかった……! 朕は……僕は……!」


恐慌に狂う声とともにこつん、こつんと足音が響き。


「それでは、やることがありますので」


クロエ=ノワールはいなくなり、

血の混じった雹と雷はぴたりと止まった。


----


小一時間ほどの未曾有の天変地異の結果だが、

体調を崩した者こそ多く出たものの負傷者死者は共になく(・・)

ただ、人ならざる者が国を狙っているのではないか、という結論(・・)だけが国に共有された。


また、2年前から(・・・・・)一人娘とその祖父母(・・・・・)候から見れば実の父母(・・・・・・・・・・)が行方不明になっていたノワール候は天変地異を期に(・・・・・・・)一時すっかり意気消沈。爵位と領地を返上しようとしたが、王太子からの王への猛烈な意見具申により、爵位はそのまま、王領で過ごすことが許され、領地は王家預かりとするが徐々に近郊領に割譲する、ということで一旦落ち着いた。


----


さて、エガンカ王国には、誰もが信じている伝承がある。


初代国王のイカフ=グラン=エガンカには予言の力があったと。

未来を見てきたかのように語る初代国王イカフは、最期にこう残したとされている。


いつかこの国に、予言の力を持つ者がまた現れる、と。


またエガンカ王国の歴史書には、第6代目国王イサア=グラン=エガンカと、正妃アリス=グラエ=エガンカの間に子は出来ず、側妃との子が黒髪を持つ(・・・・・)第7代目国王となったと記されている。

ただ、側妃の名と姿は記録に残っていない。


婚約破棄の関わる恋愛もの(メリバかバームクーヘンエンド)を書きたかったのですが個人的な趣味の都合で本編部分に関わらない設定が肥大化、バトル路線に転がりそうだったので一旦バトるところはカッ飛ばしてテーマ(恋愛・異世界)に沿う短編としてキリのいいところまで書かせていただきました。

名有りキャラが一見誰も幸せになってないように見えますが! 恋愛です! ビッグラブです! ハッピーエンドです!!!!!


……すみません取り乱しました。設定上の答え合わせを数日後に活動報告に書きたいと思っております。

→11/30 21:39書きました。

活動報告

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/149900/blogkey/3372162/

からご覧ください。


感想、評価などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公も王子・アリスも、みんな「ハッピーエンド」ですね。みんな目的は達成し、王子は伝承に名を残す「名君」に、アリスは「無事」王妃になれたし、…クロエは国を滅ぼそうとして(いると思わせて)その子供が国を…
10歳の少女に何処まで求めてたんだろう? 結局悪魔付きにさせたのは屑王子であり王家。 こんな王家滅ぼしておけば良かったのに主人公。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ