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戦地へ

シロとクロが白の里へきて2ヶ月が過ぎた。


「お。クロ。今日はナスの収穫するから手伝いに来てくれよ」

「いいぞ。あとで子供達と行く」

「昨日の雨で川が増水してるから近づくなよ」

「わかった。ありがとう」


最初は白の人でないクロに戸惑っていた里の人達だったが、子供達と仲良く遊ぶ姿にだんだん心を開き今ではすっかり打ち解けている。


「イザナ。おはよう。子供達はまだか?」

「おはよう。まだ来てない」

「じゃあ、迎えに行こうか」


イザナは無表情だし言葉も少ないが、一緒にうちになんとなく感情がわかるようになってきた。子供達と5人、穏やかに過ごす時間はクロにとってとても楽しいものだった。



クロが里でみんなと過ごしている間、シロは修行に明け暮れていた。


「よし!一本とった!」

「あら〜。強くなったね、シロ君」


糸の格闘も相殺もかなり上達したシロは、イソラと互角に戦えることも増えてきた。


「クロを守るためなら、俺はどんどん強くなるよ〜」


イソラの前ではクロへの気持ちを隠しもしないシロだが、当の本人へは全く伝えられていない。


「それだけ言うならちゃんと告白したらいいのに」

「言えるわけないでしょ!向こうは兄弟だと思ってるんだよ。ふられて、最悪里に帰られてさよならだよ」

「随分悲観的だね〜」


シロは普段は恐ろしくマイペースなのに、クロのことになると急にマイナス思考になる。そんなアンバランスさを、面白いなぁとイソラは楽しんでいた。



クロはクロで、自分の気持ちに気づいた翌日に無理やり1人で風呂に入って包帯を濡らしてしまい、イザナに謝罪に行った際に全てバレてしまっていた。

以来、イザナは良き相談相手になってくれている。


「シロの気持ちは嬉しいんだけど、もうちょっと兄弟離れしてくれねぇかなぁ」


お昼ご飯でお腹いっぱいになったチヤが、クロの膝枕でお昼寝している。その頭を撫でながらクロがこぼした。


「でもシロのこと好きなら、一緒にいてくれるのは嬉しいんじゃない?」


同じく自分の膝枕でお昼寝してるトアとセンを撫でながら、イザナが答える。


「嬉しいけど、もっと自分のこと考えてほしいんだよ。兄弟なんていつかは離れてくんだからさぁ」

「離れていいの?告白しないの?」


イザナの指摘にクロの顔が真っ赤になる。


「告白⁉︎むりむりむり!向こうは兄弟としか思ってないんだし、下手したら里に帰されてそのままさよならだ!」


言いながらクロは少し落ち込む。

イソラからシロの気持ちを聞いているイザナは、この2人はなんでこんなとこだけ似てるんだろうと不思議で仕方なかった。




ある日。2人は長に呼び出された。

最初のことがあるのでシロは警戒してクロにピッタリくっついているが、長は全く気にしていない。


「イソラからシロの成長が目覚ましいと聞いています。素晴らしいことです。クロも子供の世話など里のために働いていただいてありがとうございます」


目が覆われてるのにとても豊かな表情で長は2人を労う。


「今日呼んだのは、シロにある里の蛮行を止める手伝いをお願いようと思いまして」

「里の……蛮行?」


シロが不思議そうに聞き返す。


「はい。白の人は年々増えています。そうすると考えの違う者もでてくるものでして。この里以外にも白の人の作った里があるのです。うちは普通の人との共存を目指していますが、そちらは過激派と言いますか………白の人だけの世界を目指すと言っていまして」

「………白の人だけの世界?」


シロの視線が一瞬クロにうつった。


「そうです。彼らは普通の人達を憎み、根絶やしにしたいと考えています。集落を襲い略奪の限りを繰り返す彼らを、なんとか止めたいというのが私達の願いです」

「そのために俺に戦闘に加われと」


シロは驚くでもなく冷静に話を聞いている。


「あの……そんな大事な話。なんで俺も呼ばれたんですか?」


まさか自分も戦闘に行けとは言われないだろうと、クロはここにいる理由がわからなかった。


「大事な話だからですよ。戦場に行くということは危険も伴いますから。シロが行くかどうか、2人できちんと話し合ってください」


長は穏やかな微笑みを2人に向けた。



その夜。2人はシロが戦闘に参加するかを話し合っていた。


「シロはどうしたいんだ?」

「俺?ん〜。強くなりたかったのはクロのためだから、別に他の里のことに興味はないなぁ」


シロは本当にクロのことしか考えていない。


「でも話に聞いたようなヤバいヤツらなら、うちの里も襲われるかもしれないぞ」

「あ!そうか!なら行こうかなぁ」


単純というか何と言うか。でも家族や里の人達を思い出して、クロも不安は感じていた。


「………なあ、俺も一緒に」

「それはダメ」


全て言い終わる前にクロの希望は却下されてしまう。


「傭兵団ならまだしも、今回は敵も味方も白の人なんだよ。危険すぎる」

「わかったよ。大人しく待ってるよ」


少し膨れっ面のクロが可愛くて、シロは糸で頬をつっついてしまった。


「わ。くすぐったい。お前、糸で触っただろ」


さらに膨れるクロが可愛くて、シロはニヤニヤしてしまう。


「はぁ。何ニヤニヤしてんだよ。戦場に行くんだから気を引きしめて行けよ。戻らなかったら許さないからな」


クロの言葉にシロは更にニヤニヤが止まらない。「返事!」と言われて「は〜い」と締まりのない声をだした。



翌日。シロは戦いに参加することを伝えた。

長からは感謝の言葉が伝えられ、数日後にはシロを加えた一団が戦場に向けて出発した。

着いた先は小さな集落で、白の人が5人、好き放題に暴れている。


「シロ君は僕と行くよ。ついてきて」


イソラと共に敵の1人と対峙する。

シロ達を敵と認識した瞬間、相手は糸で無数のナイフを投げてきた。


「うわ。お行儀の悪いヤツだね」


対するイソラは糸で全て弾き落とし、束ねた糸で相手に攻撃を加える。

ズシンと重たい衝撃が地面に加えられるが、敵には避けられてしまった。


「ふん。そんな遅い攻撃」

「なら、これはどうだ」


イソラの攻撃に敵が注意を向けている間に、シロは糸を使って高速移動をし、敵の背後に回り込んでいた。

傭兵時代から愛用している剣で敵を切り裂く。容赦のない一撃だった。


「シロ君、お見事。さすが元傭兵だね。初陣とはとても思えないよ」


話しているうちに他の仲間が残りの敵をやっつけ、あっという間に戦闘は終了となった。

被害にあった集落の手助けをしたかったが、襲ってきたヤツらと同じ姿の人間がいては混乱するだろうとシロ達はすぐにその場を立ち去った。



たった数日の不在だが、戦闘に行ってるということもありクロは不安な様子だ。


「シロのこと、心配?」


イザナがクロの様子を気にして声をかけてきた。


「あ〜。ごめんな。不安な顔して」

「不安を顔にだすのは悪いことじゃない」


イザナはヨシヨシとクロの頭を撫でる。


「シロは強いから大丈夫。クロは信じてあげて」


普段子供達を撫でてあげているからか、イザナのヨシヨシはとても気持ちがいい。

大人しく撫でられていると子供達がやってきて、「僕らも撫でる〜」とクロの髪はクシャクシャにされてしまった。


「………な、何あれ」


そんなクロ達を遠くから見つめる人物がいた。戦場から戻ったばかりのシロである。


『あんなにクロにベタベタ触って。しかも子供達だけじゃなくてイザナまで。ズルい……じゃなくて、羨ましい……じゃなくて、クロが困ってるじゃないか』


心の声がダダ漏れなシロに呆れながら、イソラがクロ達に声をかける。


「お〜い。戻ったよ〜。ただいま」


その声に全員がシロ達のほうへやってくる。


「おかえり!」


満面の笑みを浮かべるクロに一瞬で心臓を射抜かれたシロが、クロを抱きしめようと出てきた糸をすんでのところで止める。

その情けない様に気づかないのは、糸の見えていないクロだけだった。




それから度々シロは戦場に行くようになった。たいていは数日で帰ってくるので、心配はありながらもクロは待つことに慣れてきた。

そんな中、珍しくイザナも戦いに参加することになり、子供達も早々に家に帰るというのでクロが1人になる時間ができた。


『せっかくだし、里の散策でもしてみようかな』


子供達と里の色々なところをまわったが、ゆっくり全体を見たことはないのでクロは里を歩き回ることにした。

途中で会う人達に声をかけられながら、里の端にある大きな木までやってきた。


『やっぱり立派だなぁ。気になってたけどなかなか見に来れなかったんだよな』


木の下まで行ってみようと歩いて行くと、人の影が見えた。


『あれ?あんなヤツ里にいたっけ?』


見慣れない姿に不思議に思いつつも声をかけてみる。


「立派な木だな。初めて見に来たけど、お前も木を見に来たのか?」


話しかけられて振り返ったのは、ゾッとするほど綺麗な顔をした男だった。

思わず見惚れていると男が不思議そうに話しかけてきた。


「私が見えるのか?………お前、白の人じゃないな。なぜこの里にいる」


見えるって?え?幽霊?なんてマヌケなことをクロが考えていると、急に浮遊感を感じた。


「仕方ない。姿を見られたからには連れて行くしかない」


男の元に引き寄せられ、抱きしめられる。

その瞬間、奇妙な香りがしてクロの意識が途切れた。

そのまま男はクロを抱えて木の向こう側へ消えていった。

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