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チャプター00

土砂降りとはこのことか。前が見えないくらい、雨が降っている。傘も持たずに家を出てきてしまったので、びしゃ濡れだ。街行く人達はみな傘をさしている。傘も持たず、レインコートも来てていないのは僕だけだ。みんなは僕を避けるように歩いている。

朝から雨が降り続けていて、日も暮れかかってきた。

台風が近づいてきている。風はそこまで強くないが、雨はものすごい量が降ってきている。かみなりの音もする。

豪雨に雷、まるで僕の人生のようだ。僕はこれまでの人生を思い返す。


大学の受験に失敗して、浪人して挑んだ試験の前日にインフルエンザに感染。二浪するか悩んでいた時に、妹が大学受験を突破、誰もが知るような有名な私大に合格した。


妹は昔から、明るくて、おしゃべりで、頭の回転も早かった。

ついでに言うと、顔も可愛かった。よく街中でスカウトされたと言って、事務所の名刺を親に見せていた。

そんな優秀で家族の人気者の妹が大学に行く。


僕にかけられるお金なんか、あるわけがない。


大学を諦めて、就職を選んだ。

就職を機に家も出た。

人生、順風満帆な妹と一緒にいるのがつらくなったからだ。


就職した会社だが、その会社は僕には合わなかった。

徹底的に合わなかった。


会社の人たちは僕のことを、嫌っていた。

僕はその100倍、嫌っていたけど。

会社に行くのが億劫になり、休みがちになった。


そうしたら、あっけなく戦力外通告を受けた。

体調を万全にした方がいい、仕事よりも自分を優先しよう、などちょっと聞いたら、僕を気遣ってくれているようだが、なんのことはない、ただの厄介者払いだ。


こうして、僕は会社を辞めた。

少しの貯金と雀の涙の退職金で、食いつなぎながら、再就職を目指したが、思うように体が動かない。就職活動もままならず、ハローワークにも満足に通えないまま、貯金が底をついて、アパートを出て、実家に戻った。


実家では腫れ物のように、扱われて、部屋に閉じこもるようなった。

今では立派な自宅警備員だ。

そんな生活が半年も続いた頃に、家に強盗が押し入ってきた。

僕の虚言が引き金だったのだろう。

僕は予備校に通っていた時に、くだらないマウント合戦で、実家が金持ちだと嘘をついたのだ。

仮想通貨で億り人になって、現金化した。今も仮想通貨を持ち続けているやつはバカだみたいなことを言いまくってたんだ。

銀行に入れると税務署にバレるから、現金で家に隠してあるんだと余計な尾ひれも付いていた。


その話がどうにかしてて、悪い奴らにばれて、ついさっき、うちに強盗がやってきた。

言っておくが家は裕福ではない、並の貧乏家庭だ。下請けの下請けみたいな部品製造の会社に勤める父さんと、スーパーでパートをしている母さんの収入では食べていくのが精一杯で、大学進学だって厳しかったはずなのに、二浪までして、挙げ句自宅警備員の僕がいるんだ。

貯金どころか借金だってあったんじゃないかと思う。


ただ、父さんも母さんも僕には優しかった。妹は別だ。あいつは僕のことをトコトンバカにしてた。

生ゴミや虫の死骸でも見るような目で僕を見ていた。


僕が部屋でゲームをしていると、1階からものすごい音が聞こえてきた。

ヘッドフォンをしていたので、最初は全く気が付かなかった。

大きなものが倒れて、その振動音で気がついたのだ。


「っざけるなー」「早く出せー」見知らぬ男の声が響いている。

僕は怖くなって、机の下に隠れた。

助けるなんて一ミリも思わなかった。とにかく自分の命が優先だった。

「ギャーッ」この声は多分母さんだ。僕はヘッドフォンを被って音量を最大にした。

何も見ず、何も聞こえなければ、なかったのと同じ。

そう思って、目をつぶって、じっとしていた。


悲鳴みたいな声やものが倒れる音がしたが僕は動けなかった。

うずくまって、ヘビメタルを大音量で聞いていた。


やがて、ドアがバタンとしまる音がして、音が聞こえなくなった。

僕はそっとヘッドフォンを外した。

1階でなにが起こったか、想像するのも恐ろしい。

絶対によくないことが起こっている、それは間違いない。

それもとてつもなく恐ろしいことが。普通の人が絶対に体験しないような酷い出来事が起きているはずだ。

僕はノロノロと立ち上がって、ゲーム機を持ち上げた。こんなことではないはずだ。僕がしないといけないことは、ゲームを続けることじゃない。頭ではわかっている。

だけど僕はゲーム機を起動してゲームを再開した。サブクエストをクリアして、レア素材をゲットするんだ。僕は懸命にプレイした。今までで一番集中してプレイした。

するとサイレンが聞こえてきた、救急車のサイレンだ。僕は両手で耳を押さえた。聞きたくなかった。聞いてしまったら、さっきの出来事が現実のものになってしまう気がした。次にパトカーのサイレンも聞こえてきた。

家のインターホンが鳴らされた。僕はいよいよ手で耳を抑える。


僕を現実に引き戻さないでくれ。このままここでゲームをプレイしてれば何もなかったのと同じなのに。


部屋の扉が開いた。妹が立っている。涙を浮かべているのだろうか、頬が濡れているようだ。

それなのに、ものすごい形相で僕を睨んでくる。


僕は悪いことなど何もしていない。そうなにもしていない。なにもしてないのに。妹は僕を睨んでいる。

わかっている何もしなかったから、怒っているんだ。

僕はきっと、父さんと母さんを見殺しにしたんだ。


妹は何も言わずに部屋から出ていった。

罵声でもなんでもいいから、妹の声を聞くことが出来たら、もしかしたら僕は救われたのかもしれない。それは違うか、おこがましいか。


そして、僕は台風が近づいていくる中を、傘も刺さずに街中に出て行った。

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