第55話 頼まれても
お待たせ致しましたー
食堂に戻って、皆さんにごめんなさいってセシル兄と謝ってから……フィルドさんには『気にするな』と言ってもらったけど、今度はお膝には座らなくてお父様の横に座ったわ。セシル兄も空いている席に座ってくれた。
お母様はユリアさんと一緒に、ディオスのミルクあげに行っているからいないもん。
「なあ、リーシャ。君もチャロナのように、パン作りが少し出来るのかい?」
楽しそうににこにこしているフィルドさんの笑顔に、あたしはうんって首を縦に振ったわ。
「うん! ちょっとずつだけど」
お父様達のお知り合いだけど……異能のことは言わない方がいいかな? わかんないから、言わないでおこうかなって思っているけど。
「そっかそっか。……分けてもらえたりする?」
「え?」
いきなり、そんなこと言われるとは思ってなかったからびっくりした!?
けど、ちょーだいって手を出してるフィルドさんの頭に、マックス様がごんって音を出すくらい、おっきなげんこつをしてたわ!
「なーに調子こいてんのよ!? 数年ぶりに来たからって!?」
「えー? いいじゃん?」
結構痛そうな音だったのに、フィルドさんはほとんど痛そうにしていなかった。すっごい冒険者だったマックス様のげんこつ……痛くないのかなあ? 丈夫な人?
今度はケラケラ笑っているけど……今日初めて会うのに、すっごくこの場の人達と仲良しだ。お母様も喜んでいたし。
「まだまだ修行途中の子なんだから、無理言わないの! てか、リーシャ? 今パンはないんでしょ?」
「……う、うん」
今日はお休みの日なのと、昨日まで作ってあったパンはもうない。チーズバーガーは、屋敷の皆にすっごく喜んでもらえたの。だから、もうないの。
「……えー。そっか、ないかー」
「……ごめんなさい」
「リーシャが謝る理由はひとっつもないわ! こいつがいきなり来たのが悪いわよ!」
って、マックス様はフィルドさんにまた軽くげんこつをしたんだけど……痛くないからか、フィルドさんは何故か立ち上がって、
「はい! 俺も手伝うから作ろうよ!!」
「へ?」
「あんたねぇ!?」
いきなりの提案にびっくりしちゃったけど……マックスさんがおっきくため息吐いているってことは。
フィルドさんは異能を知ってる?
お母様の異能で先に知ってるのかな?
だとしたら……あたしの『幸運の錬金術』も教えていいのかな??
「いいじゃん? 俺がチャロナの異能は知ってるんだし。リーシャにもあるんでしょ?」
「は、はい! あ」
フィルドさんの質問に、つい答えちゃった。でも、お父様達もマックス様のようにため息してるだけだから……ダメじゃなかったみたい?
「……知られたら、しょーがないわね? けど、リーシャは今日は休暇日よ? 色々作り過ぎてたんだから」
「んー、そっか? じゃ、リーシャ。ちょっとこっちおいで?」
おいでおいでと手招きされたから、あたしはフィルドさんの方に行ったんだけど。ポケットから出したのか、フィルドさんの手には青い飴玉があったわ。
「飴?」
「これ舐めてみて?」
ひょいって口に入れたら……すっごく甘いけど、ちょっと酸っぱくて。
ころころ転がすと……幸せいっぱいな気持ちになったわ!!
それと同じくらい……まだ残ってた疲れがスッキリ消えたの!!
次回は月曜日〜




