第174話 親としては複雑(チャロナ視点)
リーシャが、セシルくんのお屋敷に向かうのを二階から見送ってはいたけど。
私の側で、眉間のシワがすごいカイルキア様は……すっごく複雑そうな表情をしていたわ。婚約時期は貴族としては遅くないらしいけど……まさか、小学生同士で初キスをするとは思っていなかったでしょうね?
転生した私ですら、それはなかったぽいけれど。可愛い子どもたちの将来は安泰だと……逆に安心しちゃう。
今のところ、内乱も紛争も何もないから、私たちが無闇に狙われることはもうないから。
「ふふ。カイル様? すごい顔ですよ?」
でも、親として複雑なのはどうしようもないもの。私たちは立場上いとこ同士とかいろいろあって……今があるから、大丈夫でも。
親友の子ども同士が婚約するのは、カイルキア様的にはまだ複雑みたい。セシルくんは、すっごくいい子でも……お父さんがフィーガスさんだもの。
「……わかってはいる。だが、こんな早いのか」
「シャルさんから聞いてますけど……王族としては遅くないようですが」
「昔はな。だが、うちは一応王弟殿下の家系……少し遅い方でもある。俺と君も、ソーウェンとの障害がなければもう少し違っただろう」
「ふふ。でも、いろんな人に言い寄られても……貴方様しか選ばないと思います」
ただの転生者だと思っていたときは、叶わないものだと奥底で諦め。
受勲してから、曖昧な自信を持ってもどこか目で追ってて。
それが、『チャロナ』なのか『千里』なのかは今でも判別はつかない。
一番は、作ったパンを美味しそうに食べてくれたあの顔を見てからだと思うの。氷の貴公子がジャムたっぷりにしてでも、嫌いだったパンを食べてくれたことに。あれは、嫌いなのを誤魔化す食べ方ではなかった。
「……そうだな。俺も、君しか選ぶことはとっくに決めていた」
さらっと、こんなにも胸キュン台詞を言えるんだから……お義父様の王弟殿下と、そこは似ているかもしれない。手を掴まれて、ぎゅっとハグしてもらえるのは、いつだって嬉しい。早くに結婚してリーシャを産んだから……二人目のディオスを少し前に産んでも、まだだいぶ若い。
遊び盛りの二十代くらいだけど……公爵夫人でもあるから、そんな遊ぶ時間はないけどね? 男の子出産で、育児はメイドさんたちが楽にしてくれているけど……自分でも覚えなくちゃ。
「枯渇の悪食は潰えても、まだ完全にパン以外のレシピも戻っていませんから。皆でいっしょに復興は頑張りましょう?」
「そうだな。……しかし、君を愛でるのも忘れたくない」
「はひ!?」
話の流れがアレだから……まさかのお誘いをされてしまった!? たしかに、出産後のアフターケアが終わるまで添い寝もなかったが……もしかして、今日呼んだのは確認のためもあって!?
でも……嫌じゃなかったから、三人目は控えてとはお願いしちゃった。




