信じる
「おれの話なら、おれが悪いんだし、女に謝れば、どうにかその場はしのげる」
「・・・おめえ、ほんっとにこの先もなおらねえな・・」
あきれたそれに、説教は今度聞くから、と片手をあげた男が、身をかがめるよう、顔を寄せた。
「―― ヒコさんは、フシギな話を信じるかい?」
「・・・・・・・」
――― ああ、やっぱりな・・・
聞きたくないと思った理由がはっきりし、急に腹を決める。
「―― 『信じるか』、と聞かれりゃあ、まあ、信じるさ」
「へえ、意外だなあ。てっきり笑い飛ばされるかと思った」
眼を丸くしてこちらを見るチョウスケは、ヒコイチがこれまで出あった『フシギ』など、知るよしもない。
話すつもりもないが、驚いたのをちょっとばかり安心させてやろうと気をつかう。
「―― まあ、おれも商売がら、ちょっとばかしいろんな話を聞かされるんでよ」
流しの物売りのことを言えば、ああなるほど、と納得した顔が頷いた。
たしかに、毎日いろんなものを担いで売り歩いていれば、さまざまな噂から流行りまでが、勝手に耳に入ってくるので、まんざら嘘でもない。
チョウスケが、えらく何度も、そうだそうだ、と頷きながら、「それなら、」とさらに身を低めてヒコイチを見た。