ききたくねえなア
なかなか切り出さないその口に酒を流し込ませ、まあ話してみろ、と促すヒコイチのことを『さん』付けで呼ぶチョウスケは、自分の情けなさを認められる素直さを持っている。
だが、だらしなさは、なおせない。
「・・・女が、よお、」
「だから、女がどうしたってんだ?さっきから、先に進んでねえだろ」
「・・・そうか。・・・うん・・・」
「また、こじれたか?」
どう考えたって、そんな話だろう。
「いや。そうじゃあ、なくってよ・・・」
ところが、普段と違ってチョウスケが、なかなか自分のしくじりを話さない。
聞きもしない細かいところまでしゃべってくるあの口が、うまくもない酒を、ちびちびと舐め続ける。
それをながめていたヒコイチの後ろ首が、一瞬、ぞわりと総毛立つ。
―――― ・・聞きたくねえなあ・・・
ふいに、眼が合ったチョウスケは、そんなヒコイチの心を読んだよう、何かをいいかけて、視線を猪口へと逃がした。
「 っあああああ! じれってえなあ! さっさと話せっ! 」
こちらをうかがうその様子に何かが切れて大声で命じれば、焦ったように猪口を置いた。
「わかった、わかったからヒコさん、もうちょい声をおとしてくれよ」
「ふん。地声がでかいのはしかたねえだろが」
「わかってるけど、これは、その、――― ある人の悪い噂になりかねない話だから・・・」
「・・・『ある人』?おめえの話じゃねえってのかい?」
すっかり予想を裏切られた様子のヒコイチに、苦い笑いをみせた相手は、だから話しづらい、と開襟シャツの襟を引っ張る。