こわいのは
これでおわりです
「・・・『前の人』ってのは、―― なんだ?」
チョウスが自分のことのように胸をはる。
「おれの前に庭木を手入れしていた人がな、木を切ってるとき梯子から落ちて死んだのよ。―― なんでも植木屋にいたとかで、すごく庭の手入れがうまい男で、若いのにかわいそうなことをしたと旦那様がひどく残念がってな。―― 仕事中に死んだのだからって葬式もお屋敷でしてやって、残した家族に困らないだけの香典をつつんでやったって。 どうだ?ふつう自分の家の庭で死なれるなんて、嫌がってさっさと忘れるようしむけるだろう? なのにうちの旦那様は、本当に立派で、いい方だろう?」
――― おい、おまえ、まさか、オタマに言い寄られたのか!?
チョウスケに詰め寄ったという、旦那の様子を思い浮かべたヒコイチは、とりあえず、この素直で女にだらしのない男が、『最後まで』しっかりとつとめられるよう、言葉をおくった。
「―― なあ、チョウスケ。・・・おまえ、庭の手入れ、へたでよかったなあ。植木に言い寄られるくらいうまくなっちまったら、《誰かさん》に梯子をゆすられるかもしれねえから気をつけな。 まあ、・・・おまえが長屋のみんなに自分の香典で恩義を返したいって言うならべつにいいがよ」
にゃあああ
『 こわいのは、女のねたみか、
男のそねみか 』
割れがねのようなひどい声はどこからしたのか。
チョウスケの足元で黒猫が鳴いていた。
最後まで読んでくださった方、目をとめていただいた方、ありがとうございました!




