たちがわるい
まあ、ヒコイチにしてみれば、『またか』というところだ。
なにしろチョウスケは女にだらしがない。
性質がわるいことに、自覚がない。
長屋に女がのりこんで来たこともいくどかあり、そのたびに、ヒコイチが出て行って女の刃物を取り上げたり、おかみさん連中とつきそって大家に頭をさげにいかせ、追い出されそうなチョウスケを助けたり、と、面倒をみてしまっている。
この男、ヒコイチよりも二つほど年が上のはずなのだが、どうにも世の中をなめているところがあって、今、下働きをしている家に決めたのも、大きな屋敷だから住み込みで雇ってくれると思い、口をきいてもらったという甘さだ。
けっきょく長屋から、いまだにかよっているはずなのだが。
―― しばらく、みかけなかったな・・・
チョウスケの甘い、言いかえれば楽観的な考えかたの原因は、どうやら育ちにあるようだ。
チョウスケは、ここから海沿いに下っていった先にある、漁業と棚田が盛んな土地の、大地主の次男坊らしく、いままでたいした苦労もせずに育ち、さしたる目的もなくここへやってきて、親からの金で三年ほど遊んで暮らしていたという。
二十歳をすぎてようやく親も目が覚めたらしく、仕送りを打ち切った。
驚いた息子は、とりあえず、懇意にしていた芸子をたより、そこから踊りや歌のお師匠にながれ、さらには料理屋の後家さんにまでいきつくような、 女をたより、流されるままの暮らしを始めた。
これで、『こじれ』ないわけが、ない。
どうにか、自力で稼いで暮らしをたてはじめたあとも、そのときから根っこは変わっていないから、とにかく、女に関しては、ダメだ。