なあ、チョウスケ
そう言って旦那が笑う声は、どこにも『困る』ようすなどうかがえない。
それどころか、チョウスケを実際に会わせてみたが、やはり女が自分を選んだことを、自慢するように喜ぶ。
――― いやいや、チョウスケ、残念だったな。聞いただろ?オタマはこのおれのほうが、良い男だと言っていたなあ。おまえはそんなに若くて、顔かたちもいいのになあ
――― い、いえ、旦那様、その・・・オタマ様の言葉はもっともでございますが、・・自分には、あの・・・声が、聞こえませんで・・・
声をしぼって言ってみる。
たしかにフシギで怖かったが、あの女たちは旦那様の女だという考えが頭をよぎり、『怖い』とか『気持ち悪い』という感想は、喉奥にしまいこみ、ただ真実を口にした。
すると、むこうをむいたままの旦那が気持ちよさげに高笑いし、煙管をかつんと盆においた。
――― そうか、そうか。声すらも、おまえには聞こえないのか。そうなのか
息をひくようにしまい、旦那がようやくこちらに身をひねった。
――― そりゃあ残念だ なあ、
ちょお《ちょうすけ》すけ ?
ふりむいた男の顔の中、両頬と額にもりあがった三人分の目玉がチョウスケをみつめ、旦那がよばったこちらの名前が、ぶれたように、女たちの声と重なった。




