閑話 異世界神
☆日本国昭和34年東京某所
「なあ。お前らの家は邪教だ。俺と一緒に支部に行こうぜ!そこで幹部の話を聞いてくれ」
「はい、はい」
「そうか、そうか」
・・・俺は山田太郎、正法に帰依をしている。何が正しいかって?それは鎌倉時代に結論がついている。大聖人の教えさ。
こいつらの宗教は先祖代々邪宗だ。間違った宗教をやっているから、俺が救済してやろうとしているのにてんで話を聞かない。
「支部長!啓蒙活動が全然上手くいきません!」
「うむ。100万回、題目を唱えれば新たなステージに行ける。やってみなさい」
「はい、支部長!」
そして、俺は毎日支部に行き、家でも題目を唱えた。
「ナンミョーホーレンーゲーキョ、ナンミョーホーレンーゲー・・・」
「・・・太郎は、仕方ない。知り合いに頼んで就職してもらおう」
「お父さん・・・・大丈夫かしら」
半年後
「支部長!100万回達成しました!それに題目を唱えていたら就職も決まりました。功徳が現れました!」
「うむ。君を表彰しよう!その体験談を機関誌で全国の同志に届けよう。楽しみにしていなさい」
「はい!」
その日、俺はスキップをしたい気持ちで家に帰った。
ププーーー「ドケー引かれるぞ!」
バン!
・・・俺はトラックに引かれ、目が覚めたら、見知らぬ人たちが、前に大勢いた。
なんだ、こいつら、耳が長い。アメリカ人に長い耳が付いているぞ!
どこだ、ここは?
あれ、動けない。
「族長、異世界召還成功しました。精霊様の像を依り代にすることに成功しました!」
「うむ・・うまくいったか。これで、森の恵が戻ればいいのだか」
「ええ、祈りましょう」
・・・おい、お前ら、その祈りは違うだろ。俺は正法をやっているのだ!邪教だ!謗法だ!
「ボーホー、ボーホー」
像から、奇怪な音が発生し始めた。
「ヒィ、こいつは精霊ではないのではないのか?」
「そんな。確かに異世界の精霊を召還したのですが・・」
「ええい、封印だ!」
・・・俺は捨て置かれた。しかし、俺には力があった。俺は精霊を眷属にすることができる。
といっても、こいつらが精霊と読んでいるフワフワした存在を、俺が正しい姿に戻したのだ。
TV漫画でみた光線銃のように、額から光を発して、俺の教えを注入し、俺の弟子にすることに出来る。
そして、耳長族が去り、人間たちがやって来た。
「な、なんだ。これは?精霊様の像がある。エルフが放置したものか・・・何?何?古エルフ語で書いてある。誰か読める者・・ていないか。まあ、何だ。そのままにしておくか」
・・・やがて、森が切り開かれ、畑が開墾され、村が出来。街が出来た。
そして、商人と村長が、俺の元に来た。
「おおーこれは、エルフ族が作った精霊像か、年代物だ!売ってくれ。誰も信仰していないのだろう」
「・・・やめておいた方がいいぞ。俺たちも扱いに困っている」
「何かあるのか?」
「ああ、聖女様や聖人様、精霊の愛し子様やエルフの森神様の巫女殿やドワーフの酒神の守護人殿が来ると、『ボーホーボーホー』とカタカタ揺れて、鳴くんだよ」
「何だそりゃ。不吉だな」
「それに、古エルフ語でな。注意書きが書いてあってな」
「祈れば現世利益あり。ただし、対価あり。他人の不幸が対価なり」
「何だ、そりゃ、邪・・」
「待て!像の前で言うな・・俺見た。光を捕まえていて、体に取り込んでいるところを」
「・・・買うのやめとく、正直に話してくれて有難う。次は貴方の村で商売させてもらうさ」
「ああ、俺が嘘を付くときは、家族や善人を守るときと決めている。だから、あまり信用するなよ」
「ハハ、やっぱり、正直者だな」
・・・俺の前で、何かを話してやがる。
ここはすっかり、森が遠くなった。精霊はいないな。
眷属も人の気ですっかり弱体化している。そろそろ森の気を喰わせなければ
と思っていたら、夜中に連れ出してくれた奴らがいた。
「そっと運べよ」
「ザック、このエルフの文字盤はどうする?」
「ああ、いらねえ。どうせ。読めねえしな」
・・・その後、俺は森の近くの古びた聖堂に連れて行かれた。
お、こいつ、ザックとかいう奴は俺と同じ匂いがする。信心深いのだろう。
そして、こいつは俺のために教団を作り、儀式を始めた。感心な奴だ。
こいつが、もっと、活躍できるように功徳を与えてやろう。
「おお、何と、お前の実家の両親が、亡くなったぞ。お前が乗り込む余地が出来た」
「ええ、私が形だけ継いで、貴方が当主をすればいいわ」
「サロメ、やったな」
・・・フフフ、この像を盗んでから良いことばかり起こりやがる。名前を精霊教のオリハルコン教団にする。他の精霊教と同じに5歳になったら、精霊詣をさせればいいか?
5歳になる子供たちが、精霊像になった山田太郎の前に連れて来られた。
・・・感心な奴の子供には当然、守護を付けてやろう。
お、ザックの娘か。5歳になったのだな。
う・・・こいつ、邪教の巫女だ。ザックの娘だが、仕方ない。危ないから警告してやろう!
「ボーホーホーボー」
俺は眷属を動かし、出て行くように嵐を起こした。
「キャアアアアア」
「お嬢様、こちらへ」
「はい」
「まあ、お嬢様、嵐の精霊様が来られたのかしら、このドナ、鼻が高いです」
「・・・ううん。何か違う・・」
・・・次の年に期待するしかないな。
精霊像になった山田太郎は知らなかった。
女神が見ていたことを・・
最期までお読み頂き有難うございました。