第2話 転機
☆月日は流れた。
「まあ、リアン様、あの、庭で草を食べている方がいますわ。あれはなんですの?」
「まあ、皆様は初めてご覧になるのね。『あれ』は無能ですわ。目障りね。ほら、無能、お菓子をあげるから、あっちに行きなさい」
ポンとマフィンを庭に投げ捨てた。
まるで、浮浪者のような格好をした少女が飛びつく。
しかし、リアンは口角を上げて、マフィンに指を差し詠唱する。
「着火!」
「ご、ごはん。ごはん!キャ!熱い!」
少女がマフィンを手に取ると、マフィンは燃えた。
「まあ、また、同じ手に引っかかって、頭が悪いわね。リヒト、お願い。私の魔法だとこれ以上やると火事になっちゃうから、追っ払って」
「分りました。姉上。ウォーターカッター!」
「ギャアアアアアアア、イタい、イタい、血が、血が止まらないよ!」
「ほら、姉上とご友人のお茶会の目障りだ。あっちに行け!」
少女は森に逃げ出した。森には薬草があるからだ。
「お薬、草、お薬・・」
「姉上とご友人方、目障りなあれは行きました。私はこれで兵と見廻りに行きます」
弟は去った。
「まあ、弟様?素敵ね」
「ええ、そうなの。どなたか良い人いないからしら」
「「キャアアアア」」
・・・
「お薬、お薬・・・血が止まらない。止まらないよ・・・」
ガタンと目が暗くなり、倒れた。
「はあ、はあ、はあ、私は死ぬの・・・フフフ、やった。良かった・・もう、お腹すくのも、イタいのも、熱いのも、寒いのも、とがったもので刺されるのも。バカにされるのも、何もかも開放される・・・」
・・・
気が付いたら
少女は白い空間の中にいた。
「うううん、ま、まさか、地獄?無能は地獄にも行けなくて、魂は滅するハズだけど、ヤダよ・・」
目の前に、白い服を着た女性がいた。金髪で目は薄い翡翠。顔は美人だが、険しい表情をしている。
しかし、姿は薄い。おぼろげで時々、水面に映った姿のように揺らぐ。
彼女は少女に語りかけた。
言葉は途切れ途切れになっている。
「我は女・・神、我の愛しい子よ。そなたのギフト・・聖女だ。我は神々の協定で直接・地上・・力を使えない。我の力は及ぼせない。代わりに異世界神の彼奴を討伐出来る力を授ける・・い・・同じ・・異世界の・・・りょくを授けよう。今、同胞の力で、そなたに語り・・いる。」
「ううううう、お姉さん?誰・・・」
(ユサユサ)
あれ、体が、揺らされている・・
「これまでだ。起きて・・安心させておやり」
「え、私は・・・」
(ユサユサ)
ユサユサと体が揺れされて、意識が戻った。
「「「峠を越した!」」
「私はフラン。貴方の名は言える?意識は」
「え、と、私は無能・・名前は・・・えっと言うのは禁止されている・・」
「「「!!!」」」
3人の若者の冒険者グループが少女を介抱していた。
☆
「ヒール!もうこれで大丈夫だよ。あ、でも、まだ寝ていて、今、フランが粥を作っているかな」
「え、え、無能に優しくすると、無能が感染するよ。皆にバカにされるよ。殺されるよ・・」
「・・・大丈夫だ。ここのテントの周りは、隠蔽魔法が掛かっている。遮音魔法も掛かっている」
「グスン、グスン、こんなに小さい子が・・もしかして、贄の子かな」
「ニエ?わからない。私、小さくない。15歳だよ」
「「「!!!!!」」」
「そ・・そんな、10歳ぐらいにしか見えない。私たちは他領から来た冒険者よ。あなたのことを教えて」
「私たちは、冒険者グループ『落ちこぼれの挑戦』、私はリーダーの器用貧乏のフランよ」
「俺は意見しすぎウザいのポーターのハンス」
「私は落第魔法士のローザ」
「話せるところだけで良いから、貴方のことを教えて!」
・・・長いこと、長時間、他人と会話をしたことのない彼女は、たどたどしく、要領の得ない話をしたが、三人は一心に聞いた。
「グスン、グスン、可哀想って言ったら失礼だけど、もう大丈夫だよ!」
フランと名乗った女性が少女に抱きつく。
「え、ええ、ええ」
「ごめんなさい。きつかった。イタかった?」
少女はフランの首に巻かれているスカーフをじっと見ている。
「ああ、これは女神教の聖布。御守みたいなものよ。体の一部に付けると加護が付くといわれているもの。聖女様に守護の聖魔法を掛けてもらったの。怪我や病気になりにくいと言われているわ」
「ウウウ、何か。夢の中で語りかけてきた人と・・同じ匂い?雰囲気がする」
「???よく分からないけども、貴方が女神教徒になったら、頂けるわ」
ハンスは誰にというわけではないが、話し出した。
「ウグ、グスン。俺は精霊教徒だけど、こんな精霊信仰きいたことないよ!やっぱり、この土地はおかしい!」
ローブを被った魔法士のローザも同意する。
「私は女神教徒だけど、ここまで、神気がない土地は初めて、ねえ、この子を連れていかないかな?」
「「いいね」」
「え、え。ダメ、ダメ、私に関わると・・迷惑が掛かる。外の領地に出ると私の体は破裂し、呪いをまき散らすって・・」
「「「・・・・」」」
「ねえ、いきなりじゃ難しいね。そうだ、時々、会ってお食事をしたり、お話をしたりしない?」
「話をきいたところ、君は1日八時間以上、ごはんを探しているのだろ。だから、ちょっと抜け出す分には大丈夫だよ」
「そうね。私たち毎日は来られないけど、このテントにご飯を置いておくのがいいかな?このテントの入り方を教てあげるかな?」
「・・・ごはん。食べたい・・」
「だけど、これは私たち四人の秘密よ。他の人に教えてはダメよ。約束できる?」
「う、うん。それなら」
・・・こんな人たち初めて、何故、こんなに優しく出来るの?
5歳のあの日から、初めて、人の優しさに触れた。
最期までお読み頂き有難うございました。