第18話 魔王に会いに行こう
あの砦の惨劇が終わって、1年経過し、私は16歳になった。
今は、聖王国の教会にいる。
聖女は、聖王国の管轄だからだそうだ。
「法王様!私は反省しました!そこの殺人鬼が、何故、無罪放免で、献金をいっぱいした私が神官見習いなんですか?!」
「・・・フォフォフォ、ダクラス殿、だからじゃよ。目障りだから連れて行け」
「「はっ」」
「見習いダグラス、こっち来い!」
「私は公爵だぞ!」
・・・ワシは人の魂を見ることが出来る。本当に反省しているかどうかを見極めるギフトがある。
それだけで、法王に推挙された。
今日も、裁判の判定やら忙しいが、全てキャンセルじゃ。
何せ、この子の魂はずっと綺麗なのだからな。それに、女神の声を聞いたことがある希有の聖女、教会に欲しい。欲しいのう。
「ローズマリー殿、考え直して見ませんか?貴方なら、大聖女としての席を用意しますぞ」
「そうなのです!ローズマリーちゃんは、私と一緒に頑張るのです!」
「・・・法王様、ロザリー様、私は冒険者になります。お世話になりました」
深々と頭を下げて数少ないお話相手だったお二人とお別れをした。
・・・私は砦で眠った後、あの冒険者に連れられて、釣り目のお姉さんの家でお世話をされた。
その後、聖王国で聖女としての教育を受けることになり、今日、修了した。
教会では、あのアップルフィールドの殺戮聖女として、法王様とロザリー様以外、声を掛けてくれる人はいなかった。
あれから、祈った。祈ったが、あの時の夢に出てきたお姉さんの声は聞こえない。
「あれ」
視線を感じる。
まだ、あの2人は、門で見送っている・・・私の姿が消えるまで、見送るつもりなの?
ローズマリーは振り返り深々と頭を下げた。
☆☆☆冒険者ギルド
「貴方、聖女様でしょう?私のパーティに来てよ!村がゴブリンに襲われている。クエスト受けたのよ!」
「はい。ローズマリーです」
「あ、私はベッキー、こっちは、トムと、魔導師のリリーよ」
「「「よろしく!」」」
・・・あの3人に似ていると思ってついていった。
しかし、私は世間知らずだった。治安の良いのは、釣り目のお姉さんの領地と、王都近辺だって知らなかった。
長い魔族との戦争で、傭兵が盗賊化していると身をもってしることになる。
「「「ギャハハハハハハハ!」」」
「世間知らずの馬鹿聖女だよ!」
「ねえ、サムソンの旦那、買ってくれよ。小さいけどさ。小さい子が好きな旦那衆知ってるよね」
「おお、ベッキー、しかし、お前も、こいつに冒険者保険をかけて、死んだ事にして、お金もらうんだろう。ちゃっかりしてるな」
「へへへ、経営手腕がしっかりしていると言ってよ」
「おお、こいつ、何も話さないぞ。ビビっている。ほら、女神様~と言ってみろ。俺の親父は、敬虔な女神教徒だったけどよ。村を荒らしに来た傭兵崩れの盗賊に殺されたんだ。ほら、言ってみろ。女神様~助けて~とよ」
「ギャハハハ、それいいぜ。サムソンの兄貴!」
「お、こいつのバックの中に・・・ギャ、子供用の文字の教習本が入ってる!」
「お前も読めねえだろうが、聖女にしちゃ、ボロボロの聖女の服と、汚い靴、こいつ、本当に聖女か?」
プツン!
3人からプレゼントしてもらった服と靴、絵本を馬鹿にされて、ローズマリーは、静かに切れた。
もう、こいつらの話に耳を傾ける必要はない。何故、犯罪に走ったのか?聖女らしく懺悔を聞く必要が感じられない。
「お~い、聖女ちゃん。泣いてないで、あれ、俺の腕がない。血が・・」
☆5分後
「ヒィ、女神様、助けて、お前、いや、貴方様は聖女様ですよね!反省しました!」
「・・・お前の罪と女神様は関係ない・・・」
あの教団の奴らと同じだ。何かにすがって、すがって、すがって、言い訳をして・・・
「ヒィ、聖女様が無詠唱の魔法を使うなんて知らなかったのです・・・・」
「聖女様、私には家族がいます。家族を食わすために、仕方なく、奴隷商売を・」
ローズマリーは考える。
実は、これで、三件目である。
あの3人、フラン、ハンス、ローズの3人の存在が奇跡だったのだ。
「・・・安心しろ。家族とお前らの罪は関係ない。家族は襲わない」
「「「それじゃ」」」
パチン!
と指を鳴らすと、全員の足の腱が切れた。
「「「ギャアアアアアア」」」
「ここは、魔物が出る森、一晩、過ごして、生き残っていたら、命は助かることになる。冒険者ギルドに報告をする。明日の午後には、衛兵隊が来るように手配する」
「「「ヒデェ」」」
☆☆☆冒険者ギルド
「分かりました・・・これで、三件目ですね。そして、生還をされた。もしかして、貴方は高位の聖女様ではないですか?もし良かったら、ギルドの顧問として、治癒魔法士として、勤務しませんか?」
「・・・興味ない」
・・・もう、疲れた。そう言えば、あの砦で出会った黒髪のお姉さんは、私の力に耐えられる者は・・・魔王と言っていた。優しいお姉さんに殺してもらうのは忍びない。
魔王と戦って死のう。
魔王を倒してしまったら、黒髪のお姉さんに、殺してもらえばいい。
☆☆☆魔王城
「フン。それで、全力か?」
・・・キツい、身体強化魔法マックスだぜ。
私は、両手を魔王に向けて、体がバラバラになるように力を放っているが、魔王はイスから動きもしない。
なら・・いや、この魔王、周りを巻き込むなが、戦いの条件、城を崩したら、他の魔族に怪我をさせる。
おかしい、魔王なのに、こいつの周りには、魔族が沢山、心配そうに見守っている。
ピチン!
「あっ」
魔王に何かを弾かれた。空気の固まり。透明だからよけきれない。気が遠くなる。
バタン!
・・・フフフ、私は負けた。これで、お終い。バラバラにされて、殺される。
それも、良いだろう。
「ダッセー、聖女1匹で魔王城に乗り込むなんて、アハハハハハ」
「「「アハハハハハハハ~」」」
【黙れ~お前らに、この子の100分の1の勇気と実力があるかよ!?】
「「「申訳ございません」」」
「お~い、戦いは終わったぞ。ダークエルフちゃんたち、いいぞ!」
「「「は~い。手当と湯浴み、ご案な~~~い」」」
(へ、へ、私を殺してくれないの・・)
ダークエルフの女性達に連れられて、ローズマリーは手当と、湯浴みの世話を受けることになる。
☆次の日
「魔王城で聖女服を物干し竿で吊す光景を拝めるとはな。
あのな。ローズマリーちゃんよ。あんたね。魔族の村を襲わないで、魔王軍の軍団の駐屯地に1人で行って、魔王と戦わせてくれって、言ったって?」
「はい・・」
「だからだよ。殺すわけないじゃない?」
「・・・私は負けました。殺して下さい・・・」
「はん。今のお前は殺す価値もない。その着替えの服はやるからよ。聖女服が乾いたら、とっとと、帰りな」
・・・
・・・そうだ。やっぱり、あのお姉さんに殺して、もらおう。
ローズマリーは、冒険者ギルドに、アリサと連絡を取りたいと依頼した。
「おお、やはり、SSS級とお知り合いでしたか・・分かりました。連絡を取れるように、依頼しましょう。しかし、連絡をしても、来る来ないはあちらの気分次第ですよ」
「分かった・・・」
(覚えてくれているかな)
心配とは裏腹に、わずか、数時間後、アリサはバイクでやって来た。
「ローズマリー・・・ちゃん。久しぶり・・覚えて・・くれていた。嬉しい」
ギュウと抱擁をするアリサの耳元で、ローズマリーはつぶやいた。
「・・殺して下さい。お願いします・・・」
一瞬の沈黙の後、アリサは破顔を崩し、真顔になり。一言。
「・・分かった」
と返した。




