第16話 お母さんの歌
「お前は、だぁ~れ?まあ、いいか、死んじゃえーーーーー」
少女は力をアリサに向かって放つ。
アリサの右腕が、一瞬、ビクンとはねる。
しかし、すぐに元に戻る。
(射程180メートル、やや読み違えた。それにしてもすごい威力ね)
「???あれ、あれれれれれ、まあ、いっか。なら、死体投げ!死んじゃえ!」
少女の周りの死体が浮かびアリサに向かって飛ぶ。
アリサは軽く手で払う。
(放物線を利用している。賢い)
次に、地面が沈む。
アリサは軽々ジャンプをして躱す。
「あれ、あれ、何故、死なないの。私は無能ではない。ちゃんと殺せるんだ。死んじゃエーーーーー」
「お、ふん」
アリサは思わず声をあげた。足に力を入れて踏ん張る。体が宙に浮かびそうになった。
(高く浮かせて落す戦術ね。力に頼ってない)
いくら、力を放っても近づいて来るアリサには通じない。
「はあ、はあ、はあ、やだよ。また、無能に戻るのはいやだよ。死ね。死ね。何故、死なないの!」
少女は焦る。
こんな時は、
深呼吸だ。
私の役割は復讐者
観察をする。
すると答えが出てくる。
「!?あれ」
冷静になったら、
アリサから鼻歌が聞こえて来た。知っている調べだ。
「フフフフ~~~~ン♪」
アリサは音痴であるが、あれはフランが歌っていたお母さんの歌と判別できた。
「敵じゃない・・」
少女は、目を見開く。
もう、力を使わない。
やがて、距離は、剣の間合いになる。
拳の間合いになったときに、アリサは止まった。
「こ、これね。身体強化魔法、貴女すごい・・・自信、持つ・・いい。魔王と私以外・・・耐られる人・・・いない」
「あっ」
と声を小さくあげ。アリサは身体強化魔法を解く。
体にまとっていた青い光が消えた。
・・・戦闘態勢でお話もないものよね。
この子が力を使ったら、それでいい。私の存在は本来ならこの世界にあってはいけないもの。
アリサはぎこちなくニコッと笑って少女に話しかける。
「お話・・に来た。お話・・しよ」
少女は口を開く。
「そのお歌は・・どこで」
「ああ、親切な冒険者・・から教わった」
☆☆☆5年前
・・・私は父様と母様を弔った後、思い出の詰まった家で、餓死をしようと寝ていた。
兵がやってくる。殺してくれると歓喜した。
しかし、奴らはあろうことか、父様と母様の家を燃やす。
ボオオオオオオオオオーーーーー
「いいぞ。家ごと、化け物を焼き殺せ!」
「異世界人め!」
パン!パン!パン!
「「「ギャアアアアアア」」」
私は怒りのあまり、異世界の武器で奴らを殺した。
もう、父様と母様もいない。思い出の家も無くなった。生きていても仕方ない。
追ってくる兵を殺して、殺して、殺して、森に入った。
森ならば、誰にも邪魔されずに、餓死が出来るだろう。
魔物に喰われるのも良いだろう。
あ、魔物が来た。あれは肉食・・・私は目を閉じた。
カンカンカンカン!
うん?鍋をたたく音がする。
「こっちだよ。キメラ!ローザ!私に俊足の付与かけて、囮になる。ハンスはあの子を助けて!」
「わかったかな。エイ!」
「お嬢さん。こっちだ!」
☆
「君、ここは魔物の森だよ。寝ていたら危ないよ。なんでいたの?」
「え、と、死に・・たい」
グゥウウウ~
お腹の音が鳴った。こんな時にも腹が減る。恥ずかしい。
「体は生きたいと言ってるじゃない。今、粥を作るから」
「フフフフ~~~~ン♪フフフ~~~ン♪」
「ご飯、ありがと・・その歌は・・何?」
「私のお母さんがご飯を作るときに歌っていたよ。お母さんの歌よ」
「お父さんとお母さん亡くなったって・・・孤児院に連れて行ってあげるよ」
「それがいいかな。それまで一緒に旅をしよう」
・・・それから、私は、エリザベス姉さんの予算で運営しているドングリ孤児院に入った。
アリサのたどたどしい大陸共通語で語られる話を、少女は熱心に聞いた。
あの三人だ!と少女は思った。やっぱり、あの三人は偉大だ。見知らぬ子を命の危険を顧みずに助けるなんて、心が暖かくなり。全身から闇が消えていく。
「私、貴女、似て・・いる。冒険者・・一緒に・・やる?」
アリサの提案に心が動く。
私もあの三人のように、立派な冒険者になりたい。
しかし、周りの死体が嫌でも目に入る。
「ウワン、グス、私の心はちぎれている。この力は、災いしかもたらさない。私を殺して、あの三人に会いたい。会って、叱ってもらいたい。もっと、教えてもらいたい!」
「死にたい?いい・・よ。だけど・・ね。もう少し、生きる・・・どうしても、死にたいのなら、私が・・・殺してあげる・・・」
「ウグ、グスン」
「少し、休む・・いい・・・スリープ!」
少女はガクンと意識を失いアリサに体を預けた。
・・・こんなに小さいのに苦労したのね。
さて、この子に災いをもたらす存在がさっきから見ているわね。
最後までお読み頂き有難うございました。




