第13話 悪役令嬢と父
☆作戦決行日当日
旧アップルフィールドより5キロ離れた村、アトス村付近で、打撃部隊の攻撃発揮線を構成していたエリザベスは、思わぬ足止めをくらうことになる。
「エリザベスよ。戦争は当主代行の権限を越えた行為だ!取り上げる!あの領地は私の荘園にする予定だった。ザック氏は引き続き代官だ!」
エリザベスの父、ダグラスが、護衛騎士を連れて、本陣まで来た。
こっそりと持ち出した軍令旗をチラつかせて、止められる者はいなかった。
・・・貴族らしく私服を肥やそうとして、あの領地の上納金は父上のポケットに入っていたと、帳簿管理人より報告はあったわね。
私を憎む気持ちはわかる・・私は前世の記憶と合わせれば、父上よりも年上、5歳で、父上を凌駕した。
さぞ、気味の悪い子供であっただろう。
しかし、無能ね。社交界でこの人に、この事態のことを教える人はいなかったのかしら。
人望もない。
公爵家のスポークスマンにもなれない。
可哀想だけども切るか。
今世の父は・・親孝行してないわね。
「父上、もう、公爵家の内輪の話ではなくなってます。これを」
「な、何だと、王命による討伐命令書、あの領地を討伐しろだと!いつの間に、私の知らない間に、あり得ない。エリザベス、また、悪知恵を働かせたか?」
「いいえ。王都で大々的に告示をされていますわ・・」
「ええい、あの領は、たかだか、忌み子を一人、迫害しているだけだろう?」
【破門なのです!】
突如、陣営の幕を開けて、10代の聖女と老人が入ってきた。
祖父と孫にしか見えないが、老人は女神教の神服を着ていた。
「特定の個人を悪と認定して、悪を攻め抜けば功徳があると説く宗教は邪教なのです!」
「はあ、破門は法王の権限だぞ。田舎聖女の出る幕ではない。こいつらを放り出せ!」
しかし、エリザベスと幕僚たちは、起立をして、礼をとり。この二人を迎えた。
「フォフォフォフォフォ、女神様の託宣を『だけだろう?』とは、破門じゃな。ロザリーよ。法王代理で躊躇無く破門をする聖女は、初めてじゃ」
「はあ、はあ、はあ、許せないのです!」
「まさか・・・微笑みの法王様!」
女神教徒にとって、破門は死を意味する。
「では、精霊教徒になる・・」
「お断りします」
とドメル司祭は即答する。
・・・う~む。この法王、不敬行為があった場合、破門宣告書と共に現われ、反省すれば即、許してくれると聞く。
「法王様、申訳ございませんでした!反省いたします。献金をします!」
「フォフォフォフォフォ、では、貴殿も忌み子の気持ちをわかってもらえればいいかのう。しばらく、聖王国の神殿で、反省するまで、神官見習いで厳しい修行すれば、破門は出来んじゃろうな。
勿論、献金も受け取るぞ!」
「何だ、そんなことか?」
と父、ダグラスは一月と見積もる。
・・・ああ、父上は終わったわ。
法王猊下は確かにお優しいが、反省しているかどうか見抜くギフトがある。
それだけで、法王になれたと聞く。実際、裁定者にとっては喉から手が出るほど欲しい能力。
平和になった今、推挙されて、法王になられたと聞く。
父上は絶対に自らを省みない人・・恐らく一生神官見習いとして働くことになる。
さて、この遅れがどうなるかしらね。
・・・
「『お姫様』の回収は失敗。冒険者『落ちこぼれの挑戦』との合流地点に、時間を過ぎても三人は現われないとの連絡がありました」
・・・あら、嫌な予感がするわね。
また、魔道通信機で報告が来た。
「大変です。『お姫様』が暴走していると、斥候から報告が来てます!」
「「「何だと、クラスは?!」」」
「巨大ドラゴン級と判定スキルがある者からの報告です!」
「「「エリザベス様、討伐延期を進言いたします!」」」
「不要よ。こちらも巨大ドラゴン級を出せばいい。SSS級冒険者を出すわ」
「何と、我が領都にいるSSS級とは、勇者とは名ばかりの、死体量産器、皆殺しと異名を持つ・・」
「口を慎みなさい。魔族との講和が出来た大きな要因になった冒険者です」
「ですが、領都から、ここまで、数十キロあります。魔道通信で冒険者ギルドに連絡しても間に合いません」
「大丈夫よ。ジープなら、1時間もかかりません」
(((ジープって何?)))
・・・もしかして、最近、領内にあふれている異世界の便利グッズと関係あるのか?
と勘のいい従軍行政官は正解に近い回答が思い浮かんだ。
エリザベスは宣言をする。
・・・可哀想だけども。
「通称、お姫様、旧アップルフィールド家、正統な後継者、ローズマリー・アップルフィールドを殺すわよ」
「「「御意!」」」
攻撃直前で、少女の討伐が決まった。
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