第12話 惨劇 ⑤ 嘘吐き
・・・あの5歳の日から、屋敷に立ち入ることを禁じられた。
あれほど、中に入りたかったのに、あの三人に出会ってから、出て行きたくて仕方なかった。
少女は力で、リアンの死体を進路方向に浮かし、リヒトの死体を後方に浮かした。
弓矢など、意識の外からの攻撃を避ける盾とするためだ。
母の記憶は5歳のころから、ほとんどない。
そう言えば、屋敷内の渡り廊下で、年に数回、屋敷内の聖堂に向かう途中に、見かけたぐらいだ。
聖堂に向かう。
「・・・見つかった」
使用人たちが浮かぶ死体の二体を見ると、驚愕し、怒り、そして、失望し、少女を見て、畏敬の念に変わるのを確認した。
何故?
いつでも、殺せる。騒ぎになったら、母を逃がす。
死体は目立ったか?
やがて、一人の使用人が、恭しく少女の前に礼をし。
「奥様が、聖堂でお待ちです。その背信者の死体は、こちらに放って下さい」
予想外の出来事。
襲ってくるものばかりだと思っていた。
精霊の愛し子として、教団内では不動の地位にいた双子を、背信者?
理解が追いつかない。
思い出せ。あの三人の話を。
お話を思い出せ。
『予想外の事態にあったら?そうね。私は器用貧乏だから、役割をこなすことに専念する。リーダとしてね。それだけかな』
・・・私は復讐する者
『私は、あわてんぼうだから、深呼吸かな。でも、敵に悟られないように、ゆっくりかな』
・・・ゆっくり、腹で深呼吸をしろ。
『俺は、観察する。そうすると経験から最適解が頭に浮かんでくるよ』
・・・高圧的な態度が望ましいかな。
「わかった。案内しろ」
「!!!」
使用人は、驚いたが、すぐに表情を戻した。
(いつものオドオドした態度はどうした)
聖堂に入ると、母、サロメを筆頭に、脇にドナが控え。
部屋の両脇には、大勢の使用人たちが控えていた。
聖堂の大精霊像のレプリカの前の供台には
沢山のヌイグルミと、絵本やオモチャがおいてあった。
私のではない。おろらく、妹と弟のもの。
急遽集めたか。
母は口を開く。
「素晴らしい。よく最後の試練を乗り越えました」
「このドナ、私の愛のムチで、ここまで、お嬢様が成長なさるとは」
「よくぞ、あの双子を退治をしてくれた。母はお前を誇りに思う・・さあ、このオモチャはお前のものだ」
少女は意味不明だ。
「先程、貴女が連れていた双子の死顔、苦悶の表情をしています。精霊墜地獄の状態です。正にまがい物の証拠です。貴女のおかげで隠れていた大悪が除去できたのです」
☆
母の話は続いた。
要約すると、オリハルコン教団では、死顔で地獄か天国かにいったかわかるとの教え。
リアンとリヒトの死顔が醜いので、まがい物として、手の平を返し。
少女を新たな精霊の愛し子として、立て奉る算段だ。
あれほど、私をいじめたのに、死にそうなぐらい食べ物をくれなかったのに
何度、やめてと言っても折檻を止めなかったくせに
だけど、彼らにとっては、矛盾無く気持ちに、収まっている。
彼らの頭の中には過去はない。
過去がないということは闇がない。
そうか。あの夢の女の人が『正しくあがけ。正しく悩め。正しく苦労せよ。そしたら、お前は闇から抜け出せる。』と言ったが
闇を持つのが人間の正しいあり方だからか。
闇を克服するために人はあがき苦しむ・・・
もう、さっきまで、双子をチハホヤしていたことを忘れている・・
そう言えば、私は『無能』判定を受けてから、このように、手の平を返されたのだった。
「ねえ、ドナ、ルナはどうして、殺されたの?」
「はい、お嬢様、ルナはお嬢様の試練のために、自ら殺される役を志願しました。
まさか、あれほどのことが起きても、お嬢様に精霊の加護がつかないのは、計算外でしたが」
暗に、少女を、唯一、助けようとしたメイドは、無駄死にだったと言っている。
しかも、勝手に事実を改変している。
嘘吐き。
欺すつもりで、事実と違うことを言って
試練を乗り越えるどうか、皆、心配して見守っていた?
嘘吐き。
事実を改変して、自分の都合の良い方に誘導している。
だって、さっきから、私の名前を呼んでいない。
「ねえ、私の名前を教えてくれないかな?長いこと呼ばれていないから、忘れた」
「「「「!!!」」」
「名前は、新しい門出です。新しく付け直しましょう。ミスリルなどどうでしょうか?」
「いや、ゴールドがよろしいかと」
「そうよ。名前にこだわることは愚かなことよ」
・・・そんなワケないだろう。私を『あれ』と呼んでいたクセに。
「わかった。真の大精霊の愛し子として、最初の命令をします」
「「「何でしょう。是非、お願いします」」」
「死になさい」
・・・とても、嫌がる死に方。
苦しみの表情で死ぬことが彼らの教義にとって最悪なこと。
少女は扉を閉め。外に出る。
毒になる高密度の治療魔法を、エリアで部屋全体にかけた。
天井に魔方陣が浮かぶ。
聖魔法がレーザーのように降り注ぎ。
浴びたものは生きたまま腐りながら死んでいく。
「「「「グアアアアアアアアアア」」」
サロメとドナは、周りの使用人たちが、苦しみながら溶けて死ぬ様を見て、初めてブルブル震えて、泣き出した。
「ま、まさか、極悪地獄の死相、背教者は苦悶の表情で死ぬというーー」
「お、奥様、私たちは、背信者に囲まれていたのです」
しかし、自らの体が腐り始めて、地が出てきた。
「待ちなさい。お前・・知りたくないか?お前の本当の身分を、何故、生かされたか?
母を助けなさいーー、教えてあげるから、ドレスやオモチャ、絵本、何だって買い放題になれるから・・」
少女に、語り掛けるが
かすかに聞こえる母の声に
「・・興味ない。私は、フラン、ハンス、ローザの妹・・落ちこぼれの挑戦のグループの一人だよ」
少女は独り言で返答した。
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