第9話 惨劇 ② 覚醒、復讐の始まり
「お姉さん、お兄さんの万分の価値のないお前らがああああーーー殺してやる!」
「はあ?」
「無能のくせに・・身の程を知らない。適当にボコってやれ!殺すなよ。何故かザック師は殺すなと仰せだ」
「「「ヘイ」」」
忠実な動物たち・・三人を守ろうとしてくれた。
優しいローザお姉さん
堅実なハンスお兄さん
明朗なフランお姉さん
何故、何故、何故、何故、何故
名前を教えて・・呼んで欲しかった
叱って欲しかった
褒めて欲しかった
抱きしめて欲しかった
【ブチン】
少女の心の中で何かがちぎれる音がした。
ドカ!
「おっと、無能蹴り新記録だ。軽いから良く飛ぶな!」
蹴飛ばされて、少女の視界はグルグル回る。
しかし、夢で話した女性の声が聞こえててきた。
・・・
「これ、愛し子よ。その力で逃げるがよい。ハンスが言ったであろう。領の外に出ると保護されるぞ。お前の健やかな成長が三人の願い。前を向いて歩くのだ。汝の人生長いぞ」
・・・
ドカドカドカ!
「へへへ、殴るのは飽きたな。次は、無能投げだ!」
・・・
「無理だよ。過去が重すぎて、前に行けない」
「はあ、無能、お前何を言ってる?無能、ドラゴン投げ!」
ドカン!
と地に落ちる。
・・・
「・・・そうか、妾の託宣を断るとは、罰として、女神の加護と異界の超能力は外してやらんぞ。業を背負え。妾の愛し子よ。そなたのギフトは聖女、また、帰ってくるぞ。
正しくあがけ。正しく悩め。正しく苦労せよ。そしたら、お前は闇から抜け出せる。
その小さな体で巨大なドラゴンのような力を発揮するがよい」
・・・
「あれ、無能、全然、怪我をしてねえ」
「無能だから怪我も出来ないって?」
「もう、飽きたから戦利品の山分けに行こうぜ!」
・・・
「「「ギャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー」」」
・・・・
「騒々しい!無能は殺すなと言っているだろう!」
「た、隊長!」
「へ、お前ら・・どうした」
少女を痛め付けていた兵士の足、手、少女に触れていた場所が、腐っていた。骨まで見えている・・・
そして、悪口を言っていた口は溶けて、歯茎まで見えていた。
教団の者にとっては本来は歓喜であるが、今の場合は恐怖だ。何故なら
「ま、まさか、まるで、オリハルコン教団の真の大精霊の愛し子!迫害する者の、殴った手、蹴った足、悪口を言った口は腐るという・・そんな馬鹿な!奴は無能だぞ。大精霊様の加護がついたというのか?」
「アハハハハハハハ、そんな加護あるわけないだろう!治療魔法を毒になるくらいブチ込んだだけだ!
血がドクドクしている場所を潰せば、どうやって死ぬかな。死んじゃえ!」
「「「グフ!」」」
即座に、10名近い兵士が血を吐いて倒れた。
「「「逃げろ!」」」
恐怖に駆られた兵士たちは逃げ出すが
「あれ?狼ちゃんと灰色熊ちゃんが来てくれた。心配してくれたのかな?面倒だから周りを囲んで逃げられないようにして!」
「「ガオ!」」
「「「ガルルルルル!」」」
「そうだ。動物ちゃんたちが怪我したら大変だ。武器を取り上げなきゃ、エイ!」
「ギャアアアアアーーー、腕が、腕ごと武器が飛んでくーーー」
「灰色熊ちゃん。そのダルコンとかいう奴、かじって良いけど、生きたまま捕まえて、それ以外はパクパクして」
「うわああああーーーー聞いてねえ。こいつは何も出来ない剣術の木のマトじゃなかったのかよ!」
しかし、オリハルコン教団の隊長は逃げるどころか光悦した表情で少女に語りかける。
「良くやった!無能、私が証人になろう。ザック師に報告してやる。また、令嬢に復帰できるぞ。私が片腕になろう。一緒に邪教討伐をしよう。精霊敵を討伐すれば功徳は無限大だぞ!」
「ねえ、身の程をわきまえてくれる。お前に役目がある。少し、空で待て!」
「え、うわ、体が宙にういている。無能、いや、大精霊の真の愛し子よ。私の言うことを聞け、いや、聞いて下さい。いい話だぞ!」
オリハルコン教団の隊長は森の一番高い木よりも、更に高く浮かんだ。
「灰色熊ちゃん。有難う。そいつをここまで持って来て」
「ガオ!」
「あ、人間の肉は食べちゃだめ。クセになって襲うようになったら討伐されるよ。ごめんね。ペッして、キツネちゃんやイタチちゃんの遺体は・・・ごめんなさい。埋葬してあげたいから、食べないでね。代わりに、治療してあげる」
肉食獣たちは素直に言うことを聞き。肉塊を吐き出した。
灰色熊と狼たちが仲良く並んで、まるで兵士が勲章をもらうかのように、彼女から個々に聖魔法を浴びる。
野生動物は病気や怪我だらけ、病気や古傷がある個体は治り。寄生虫まではきだされた。
健康な個体は強健に
欠けた牙まで、再生される。欠損復元出来るレベルの治療魔法を間近で
見せられたファルコンはたまらない。
「へへへへ、グシシシシ、聖女さんだったか。俺の腕を治してくれよ。なあ、なあ。俺と冒険者グループを組もうぜ。そしたら、お金もうけできるぞ。それに俺に任せてもらえれば貴公子とロマンスも出来るぞ!王子様と婚約も夢じゃない!」
「黙れ!その薄汚い口を閉じろ」
小さな10歳ぐらいに見える女の子の迫力に押されて、ファルコンは口を閉じた。
・・・考えろ俺、生き残る算段をしなければ。
奴は何が好きだ。これから何をする。見て判断しなければ死ぬ。
な、何だと。
ファルコンは少女の次の行動が予想外すぎて、恐怖に震え上がることになる。
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