第8話 惨劇 ①
☆アップルフィールド領、冒険者の隠れ拠点
「リーダーとして提案するよ。君、私たちの仲間にならない?」
「そうだよ。初めに冒険者の流儀と、力の使い方を訓練しなきゃだけど」
「私も皆に賛成かな。来て欲しいかな」
「え、いいの・・・」
「次の仕事は冒険だよ。本物の探検だよ」
・・・三人は本当のことを話した。
軍事機密以外、この領が攻められること以外を話した。
少女を連れ出すことが仕事の依頼になり、お金をもらえることまで正直に話す。
そして、近いうちに、この隠れ拠点を撤収しなければならなくなり
二度と会えなくなるであろうこと
「うん。行きたい。行って良いの?」
「「「もちろん。来て欲しい」」」
・・・行きたい。もう、奴らの言う。領の外に出ると、体が爆発をするなんて嘘だとわかった。
しかし・・
「でも、まだ、村々を廻らなければいけない・・・少し待って欲しい。三日あれば村を廻れる。今、村は深刻な飢饉になりそう・・三日あれば最低のレベルまで脱せる・・と思う」
(聖女の素質が目覚めたのね。三日後、作戦決行日当日・・)
「わかった。必ず三日後ね。約束よ。時間はリスさんが巣から出て、ご飯を探す時間ね」
「う、うん!」
「じゃあ、三日後、私たちからプレゼントがあるの。冒険者になる後輩に贈り物。楽しみにしていて」
「おい、フラン、ハードルあげるなよ!この子がガッカリしたらどうする」
「ハンス、大丈夫かな。意図しないサプライズは迷惑だよ。冒険者用の聖女服と靴とカバンと私の選りすぐりに計算、文字教習絵本かな」
「ローザ、中身まで言うなよ!」
「「「フフフフフフ」」」
☆☆☆村
「おい、忌み子が来たよ。これでもくらいなーーー」
老婆が村の青年に命じて、少女に向かってゆっくりと包みに入った何かを投げ付けさせる。
シュルシュルとゆっくり弧を描き少女の胸の辺りに受け取れるくらいの勢いで届いた。
「?うん?温かい、お芋を蒸したのも・・・お婆さん・・あ」
老婆たちはゆっくりと背を向けて立ち去った。
・・・お礼を言ったら、この人たち殺される。
私に親切にしたら、殺される。その危険を犯してまで
「お、おい、忌み子、お前が歩けば土地が、け、汚れる。この輿に乗りな!」
「えっ」
少女を追い返した農民たちが、少女の前に輿を持って現われた。
少女を無理矢理乗せると、村々を廻る。
途中で、教団の指導者に会うが
「お前ら無能に何をしている!背信者になるぞ!」
「へへへへ、忌み子がほっつき歩いていたので、これに乗せて川に落そうかと・・」
「そうか、ならいい!最近、我が教団のおかげで作物が回復している。その恩を忘れるな!」
「「「ヘイ」」」
農民は小声で少女に
「すまなかった。皆、あんたのおかげだとわかってるよ」
と言った。
・・・少しでも楽をさせようと、知恵を絞ってくれたのね。あと少しで村人たちともお別れね。皆、根は優しい。
☆☆☆屋敷
「グシシシシシ、ええ、良い情報があります。無能でしたっけ。あいつを連れ出そうとする情報がありやして」
「ほう、あの無能に価値があるとは思えないが、有益なら話を聞こうか。貴様の名は何だっけ」
「へへへへへ、隊長さん。新たに雇われた『狼の群』のファルコンでさ。地図をバッチリ見ましたぜ!」
☆☆☆作戦決行日
少女は隠れ拠点に向かっていた。
・・・フフフフ、あの三人と一緒にいられる。
あの三人に、名前を呼んでもらいたい。
そして、いっぱい名を呼んでもらって
いろんなことを教えてもらって
私、もの覚え悪いから、でもあの三人は
正しく叱ってくれる。
一緒に笑って、泣いて
でもやっぱり
頭をナデて
褒めてもらいたい
褒めてくれるかな・・・褒めて。
「おい、無能!褒めてやる!お前に冒険者をおびき寄せることが出来たなんてな」
「グシシシシ、言った通りでしょう。この女、懸賞金がかかっているんでさ。戦争が終わったらあっしらに・・」
・・・ええ、何が起きたの・・
隠れ拠点には数十人の兵士と
フランとローザの死体
ハンスが、ファルコンの足で踏みつけられている光景が飛び込んできた。
周りには、少女を慕って集まってきた中型動物たちの死体。遠巻きに小動物が見守っている。
「え、」
理解が追いつかない。
・・・忘れていた。私は無能、忌み子
「にげ・・にげろ。領の外に出れば、お嬢様が・・グハ」
ハンスは剣で首を刺され、絶命した。
「でも、欲しかった。女冒険者は、舌をかみ切りやがった」
「おい、ファルコン、でもやったじゃないか?」
「いや、まだ、息は少しあったから、死姦ではないですよ。ワハハハッハ!」
「おい、無能!次は生きたまま捕獲したい。女冒険者がお前に会いに来たら、私に教えるのだぞ!褒美だ!」
ポンと隊長が、パンを少女の足下に投げた。
「おい、装備品は山分けだ。何だこれは、子供用の絵本に、服と靴、こいつら、何でこんなものを必死に守っていたのだ」
「ええ、キツネとかイタチが、まるで守るかのように向かって来て、気味が悪かったですね。でも、今日は肉が食える」
「おい、無能、目障りだ。そのパンを持って、あっち行け!」
お粥を作って抱きしめてくれたフランお姉さん。
膝抱っこをして、文字を教えてくれたローザお姉さん。
外に連れ出して動物の名を教えてくれたハンスお兄さん。
・・・私の名を呼んで欲しかった三人はもういない。
呼んで欲しい人がいないのなら、もう、名前は必要ない
「お前ら、その薄汚い手で、三人に触るなあああああああーーーーー」
少女の叫びが森に木霊した。
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