ハゴールの推測
一応目的からがおかしい。まるで研究室の魔道具が目的のように振る舞ったが、どうやって研究室の魔道具のことを知っていたのかから疑問だった。
学園の研究室にはそれぞれ異なる魔道具が備え付けられており、その中には価値の高いものもある。しかし研究室の魔道具の噂はあくまでも学園の中に少しあるだけだ。そもそも学園の中でも真剣にその噂を信じたり広めたりする人はあまりおらず、学園の外ではあえて言及する人もほとんどいない。そんな噂を魔族がどう知っているというのか。
この時点でハゴール可能性を三つに圧縮した。第一に、本来他の目的で潜入していた魔族が研究室の噂に関心を持った。第二に、実は魔族ではないが特殊な手段で偽装した。第三に、魔族や半魔族が正体を隠して学園に通っている。
ハゴールは眉をひそめた。どちらにせよ、今のところ根拠が足りない。しかしそれぞれの可能性が事実である場合、最も深刻なのは……多分第三だろう。
第一は平凡に潜入して平凡に暗躍することに過ぎない。魔族が潜入したこと自体は大変だが、公然と自分を表わしたわけではないので捜し出すだけで良い。第二は何でもない。
しかし、第三は魔族が人間に偽装して平然と学園に通っているという点で危険度が違う。大人しく学問を磨くだけなら構わないが、今日のことのようにめちゃくちゃにするのなら今後も何か危険があるかもしれない。ハゴールは特に他の生徒のために魔族を討伐しなければならないとは思わないが、自分自身にも害になりうる存在を放っておくバカでもない。
「ハゴール様? どうしたんですの?」
「少し考えることがあってね。ペリス、君はさっきの魔族のことをどう思う?」
「とても強くて危険でした」
「それじゃなくて。奴の目的や僕を攻撃した理由のこと」
「そ、それは……」
ペリスはグズグズしていたが、結局言葉を見つけることができず、うつむいてしまった。ハゴールは苦笑いしながら彼女の頭をなでた。
「僕はね、さっきの奴が最初から僕を狙っていたんじゃないかと思ってるんだ」
「どうしてですか?」
「数日前に誰かが僕たちを偵察しているようだと言ったのを覚えている?」
セイラが自分の存在を隠蔽し、ハゴールとペリスの姿を偵察していた途中、ハゴールはセイラの存在にぼんやりと気づいた。セイラが逃げてしまったので結局捕まえることはできなかったが。
「今度の奴があの時のあいつと同じ奴なのかは僕も知らない。隠蔽の感じも少し違っていたし。でも僕を偵察している奴らがいるということはおそらく間違っていないだろう」
「偶然……じゃないと思うんですわね」
「確信はない。しかし、その魔族の行動がすこし怪しいんだ」
研究室の魔道具だけではない。その状況であえて姿を現し、ハゴールを攻撃する理由があったのだろうか。
ハゴールは相手が姿を現さなければ『地の妖精』とペリスのつると精神操作魔法で捜索するつもりだった。ペリスの物量で空間を覆えば姿を隠しても意味がないし、精神操作をむやみに撒けば避けられないからだ。
しかし、ハゴールがそれを説明するとペリスは首をかしげた。
「ハゴール様と私の能力を知らないのじゃなかったでしょうか?」
「……そうかな?」
ペリスは適性を示したことがほとんどなく、ハゴールは自分の正確な能力を隠している。学園の生徒でさえよく知らないことを魔族が知るはずがない。たとえ学園に潜入している状況だとしても同じだろう。
しかし、ハゴールは簡単に納得しなかった。
「それはそうだろうけど、そんなにすぐあきらめる必要はなかったはず。そして気になることがあるよ」
ハゴールはポケットから何かを取り出した。何かが壊れた小さな破片だった。
「これは何ですの?」
「撮影の魔道具。稼動していた。魔道具の発動の気配を感じていたんだ。途中で壊した」
正体不明の敵は研究室を撮影していた。研究室の魔道具を狙う者があえてそうする必要があっただろうか。
もちろん、ハゴールがすべての可能性を想定することはできない。ひょっとしたら彼に全然考えられなかった目的かもしれない。しかし、自分が考えたことが可能性はかなり高いと彼は思った。
その時、研究室の中を収拾していた人材たちがハゴールに近づいた。
「申し訳こざいません、ハゴール様。遅れました」
「いや、ペリスがこの場ですぐ治療すべきだって意地を張ってそうなったんだから」
ペリスが顔を赤らめてうなだれると、ハゴールは彼女の頭をなでた。そして他の人には聞こえないように小さな声で呟いた。
「これから面白くなりそう。楽しみだね」
***
撮影の魔道具が壊れたことにアレクが気づいたのは、パメラと合流した直後のことだった。
ハゴールがペリスに対して行っている蛮行には物証がない。魔法を使えば魔力の跡が残るが、ハゴールが使ったレベルの〈思考誘導〉は跡がすぐに消えてしまう。そのため、現場を撮影した映像を確保するつもりだった。しかし戻って確認してみるとその魔道具がすでに壊れていた。
「いつ壊れた? いや、まさか……」
「精神操作魔法で気づかせないようにしたはずだね」
パメラの推測にセイラは頷いた。
一部始終はすでに聞いた。しかし、半魔族のアレクの対魔力は純血魔族のほどではない。純血であっても力がない者なら精神操作魔法に完全に抵抗することはできない。混血のアレクはまだ完全な免疫を備えることが不可能で、実際にほんの一瞬だがハゴールの〈身体強奪〉の影響を受けた。その時、アレクの注意を少しそらしてこっそり魔道具を破壊したのだろう。
パメラは魔道具のことはあまり残念に思っていなかった。しかし、すべてが満足できるわけではなかった。
「少し惜しいね」
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