皇家のイメージ
「そうしようと努力しています。クラスメイトたちとの関係は悪くありません。親友と言える者はまだいませんが、なんとかいい関係を築いていっていると思います」
「どうかその思い通りであることを願うわよ。本気で」
ベインがまともな交友関係を築けないとパメラが困る。姉としての感情だけでなく、皇女としても。特に復讐の後のための構想で、ベインの人望は必ず必要な要素だから。
その後ベインは次の授業のために行き、パメラはセイラとの議論を続けた。
***
「やっぱり面白いわ。こういうのが変わったわね」
パメラは学園の授業がかなり気に入った。
前世のティステは学園の卒業クラスだった。つまり彼女はすでに学園をほとんど最後までわかり、最初は授業は退屈なはずだと思った。
だが実際に受けてみると面白かった。聞き慣れた内容も多いが、そうでないことも多かったから。実は当然のことだった。ティステの死後、今に至るまではほぼ二十年に近い時間が流れた。その間、教育が足踏み状態の方がおかしいだろう。
もともとティステ時代にもずば抜けた成績を誇る秀才だった。パメラである今でも知的能力に問題はなく、興味まで加わるから勉強がうまくいくのは当然だった。
それを傍で見守っていたセイラは呆れた。
「変わったことが多いということは理解するけど、それでも考えてみればそのままのことがもっと多いんじゃない? そこまで面白がることじゃないと思うけど」
「いや、こういうのがいいのよ」
「私も勉強が嫌いなわけじゃないけど、そんなに楽しむことができるかどうかはよく分からないよ。それにあんなもんの間ではなおさらそんな気持ちになりにくいしね」
セイラはそう話を締めくくった。彼女の眼差しに少し不愉快そうな気配がした。しかしそれはパメラへの感情ではなかった。そのような会話をしている自分たちに向かう視線へのことだった。
パメラは実際に成績が良い。特に魔法の方は規格外だった。そんな彼女を見る生徒たちの視線には感嘆と畏敬がこもっていたが……パメラに近づく人は多くなかった。それでも友達と呼べる人は一人か二人ほどいたが、その友達がクラスで危険を冒す勇者のような扱いを受けているほどだった。
セイラはそれが気に入らなかったが、パメラは自分のことはあまり気にしなかった。
「ごめんね。訳もなく私のせいで貴方まで友達作りが難しくなっちゃったわ」
「貴方が謝ることじゃないでしょ。余計なことで人を遠ざける子たちの問題だよ。貴方も残念じゃない? 昔は友達も多かったじゃない」
聞き耳があるからわざと曖昧に言ったが、セイラはティステ時代を話していた。
パメラは前世は親しい人が多かった。公爵令嬢という立場上、彼女に軽く接することができる者は少なかった。だが父親のテリベル公爵は対外的なイメージをかなりよく構築しておいた方だった。さらにティステ自身の人望もあって近づく者は多かった。長くかかっても復讐をしてあげようとするカーライルたちのようなケースもあったし。
だが今のパメラは能力への畏敬の視線を浴びるものの、親しくなった人は少ない。いざパメラは気にしなかったが。
「別に? どうせ時間が経てば友達ぐらいはできるわよ。今もないわけじゃないし。ただこの差はちょっと気になるわね」
人の差……というには曖昧だ。子どもたちの性向はそれほど変わらないようで、パメラもティステ時代と似たような態度をとっているから。しかし見当がつく部分がなくはない。
「多分皇家のイメージのせいでしょ」
セイラの言葉にパメラは静かに頷いた。
テリベル公爵家のイメージが良かったため人々が近づきやすかったように、皇家のイメージが良くないため近づくのは難しい。パメラもそう思っていた。
皇家は恐れられている。アルトヴィアがまだ王国だった時代、当時王子だったアディオン皇帝の歩みは有名だから。テリベル公爵の反乱鎮圧、公爵に同調した勢力や腐敗した貴族の粛清、反乱の隙を狙っていた侵略国を逆に征伐……その過程でアディオン皇帝はかなり無慈悲で徹底した血の道を歩んだ。
それらすべては反逆と腐敗を粛清したり侵略者を懲罰したりするなど明確な名分があった。しかし、その過程が残酷だったのも事実だ。そのため、皇家の人にむやみに接するとひどい目に遭うという漠然とした恐怖が広がっていた。
「……妙だね」
考えていたパメラはふと目を鋭くした。
「何が?」
「皇家の歩みが赤裸々すぎ」
歴史は勝者の記録であり、勝者は自分の恥部を隠したり美化したりするものだ。しかし、それにしては皇家の否定的なイメージが有名すぎる。
そもそもアディオン皇帝の行動は残酷ではあったが、名分はあった。ならばその名分を中心に美化すればいい。あまりにも残酷だった部分は隠して、正義のためにそんなことをしたというイメージを作れば良い。そんなことをしたということ自体を批判する者はいるだろうが、死者のイメージをより一層壊して正当性を主張することも可能だ。
ところが、今の皇家のイメージはそのような勝者の細工が全然できていない。そしてそのようなイメージが定着した原因はパメラもセイラも知っていた。
「さあ、みなさん。静粛に」
教室の扉が開いた。カーライルだった。歴史学の教師である彼は、特に皇家のイメージと関連がある人だ。
カーライルは生徒たちに挨拶した。平凡な挨拶のように見えたが、そっとパメラに視線を向けた。パメラは微笑みを返した。
カーライルが魔法の黒板に魔力を注入すると、黒板に文字が浮かんだ。彼の授業は歴史。その中でも今教えているのは現代史、つまり最近のことだ。その現代史で最も濃密だった時期がいつだったかは言うまでもない。
彼の書いた文字が黒板で輝いた。
『一年の血河とその結果について』
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