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プロローグ 凍りついた関係の一つ

 学園の授業の合間に、ベインは学園の敷地を横切っていた。余裕時間に姉のパメラと合流するためだった。


 討伐祭以前まではこんなことになるとは想像もできなかったな、とベインは苦笑いした。その討伐祭がわずか一年ほど前のことだなんて。人のことは本当に予想できないことだ。


 パメラが転生者であり、彼女が変わったのが前世の記憶を思い出したためだと聞いた時は驚いた。しかし納得できた。その程度の理由があってこそ可能なほど急激な変化だったから。今は自分だけでなくパメラのためにもそうなってよかったと思っている。


 ……レイナとの関係もそのように改善できればいいのだが。


 ベインはため息をついた。劇的に変化した姉との関係と違って、レイナとの関係は全然進展がなかった。退歩はしない……というよりもこれ以上退歩するところもない足踏み状態だという悲しい状況だ。


 婚約者として愛する……というわけではない。そういう感情が芽生えるような関係になれなかったから。そしてそうなってしまった原因が自分にあることを、今のベインは身にしみるほど痛感していた。今はレイナが彼を忌避していて話の機会さえまともにつかめずにいるが、レイナがそこまで彼を忌避する原因は結局彼の過去の行いだ。


 まだ愛なんてよくわからないが、レイナは彼の婚約者だ。よほどの事件がなければ破婚にはならないだろう。つまり将来の伴侶だ。それでも今のような関係で残ってしまっては不幸な未来が約束されたのと同じだ。そのため、ベインはまず極限のマイナスな関係を少しでも変えたかった。


「……俺が意地を張っていた頃の姉君もこんな気持ちだったのだろう」


 ため息をついていたベインは、ちょうどレイナが学園の庭にいるのを見つけた。他の家の令嬢たちと話を交わしていた。ベインは彼女たちのことをよく知らないが、レイナと一緒にいる姿を何度か見た記憶があった。


 ベインは決意を固め、レイナに近づいた。


「レイナ。ちょっと時間いいか」


 レイナはベインの声を聞いただけで眉をひそめた。彼を振り返る前に深いため息から出て、振り返る動作は露骨に遅かった。動作一つ一つに深く大きな不満が歴然としていた。


「どうしたんですか?」


「ちょっと話をしたい」


「……ふう。皆さん、ちょっと失礼しますわ」


 レイナは庭の奥に足を向けた。彼女の知り合いたちは緊張した様子で立ち去った。ベインはその姿を見て眉をひそめたが、彼女たちに不満はなかった。ただそうさせた自分自身の業をもう一度感じただけ。


 二人きりになると、レイナは隠す気もなく眉をひそめた。


「短くお願いしますわ」


「最近露骨に俺を避けてるんだな」


「あら、どういうことですの? 会話をお願いしたらこうやって聞いてあげましたわよ」


「でも俺の活動領域を意図的に避けているのだろう。今日もそのせいでわざわざこちらに来たのだ」


「……わかったら来ないでください。私がどうしてそうするのか見当もつかないほどバカなんですの?」


 過度に露骨な態度だったが、ベインは怒りを示さなかった。我慢するのではなく、心から怒りを感じなかった。むしろ苦笑いが出るほどだった。


「提案を一つしたい」


「急に何ですの?」


「そなたは優れた魔法使いだ。これからもっと成長するだろう。以前は認めなかったが、今は違う考えだ。そなたと良い協力関係を築きたい」


 ベインなりに一生懸命考えて準備した言葉だった。レイナは自分の魔法に誇りを持っていた。かつてベインはそれを婚約者である自分のためだけに使うよう強要していた。彼女の能力を認めて強要ではなく協力を要請すれば、少しは考慮してくれると思った。


 しかしレイナの反応は彼の予想とは全く違っていた。


「……はぁ。暴言では私をコントロールできないから、今度は適当な言葉で丸め込もうとしているんですの?」


「は? いや、そういう意味ではない。俺はただ……」


「結構です。聞く価値がありません。結局言葉が丁寧に変わっただけで、本質は以前とあまり差もないじゃないですか。少しでも変わったのか期待していた私がバカだったんですわね。心配しなくても婚約者としての義務まで背くつもりはありませんので、適当に利用するだけで満足してください。しきりに話しかけないでください」


「っ……!」


 ベインは固い表情で拳を握った。今度は少しカッとなった。だがレイナの顔を見た彼は拳から力を抜くしかなかった。


 ベインに向けた軽蔑と嫌悪が歴然とした表情。しかし、頬に流れる冷や汗と少し勢いが弱くなった眼差しが何を意味するのかはベインも知っていた。また以前のように暴言を浴びせることへの警戒心、彼が与える傷への恐怖。そういう感情だろう。


 ベインは頭を下げてしまった。


「……失礼した。どうか次回も話し合う機会があることを願う」


「一生そんな機会とは縁のない人生を送りたいのですが」


 レイナはそう言い放ったが、振り向いて立ち去るベインの後ろ姿を妙な気持ちで見守った。


 自分がベインに言い放った言葉がかなり無礼だということを自覚していた。礼儀に反することだが、知っていながらあえて犯すほどベインへの感情が悪かったからだ。だが、そんなことを言うならベインがきっと前のようにカッとなって暴言を吐くと思ったが、いざ彼は最後までまともに怒らず大人しく退いた。


 レイナは最近の変化について考えた。パメラは三年前から著しく変わり、彼女と仲が悪かったベインも討伐祭以後はパメラと和解したように見えた。むしろ、いつ仲が悪かったのかと言うように、一緒にいるのを見たという話が多くなった。ベインが人に対する態度が柔らかくなったという話もたくさん聞いた。


 考えてみれば、昔のベインだったら声をかけてくる時から不機嫌そうな様子を隠さなかっただろう。討伐祭の時みたいに。しかし、最近彼は話しかける時も攻撃的ではなく、レイナが暴言を吐いても反撃しなくなった。


 本当に彼は変わったのだろうか。レイナは複雑な心境で彼のことを考えたが、結局首を横に振りながら庭から出た。


 そう考える自分自身を否定しようとするように。

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