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クリスマス特別編 皆が笑う聖なる日

特別編です。二話は待ってね。




 十二月十七日。はらはらと降り積もる雪が浅くともしっかりと路上を埋め尽くし、眼前には銀世界が広がっています。公道沿いのわたしのお店の前に。


「いやぁ、寒いし面倒ですし、やめてほしいですねぇ」


 わたし、上原蒼は自分が経営しているオカルトショップの前でため息をついていました。

 何があったのかは単純に。昨日の夜から雪が降り続けて雪かきが面倒なだけなんですが、やっぱりお店の前なんでやらなきゃいけませんよね。人に見られる可能性があるので魔術を使うことも出来ませんし、ひたすら面倒なだけだから雪なんて降らないでほしいもんです。

 仕方なく倉庫からスコップを取り出して路面が凍らないうちに積もった雪を道の端に寄せていますが、まさか寄せる端から積もっていくなんて面倒な。


「朝早くから頑張ってるじゃない」

「まだ雪が残っておるのう。ほれ、頑張れ頑張れ」


 人が苦労して雪かきしているところに顔を出してきたのは刑事の竜胆茜さんと八百比丘尼の百目鬼姫奈さん。二人とも怪異に関わりがあったためにわたしのお店まで来たことがありました。それ以来用がなくとも顔を出すようになってしまいました。


「おはようございます。本日はどのような御用でしょう?」

「ワシはお茶でも貰いにな。相変わらずこの時期は寒くて寒くて仕方がなくてのう」

「私はちょっと相談があってね。時間はある?」

「ええ、構いませんよ。わたしは道具を片付けてきますので、先に上がって温まっててください」


 二人がお店に入っていくのを見届けながら倉庫に直結している裏口に向かい、道具をしまいます。軽く服をはたいてからお店の裏、居住部に戻ると中央に設置された炬燵でくつろぐ二人が目に入りました。

この部屋には魔術的な道具を設置しており、部屋の気温を常に暮らしやすい気温に近づける状態にあります。つまり今この部屋の中はとても暖かい状態です。だというのに何故炬燵に寝転がって肩まで入っているのでしょうか。そう、姫奈さん。貴方ですよ。

全くだらしない。

お茶を人数分とお煎餅が入ったお皿を炬燵に運び、わたしも炬燵に足を入れました。あっ、蹴らないでください追い出そうとしないでください。これわたしの炬燵ですよ。


「それで、相談とはどのような内容でしょうか」

「まず疑問なんだけど、怪異って人からの認知によって生まれるのよね?」

「はい。認知によってどのような怪異が生まれるのかが決まり、悪い気という素材を集めることで初めて『人間に干渉する怪異』が現れます」

「その認知も必ずしも『誰にもでも知られている』というわけじゃなくてもいいのじゃ。少しの人間が知っているだけでも怪異ないしは都市伝説などのお話が生まれるものだからのう」

「この都市伝説などは『人間に干渉する怪異』とはまた別枠ですが、説明が面倒ですね」


 怪異はすべて等しく逸話が存在します。この前の依頼で出てきた煙羅煙羅で説明しましょう。

 怪異に対しての認知は大まかに『何か』と『何をするのか』の二つに分けられます。煙羅煙羅の何かは煙でできている妖怪、何をするのかは煙を出すことで火事を誤認させて作り出すと言うもの。この何をするのかが逸話です。


「人に歴史ありなどということわざがあるように、何かがそこに有る限り過去が存在します。怪異であれば人間にどのようないたずらを仕掛けたのかというお話です」


 何かをしたのはこの怪異だとなるのではなく、現れたこの怪異はこのようなことをしたと言うもの。つまりは怪異という枝に逸話という葉っぱが付くみたいなものですか。本体が枝の部分なので、葉っぱがなくなっても新しく生えてくるので問題ないのが怪異なのですが……都市伝説は違います。


「都市伝説は逆に逸話から始まります。誰かが話した作り話から新たな怪異が生まれます」


 どこかで起きた事件を面白おかしく変えて話し、その結果どこかで起きた事件が新たな作り話として定着すると、話に矛盾点が生まれます。その矛盾をどうにかして解消しようとすると人間には不可能な話になり、超常の存在である怪異が現れるといった形になります。

 さっきの話と同じように例えるのなら、葉っぱが付いた枝が都市伝説なので、葉っぱだけになっても枝だけになっても都市伝説という形を保てなくなります。


「まぁ、どちらも等しく認知があって初めて現れますね」

「難しいのね」

「『人外には認知が必要』の一言でまとめられるものだがの」


 確かに都市伝説の話は要らなかったですね。それはともかく。


「怪異について質問があったという事は、何か事件でも?」

「いえ、事件じゃないけど……何かおかしな感じがして」

「おかしな感じとは?」

「ほら、この時期ってお店の前とかにあれが現れるじゃない。あの赤い服に赤い帽子をかぶったもじゃもじゃの……」

「サンタさんですか……え、そんな説明します?」


 わたしが思いつくこの時期に現れるそれはサンタクロースです。竜胆さんも頷いているので間違いではなかったようですね。


「あれも怪異にならないのかなって。ほら、あれもいろんな人に認知されてるじゃない?だから新しく怪異として生まれてもおかしくないなって思って」

「ああ、そういうことですか。ええ、ちょうどいいですね。本当に存在するのか確かめてみますか」

「なんじゃ、出かけるのか?」

「ええ。来ます?」

「行かぬ」


 そうですか。まぁいても面倒なだけだと思いますしあなたは来なくてもいいですよ。

 ということでわたしと竜胆さんは会場に向かうことになりました。朝より雪が酷くなっていますが、ちゃんと予定通りに行われますよね?これ返ってきたらまた雪かきしなければいけませんね。面倒な。




◇◇◇




 場所は変わって町内会館の一室。一室とはいってもとても広く、そこに私たちを含めて二十余人が集められ並べられた椅子に座っていても、十分以上に余裕があります。広すぎませんか?


「ねえ、何しに来たの?」

「イベントのお手伝いにですね。先ほどサンタさんに興味を持っていたとお聞きしましたので、実際にあってみてもらおうかと」

「会うって、いるの?」

「はい。ちなみにわたしはトナカイです」


 いうが早いが茶色いカチューシャにトナカイの角と顔がつけられたものをかぶります。


「どうですか?」

「糞似合わないわね」

「そうですよね」


 ちょっとだけ傷ついたわたしはカチューシャを取り外すと懐にしまいます。


「それであの赤い服を着たもじゃもじゃなんだけど」

「サンタさんですね。頑なに名前を呼ばないのは何かあるんですか?」

「そんなこといいじゃない。実際にあってみるって言ってここまで連れてきたんだからいるのよね?」

「ええ、もう少ししたら会えると思いますよ」


 そう二人で話していた時、パンパンと手を叩く乾いた音が響き渡りました。音の主は町内会長さん(男)七十六歳です。町内会長さんは年相応に擦れた声で話し始めます。


「えー、皆さんよく集まってくれました。本日集まっていただいたのはクリスマスのパーティーについて話し合う為です」

「町内会長、質問が」


 手を上げながら発言したのは二児の子持ちで会社員をしている原さん(三十半ば)。いつもは仕事で参加ができない中、今日の大雪で電車が止まってしまったが為に有給を使って休んだと聞きました。電車が止まっただけで休めるんですねぇ。


「クリスマスパーティーとはいったい何をする場何ですか?」

「えー、町内会館に集まってみんなで食事を取って、その後レクリエーションやプレゼント交換会をします」

「食事とはどのような物を?プレゼントに何か条件は?」

「その件を後ほど話し合います。えー、プレゼントは予算を決めますが、常識的な範囲内でお願いしたいね」


 等々、いくつかの質問が繰り返され、あらかた聞き終わった原さんはとうとう口を閉じました。長すぎませんか?

 そして。何事もなく話し合いが終わり、待ちに待ったサンタさんの話に移りました。


「えー、それでは、サンタクロース役ですが、去年と同様、上原さんがお知り合いの『クリスマスが大好きで年がら年中サンタクロースになり切っている』方に話を通しているので、皆さんは好きな格好をしていただいて構いません」

「ちょっと待ってちょっと待って」


 終わりそうな流れをぶった切って声を上げたのはわたしの隣に座っている竜胆さんです。彼女はわたしに掴みかかると前後に振り回しながら叫び始めます。


「色々と言いたいことはあるけど!知ってたのならここまで連れてくる必要ないじゃない!しかもここに来ないし!」

「まあそうですが。きになりますか?」

「なるわよ!」

「まあまあ落ち着いて。説明しましから」


 なおも興奮し続ける竜胆さんを何とかなだめていると、周りはもう他の話を始めていました。というよりかもう終わって雑談していますね。


「こちらに来ていただいたのはアレが当日以外には顔を出さないからです」

「それならそうと……参加資格?」

「無料で大丈夫になりました」


 簡単に言えば。なぜか女性が飲めないお酒が並べられ、なぜかお酌をして回る身内の方が現れて、なぜかその中でも上下が作られるなんてことが起きます。そして余所者は一番下の役割になってしまいますから。

 わたしは比較的時間に自由ですからこういったイベントやその他力仕事をよく手伝っていたこともあり、少しだけ優遇されていまして。そのわたしが身内枠として連れてきた人を無理に働かせようなんて考えないはずです。


「当日はふさわしい恰好をしなければいけませんが、こちらで用意させていただきます」

「二十四日に来ればいいの?」

「正午少し前……五分前くらいで構わないのでこの場に直接来てください。大人は少しだけ手伝ってもらうことになりますが」

「そのくらいなら別に」


 本日はその場で解散となりました。二十四日が楽しみですね。




◇◇◇




 あれから一週間が経過しました。今日はクリスマスパーティー当日です。サンタさんが現れる日です。

 正午開始のパーティーですが、元々わたしはお手伝いとして呼ばれていたので朝早くから町内会館に来て、この前の会議に使われた一室に飾り付け、料理が運べるようにテーブルを出してなど準備を手伝っています。


「いやぁ、いつも悪いねぇ」

「気にしないでください。この程度のことならじゃんじゃんこき使ってもらって構いません」

「ははは、いつも助かるよ。お礼と言ってはなんだけど、煙草でもどうかな?」

「子供が来るのでしょう?遠慮しておきます。また今度機会があれば声をかけてください」


 あらかた仕事が終わったところで町内会長さんが声をかけてきました。ただ働きもいいようにこき使われるのも嫌ですが、付き合いというのもありますし断れません。それを分かっているのかどうかわかりませんがとってもいい笑顔を浮かべている町内会長さんにイラっとしながら適当に流していると。

 ガチャリと扉を開く音が聞こえました。扉を見るとそこには竜胆さんが居心地が悪そうに立っていました。


「竜胆さん、こんにちは。よく来てくださいました」

「う、うん。こんにちは。あの、なんかすごく見られてるんだけど」

「衣装に着替えていないからですね。別の部屋に用意してきたので着てみてください」


 そう促すと竜胆さんは素直に従い、着替えを取りに移動しました。そして。


「これはいったいどういう事!?」

「まあまあ落ち着いて」

「何でこんな……!」


 随分と興奮した様子の竜胆さんが駆け込んできました。どういうことと問いただす竜胆さんはとても奇抜な衣装を着ていました。緑色の服の左右はギザギザとしており、針葉樹のシルエットを簡単にしたようなもので、前面には赤や黄色や青色などの飾りがつけられています。そう、クリスマスツリーの意匠を着ていたのです。

 着ているとはいっても顔出し看板をつけているようなもので後ろから見ると材料の段ボールの面しか見えませんが。


「本当に何なのこれ」

「クリスマスツリーです。それにこの前聞いたじゃないですか」

「この格好をするのか?聞かれてないじゃない!」

「いいえ、聞いたはずですよ。『きになりますか』と」


 一週間前に会議で集まった時に聞いたはずです。そして返事は確か『なるわよ』だったと思いますが。


「それ以外に衣装はありませんから今回はその格好で参加してください。十四時までの二時間だけですから」

「くっ!でも、いや、ううん」


 随分と悩んだ様子ですが元の目的、『サンタさんとの邂逅』を思い出したのか諦めてそのまま参加するようです。


「さあ、もう始まりますよ。この際ですから目一杯楽しみましょう」

「こうなったらもう自棄よ。やってやるわ」


 そしてクリスマスパーティーが始まるのでした。




◇◇◇




「あれ?片付け始めてる?パーティーは?」

「何を言っているのですか。もう十四時半、パーティーも終わり片づけをする時間じゃないですか」

「え?だってさっき始まって……あれ?」


 何かふざけたことを言っている竜胆さんを横目に時計を見ると、短い針が二と三のちょうど真ん中を指して長い針が六を指しています。つまりは十四時半を指しており、三十分ほど長引いたパーティーが終わって片づけをしている所です。


「随分楽しんでいた様子ですし、子供からも人気だったじゃないですか」

「確かに遊んだ記憶はあるんだけど……うん?」

「プレゼント交換で当てた『一発芸をする権利』もノリノリで使って笑わせたじゃないですか。他にも揚げ物やらデザートやらカロリーが多い料理をバクバク食べて『私太らない体質だから』と余裕鎌して」

「うん?思い出そうとすれば思い出せるし、やった覚えはあるんだけど実感がないというかなんというか」


 わたし貴方があんなことをするなんて思ってもいませんでしたよ。イベントになると楽しくなる人もいますがあそこまで酷いのは初めて見ましたから、普段ストレスをためてるんじゃないかとも。

 竜胆さんは必死に思い出そうとしてうんうん唸っています。そして片づけが終わったところで恐る恐るわたしに声をかけてきました。


「ねぇ、もしかして本当にアレが来たの?」

「アレとは……あぁ、サンタさんですか。来ましたよ。貴方も話していたじゃないですか」


 とても楽しそうに話していたのをわたし含めたトナカイ連中も見ていました。


「子供以上に楽しんでいたのでは?最後には子供たちを率いて『サンタさんありがとう』と」

「そんなことがある訳……やった気がする。騒いだ記憶はあるけどやった気がしない!どういうこと!?」

「いやどういうことかと言われても……お酒でも飲みました?」

「呑んでない!一体全体どういうことなのよー!」


 わたしは頭を抱えて叫ぶ彼女を無視してとっとと帰宅するのでした。




◇◇◇




「それで何も教えなかったと?」

「あれに話しかけるのはちょっと」

「本当にそれが理由なのかの。面白がっておるように見えるが」


 竜胆さんを置いて帰ってきたわたしはいつの間にか家に居座っていた姫奈さんに問い詰められていました。そんなことより勝手にエアコンをつけて炬燵に入っていたことについて聞きたいのですが?電気代払うつもりないでしょう?

 まあそれは置いておいて。何も知らないで叫んでいる竜胆さんは、関係ない人から見たら面白いかもしれないとは考えなかったことも無い気がしなくもありませんが。


「そもそもの話ですが。サンタクロースのお話が多すぎてどの話が優先されるのかが分からないんですよね」

「あぁ、どっかの聖人がモデルにされた話だったはずじゃからのう」

「その関係で神様の降臨に使われることもありますから、放っておいて問題が起きた時の対処が面倒で面倒で」

「じゃから先に『プレゼントを配る存在』という認知で固めたかったと。その為には何も知らせない方がよかった」


 後ついでにですが。この時期になると嫉妬の悪感情が大量に表れるので怪異が生まれやすくてですね。怨念が元だと変な能力を獲得する時がありますし。


「一般人に魔術を使うのは禁止されておるのではないかの?」

「今回は特例ですよ。全国で同じようなことが行われているはずですから問題ありません」

「そんなものかのぅ」

「そんなものですよ」


 むしろ推奨されていますから。

 そんなことを話していると、バーンと勢いよく扉を開く音が聞こえました。一体何事だと二人で見に行くとそこには息を荒げた女性が般若の如く顔を歪ませていました。そう、置いていかれてブチ切れた竜胆さんです。

 これはまずいと姫奈さんと顔を見合わせて、お互いに頷いた私たちは。


「逃げるな、ぶっ飛ばす」

「怒らせすぎじゃ!責任もって落ち着かせて来い!」

「はっは、わたしには無理ですね!諦めて死んできなさい」


 全力で逃げ出したのでした。





いや、二話も描いてますよ?ただ新キャラがファンブル出しまくって話が進まな過ぎてちょっとというだけで。

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