5-4
……何だ、これは。
始めに思ったのは、それだった。
一応言っておくが、俺は普段は絶対姉ちゃんの部屋に無断に入ったりはしない。
しかし、姉ちゃんの部屋から変な物音がした。確実にした。
姉ちゃんは今友達と出かけていて、家には居ないのに。
泥棒でも入ったんじゃないかと思った。
そうじゃなければネズミかもしれない。
どっちにしても姉ちゃんと鉢合わせしたらとんでもないことになるのは目に見えている。
お手伝いさんが居れば頼みたかったが、生憎今日はお休みの日だった。
だったら俺が確認するしかない。
だから姉ちゃんの部屋に足を踏み入れた。
見た感じ、何も居ないように見えたが……。
「……どう考えても、押し入れが怪しいよなあ」
俺は独り言を呟いて、押し入れの方に視線を送る。
ビビってるのかもしれない。
今からでも警察に通報しようかとも思ったが、ただのネズミだった時に恥をかくのは俺だ。
俺は意を決して押し入れを開け……
「……どうも。押し入れの神様です」
「……は?」
そして冒頭に続くという訳だ。
「いやいや!どう見ても不法侵入者だろ!」
押し入れの神様って何だよ。
つーか何で押し入れで茶なんか啜ってるんだ。
「私はこの家に昔から住む、押し入れの神様です」
「アンタほんとにその言い訳で通す気か」
何を言ってもその言い訳で通すつもりらしく、俺は『神様』に無理難題を吹っ掛けてやることにした。
「なあ、神様」
「何でしょう」
「本当に神様なら、証拠見せてくれよ」
どうせ変なコスプレした不審者だろ。
俺はスマホを片手にいつでも通報出来るようにして、神様に言い放った。
「……承知致しました」
神様はにっこり微笑むと(実際笑ったのかどうかは分からない、何故ならずっと目を閉じているからだ)、その場からふわりと浮かんだ。
……は?
浮いた?
と、飛んでる……!?
「これで信用して頂けましたか?」
「ええ……?」
俺は周りに糸とか、なんか釣り上げられるような物がないか確認したが、それっぽい物は見つけられなかった。
部屋の中をふわふわ浮く神様は更にこう提案する。
「信用して頂けないのなら、このまま外も飛んでみせましょう」
「わ、分かった!信用する!だからやめろ!」
こんな妙ちきりんな格好した奴が外なんか飛んだら注目の的だ。
俺はその神様を信じてやることにした。
「……む、」
「ん?どうしたんだよ神様」
先程までニコニコしていた神様は急に真面目な表情になった。
(といっても、ずっと目を閉じているので本当のところはどうか分からない)
「成世様が、危険です」
「……姉ちゃんが!?」
何でこの男がそんなことを言うのかは分からないが、神様だからということにしておこう。
「すぐに行かなくては」
「待てよ、俺も行く!」
「ですが……」
「俺のたった一人の姉ちゃんなんだよ。何が起きてるか知らないけどさ、姉ちゃんが危険な目に遭ってるって言うなら、俺も連れてけ」
俺の言葉に神様は少し考えたような仕草を見せ……
「承知致しました」
俺を連れて、飛んだ。