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「ふぐあっ!!」
「いってえ!!」
「はうっ、ご、ごめんよ我が弟…!」
初めまして。ぼくの名前は芋煮成世。
花も恥じらうJK。好きなものはゴスロリ。家でゴロゴロするのが大好きなインドア。そしてファンタジークロニクルの重課金ユーザーなのだ。
ああ、ファンタジークロニクル……略してファンクロってのはぼくがハマっているスマホのアプリゲームなんだ。
アクティブユーザー数が100万人超えの超人気ゲーム。ぼくの周りでも結構な人がやってるレベルなんだぞ。
「姉ちゃんが魘されてたからわざわざ起こしに来てやったのに……いきなり頭突きかましてくるとかアリかよ…」
「むむ、すまぬ。我が弟よ」
で、ぼくが寝起きに思いっきり頭をぶつけたのがぼくの弟の芋煮鳴海。中学生。
インドア派のぼくとは真逆で、運動部に入っててモテモテ。何かイケメンらしい。知らんけど。
鳴海にもファンクロを薦めてみたんだけど、「姉ちゃんがやってるのを見てるだけで面白い」んだってさ。
「……泣いてたのか?」
「……?いや、わかんない」
鳴海に指摘され、指で目を擦ってみたら、微かに濡れていた。
でも寝る前に泣いた記憶は無い。
「怖い夢でも見てたんじゃね?」
「ん……そうかもなあ。全然覚えてないけど」
「怖い夢なら覚えてねー方が正解だろ。ほら、朝飯作ったからさっさと食って」
「御意」
鳴海はぼくと違って何でも出来るので、家のことは何でもやってくれている。
姉として情けないが、つい甘えてしまう。
いやもう情けないという感情すら忘れてきているが。まるでヒモだ。ヒモか。
ちなみに我が家には両親は居ない。
二人とも海外で働いていて、滅多に帰って来ないんだ。
でもうちにはお手伝いさんも居て、そこそこおっきい家で……まあ、裕福なんだと思う。
寂しいと思ったことは、あんまりない。
鳴海もいるし。
「姉ちゃん、早くしろって!置いてくぞー!」
「わ、わわっ……!ま、待って、まだ味噌汁が……あっつ!!むりやむしぬ」
「こんなことでいちいち病むなって!ほら、ゆっくりでいいから!」
急かすのかゆっくりでいいのかどっちなんだ、我が弟よ。
というか「置いてく」って言う割には一度もぼくを置いてったことないんだよな。
ぼくは涙目になりながら味噌汁を啜り、弟と共に家を飛び出した。