3-1
前回までのあらすじ。
なんか推しがリアルに現れた。
何を言っているか分からないと思う。
ぼくだって何を言っているのか、何が起きているのか把握出来ない。
正直夢でも見てるんじゃないか、まだぼくは目が覚めていないんじゃないかとすら思う。
それとも、データが飛んだショックで推しの幻覚を見ているのかもしれない。
「成世様」
「ふぁいっ!」
は、話しかけてきた!
推しが!ぼくに!話しかけてきた!
興奮し過ぎて声裏返っちゃったよ!
ああもう夢なら覚めないで!
「私は盲目ですが、いつも貴方を視ていました。使えないと言われていた私を、貴方は使って下さった」
「あ……だって、ぼく、」
式部のこと、大好きだから。
流石に本人に告白なんて出来なくて、口ごもっちゃったけど。
推しが、式部が、ぼくを……認識していた。
「……ふ、ぁ、」
嬉しいやら恥ずかしいやら信じられないやらでぐちゃぐちゃになって。
ぼくはただ、泣いた。
「……成世様?泣いていらっしゃるのですか?」
「……ぁ、ごめ……。すぐ、止める……」
泣いてたら、式部が困っちゃう。
早く涙を止めて、大丈夫だよって言ってあげなくちゃ。
それでもぼくの意思に反して涙は止まってくれなかった。
どうしよう、なんとかしなきゃ……。
「……姉ちゃん?」
!?!?!?
部屋の外から聞こえてきた弟の声に、思わず涙が引っ込んだ。
そして、冷静になった。
自分の目の前には、目に包帯を巻いて、一般人から見たら妙ちきりんな格好をしている男が一人。
「やばい!」
「やばい?ですか?」
あ、やばいの意味分かってないんだな、式部。
ちょっと可愛い……とか言ってる場合じゃない!
どう考えたってこの状況はまずい!
ぼくの贔屓目を抜きにしたら、式部の格好はどう見ても……変わってる。
それ以前に男性がぼくの部屋に居るのは絶対に怪しまれる!
バレたら鳴海に質問攻めにされること間違いなしである。
「こっち!」
ぼくは式部を押し入れに押し込んで……何故か自分も一緒に隠れてしまった。
「……姉ちゃん、飯作ったけど……寝た?」
鳴海はデキる弟だ。
絶対にぼくの部屋に勝手に入ったりはしない。
だから返事が無ければ寝たと思って入ってこない筈だ。
「成世様、呼ばれているようですが……」
「だめ。しーっ」
ぼくは自分の唇に人差し指を当てて、静かにしてとアピールした。
「しーっ」
それが面白かったのか、式部もぼくの真似っ子をして、しーってやってくれた。
尊い……!!
だが堪えろ。叫ぶなぼく。
鳴海が去るまで寝たふりをするんだ。
ああでも尊い……!ぷるぷる。
「おやすみ、姉ちゃん」
鳴海は諦めたのか自分の部屋に戻ってくれたらしい。
それを見計らってぼくは押し入れを開け放ち、堪えていた言葉を出来るだけ小声で放った。
「尊い……っ!!」




