表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

首相と秘書

作者: 西野萬叉

首相「俺は首相。邪魔者は抹殺してでもこの地位に昇りつめ、周囲からは怪物と恐れられている。毎日多忙な業務をこなしている。今日もサインをしないといけない書類が山積みだ。一方で、下の大臣たちが決められなかった懸案事項も判断してやらねばならない。しかし、書類の処理が遅れると国の運営に支障をきたす。だから、手を動かしながら、案件を秘書に読み上げてもらっている」

 

 首相は耳だけを預けて、机の書類に取り組んでいる。


秘書「経費でおやつ買ってもいいですか」

首相「はい」


秘書「世間の状況を知るために漫画雑誌を政務活動費で買ってもいいですか」

首相「はい」


秘書「自分の美しさを罪に感じてもいいですか」

首相「はい」


秘書「国民に対するあふれ出る愛をポエムにしてもいいですか」

首相「はい」


秘書「部屋のお片付けはもう少しだけ待ってもらってもいいですか」

首相「はい」


秘書「字を上手に書くために、サラサラの中国布の服を買ってもいいですか」

首相「ちょっと待て」


 首相は書類からはじめて顔を上げた。

 首相は軽くため息をつき、目頭をマッサージしてから秘書の方を向いた。


首相「下からあがってきた案件についての判断はお前に任せる」


秘書「恐れながら、閣下。私はあくまで閣下の秘書であり、官職にはありません。越権行為となります」


首相「そうだな。今、私が頼んだことをお前が喜んで引き受けていたとしたら、その首はとんでいただろう。しかし、お前は拒んだ。合格だ。だから、頼む」


秘書「しかし……」


首相「さっきの案件についてどう思った?」


秘書「“勝手にしろ”、もしくは、“自分で買え”です」


首相「うむ。私も全く同じだった。だからお前が判断していい。そう思ったもの以外があれば、読みあげてくれ」


 二人は黙々と作業をこなした。


秘書「国会議事堂に入場するときに自分のテーマソングを流してもいいですか」

首相「ダメだ」


秘書「ちょっとA国を攻め滅ぼして来てもいいですか」

首相「ダメだ」


秘書「伝統の祭りの山鉾巡行のときに、ディ○ニーラ○ドのエ○ク○リ○ルパレードみたいなキラキラのフロートを山鉾に織り交ぜて行進させてもいいですか」

首相「ちょっと待て」


 首相は書類から机から顔をあげて、秘書の方を向いた。


首相「それらについてどう思った」


秘書「“バカかお前は? 却下だ!”です」


首相「なんということだ。私と全く同じだ。だからその判断も任せる。“勝手にしろ”、“自分で買え”、“バカかお前は? 却下だ!”、以外のものがあれば読み上げてくれ」

 

 二人は再び作業に戻った。


秘書「閣下、“勝手にしろ”、か、“バカかお前は? 却下だ!”の判断に困るものがありました」

首相「なんだ?」


秘書「新たに建築する建物の外壁をショッキングピンクすることを奨励してもいいですか」


首相「えー? “勝手にしろ”と言いたいところだが、勝手にされては困るな。自分も苦情がきて困ると思うが。いったいなぜそんなことをするのだ?」


秘書「宇宙人に我が国をアピールするためだそうです」


首相「却下だ。“勝手にしろ”と“バカかお前は? 却下だ!”の判断に迷った場合はすべて却下だ」


 再び二人は黙々と作業をこなした。


秘書「閣下、私にはどうしても判断がつきかねる案件がありました」


首相「ちょっと待て。それよりもかなりの数の案件をこなしていたな。それをすべて読みあげられていたらと思うとぞっとするぞ。助かった。ありがとう。で、それはなんだ?」


秘書「閣下のご息女の国防大臣からです」


 秘書は軽く咳払いをし、姿勢を正して今までになく、なぞるように丁寧に読み始めた。


秘書「いままで育ててくれてありがとう。お父様のことをいろいろ悪く言う人がいるのも知っています。でも、お父様は私にとって優しいお父様でした。そして、この厳しい政治の世界に入ってからも、お父様はわたしにとって、焼けつく陽ざしの荒野の中の大きな木陰でした。わたし、幸せになります」

首相「待ってくれ! 心の準備ができていない」

 まさか……

 あんなに小さかったのに……

 こんな日がくるなんて……

 父親にとって喜びとともに悲しみが訪れる瞬間……聞きたくないが、聞かねばならぬ。


秘書「軍事訓練していたら誤射で空母をちょっぴり壊してしまいました」

首相「ちょっぴりってどれくらい?」


秘書「さっき見に行かせたら、沈みそうになってるみたいです」


首相「あービックリした。結婚するとか言われるのかと思ったら、なんだそんなことか……って何をしたら空母が沈むのだ!? あの馬鹿! 今すぐ呼んで来い!」

秘書「馬鹿はおやつと漫画を買いに行きました」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ