第七話 第二の被害者
五月二十四日、月曜日。昼休み。
朝から和希と蓮二はろくに会話をしていなかった。朝の挨拶を交わしただけである。喧嘩をしたわけでもないのだが、和希が蓮二とどう会話したものか悩んでいたのである。蓮二も蓮二で和希にかける言葉を見つけられないでいたため、お互いに遠慮したような感じになって、今に至る。
昼休みになっても緊張の糸は張り詰めたままだったが、なんとか和希が話を持ち出した。
「蓮二。今日、鉄平来てるね」
「え? ……ああ、確かに」
鉄平は自分の席でコンビニ弁当を食べていた。事件以前は大輔と昼を過ごすことが多かったのだが、今日は大輔がいない。しかし、大輔は今日も学校に来ていたはずである。
和希と蓮二はお互いに目配せをして、鉄平の元へと近づいた。ここは、いつもの調子で蓮二の方から話しかける。
「久しぶりじゃん、鉄平」
「ああ、蓮二と和希か。久しぶりだな」
「大輔は?」
「……知らねぇよ、あんな奴」
知らないわけがない。明らかに、鉄平と大輔が喧嘩した様子である。
蓮二は空いている席から椅子を持ってくると、鉄平の隣に腰掛けた。
「なぁ鉄平、何か困ってることとかあるんじゃないのか?」
「は? 何言い出すんだよ」
「心配なんだよ。ここ最近、ずっと調子悪そうじゃん。俺も……和希も、鉄平の味方だからさ。なんか、大輔に言いにくいこととかあるんじゃねぇの? 力になるし、絶対誰にも言わない。約束するから」
しばらく、鉄平は蓮二と和希の顔を交互に見ながら口を震わせていたが、途中で観念したように呟いた。
「大輔に言いにくいっていうか……大輔の奴、なんか嗅ぎ回ってるみたいなんだよな」
「嗅ぎ回るって、鉄平のことを?」
「そう。俺と地元が一緒だった奴に、俺の趣味とか、生い立ちとか、人間関係とか聞いてるみたいで。……気味が悪いだろ、そんな奴」
「そりゃ確かに穏やかじゃねぇな。和希は何か知ってるか? 大輔がなんで鉄平のことを嗅ぎ回っているか」
和希が蓮二以上に鉄平や大輔のことを知っているわけがないのだが、鉄平がいつもより弱々しい瞳でこちらを見てくるので、とりあえずそれらしい返事をすることにした。
「見当もつかないけど……でも、大輔は鉄平のこと心配してた。それは鉄平も知ってるよね」
「それが俺の近辺を嗅ぎ回る理由になるかよ」
それもそうかもしれない、と思い和希と蓮二は再び考え込んだ。
大輔はあまり細かいところを気にしない性格である。おおらか、のんき、大雑把といった言葉がよく似合う。喧嘩っ早い鉄平と仲良くできているのは、大輔の性格があってこそと言える。その大輔が鉄平のことを嗅ぎ回っているというのはあまりにも大輔らしくない。和希は、大輔が鉄平のことで苛立ちを覚えていたことを思いだしたが、その様子も大輔らしくないと感じられた。事件以来様子がおかしいのは鉄平の方だが、それにつられるように大輔も普段の調子でないように見える。
「あのさ、鉄平。ずばり聞くんだけどさ」
と、蓮二が鉄平に近づいて、より小さい声で話しかける。
「お前、逆五芒星のカード持ってるのか?」
鉄平から滝のような汗が流れ出す。事件以来ずっと見せている、明らかに何かを隠している表情である。
——鉄平が……カードを持っている?
何にせよ、この事件に関して何も知らないとは考えられない表情をしている。鉄平が今にも逃げ出しそうなくらいに震えているので、和希は蓮二の反対側に立った。鉄平から見て、右には蓮二が、左には和希がいる。前後には机があって、簡単に逃げられそうにもない。和希や蓮二もこの状況に罪悪感を抱かずにはいられなかったが、この機を逃すわけにもいかなかった。
鉄平は二人の顔を見てから、小さな声で呟いた。
「俺、お前たちにも聞きたいことがあるんだ」
「……ん? 俺らに? 何だよ、遠慮なく聞けよ」
「お、お前らさ、あの悪魔崇拝事件の——」
と、鉄平が言いかけたところで。
蓮二の背後で、机の足を強く蹴ったような音が鳴り響いた。
そこにいたのは美優である。真美の机を蹴って、真美を問い詰めていた。
「真美さぁ、そうやって和希くんたちの会話を盗み聞きしたら悪いって思わないわけ?」
「え、わ、私、そんなつもりじゃ……」
「かまととぶってんじゃないわよ!! 和希くんにまとわりつくクソ女がよ!!」
美優の怒声に、周りの生徒も何事かと美優の方を向いた。近くにいた和希や蓮二も美優の方を向いて唖然と見つめる。真美が和希たちの会話を盗み聞きしていたかどうかはわからないが、あまり他人に聞かせるわけにはいかない内容だったため、和希も蓮二も咄嗟に言葉が出てこないのである。
和希の視線に真美が気づいて、泣きそうな声で言った。
「か、和希くん。本当に私、何も聞いてないから、あの……」
「嘘つくな! 真美が和希くんの方を見てたのを、私、見てたんだから!!」
一番そばにいた蓮二が「美優ちょっと落ち着けよ」と止めようとしたが、火に油を注いだだけであった。
美優は怒りに任せ真美の胸倉をつかみ始めた。「このクソ女が、白状しろよ!!」と美優がそのまま真美の体を大きく揺するので、和希と蓮二が慌てて二人の元へ駆け寄って引き剥がそうとした。細腕に似合わないあまりの力に、すぐには振りほどけないままお互いの身体が大きく揺さぶられる。
そのとき、本当の事件は起きてしまった。
蓮二がなんとか美優の体を引き剥がしたとき、勢いが余って真美の机を倒してしまった。机の中身も、机にかけていた鞄の中身も全て床に散らかってしまい——それが、現れた。
——「水」
楷書体でそう書かれた、あの逆五芒星のカードが、真美の鞄から出てきたのである。
しばらく、誰も目の前で起きた事態を理解できずに言葉を失っていたが。やがて、美優と何名かの生徒が悲鳴を上げ始めた。
「ま、ま、真美! あんたそれ……! あの悪魔のカードじゃないの?!」
真美は顔を真っ青にして、すぐにそれを拾い上げて制服の懐に入れた。しかし、そこにいたほとんどの生徒がその忌々しさを放つカードの存在を目に焼き付けてしまっていて、口々に噂をし始める。
——あれって、宮本さんが死んだところに落ちていたっていうカードと一緒だよね?
——嘘、じゃあ十年前の悪魔崇拝事件と本当に同じ事件なの?!
——A組の生徒が二人持っているってことは、他のカードもこの組の人が??
——というか、宮本さんと渡瀬さんって仲が良かったんだよね……そうだよね、まさか。
真美は床にうずくまったまま動かない。汗が制服を濡らし、喉は乾き果てている。和希が真美に駆け寄って庇うように真美の肩を抱いたが、それでも真美は動かない。
その様子を、美優は見下ろすように見ていた。目を丸くして見ていた。カードを真美が持っていたことによる驚愕と、恐怖と、そして……それでもなお、和希が真美の側にいる。その憎しみが合間って、混ざって、ぐちゃぐちゃになって。蓮二の「落ち着けって」という言葉も無視して、美優は発狂するように叫んだ。
「そうか、そうかそうかそうか……やっぱりあんただったんだ! あんたが、詩音を、友達のフリして殺したんだ!! 変だと思ってたのよ。和希くんと仲が良くていい気になってさぁ、友達が死んだってのに、和希くんに慰められて、被害者みたいな顔してさぁ?! あんたが……あんたが、詩音を殺したんでしょ!! 和希くんと仲の良い詩音が憎くって!! ねえ、なんとかいいなさいよ!! この悪魔がぁあ!!」
耐えきれなくなって、真美はとうとう逃げ出した。
すべてから逃げるように、顔をぐちゃぐちゃにして。和希が「真美!」と叫ぶのも聞こえない様子で、廊下に集まる野次馬にぶつかりながら、真美は一心不乱に逃げ出したのであった。
「……ふふっ、はは」
力なく、美優が笑う。
「よかったね、和希くん、やっぱりあいつ。あいつが悪魔だったんだ。和希くんに取り入って、詩音を殺して……ははっ、和希くん、もう大丈夫だよ。もう、だい、じょうぶ……」
と、その時。
教室中に、鈍い音が響いた。
音とともに、美優の体が後方に飛ぶ。後ろにいた複数名の生徒を巻き込みながら、なだれを起こすように美優たちが倒れこむ。
しばらく、美優自身には何が起きたかわからなかった。
腹部を貫く強烈な痛み。吐き気。口の中の血の味。
全てにむせ返りそうになりながら、美優はゆっくりと目を開けて、目の前にいる人物を確認した。
「えっ……あっ……」
そこにいたのは、和希だった。
普段の温厚な姿からは想像できないほどの眼光がそこにある。美優のことを、死んで体液を散らかした虫を見るような目で見ている。人間を見る目ではない。和希に潜む憎しみが全てそこにあるような、狂気さえ感じる瞳がそこにある。わけもわからず、美優の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
周りの生徒も、事態を理解するのに時間がかかった。和希が美優を蹴り飛ばしたのだ。一寸の加減もなく。殺すつもりだったのかもしれないくらいに、痛烈な一撃が美優を襲った。
しばらくの沈黙の後、和希は美優から視線を外すと険しい表情のまま教室を出て行った。和希が廊下を走っていく音だけが、二年A組の教室に残る。
「保健室、行くか」
床に倒れこむ美優に声をかけることができたのは、蓮二だけだった。
蓮二は今まで見たことがない親友の行動に愕然としながらも、せめてもの親友の尻拭いとして美優に手を差し伸べるのであった。
---
既に五時限目であることを知らせるチャイムは鳴っている。しかし、真美とその後を追ってきた和希は中庭にいた。
木陰に隠れるようにして真美は泣き崩れている。幸い、和希はハンカチを持ってきていたので、真美の隣に座ると黙ってハンカチを差し出した。
「和希、くん……」
「あげる」
言葉に迷ってしまって、和希の言葉は簡素なものになってしまった。それでも真美にとってはあまりにも温かく、何度も「ありがとう」と言いながら涙を拭い始めた。
なかなか泣き止まない真美の隣で、和希は自分がやってしまったことを思い返していた。
気づけば怒りのままに美優を蹴り飛ばしてしまっていた。美優への怒りは今も続いているが、さすがに人前であれほど強く蹴り飛ばすことはないだろうと反省をしていた。みんなが和希を見ていた。特に、蓮二が。あんな目で蓮二が和希を見るのは初めてだ。
——蓮二には見られたくなかったな。
ただでさえ今日はお互いに遠慮してしまってギスギスしているというのに、こんなことになってしまっては余計に話しづらくなってしまう。「女子に暴力を振るうとは何事だ!」と怒られるかもしれない。いや、怒られるならまだいいのだが……このまま口を聞いてくれなくなるかもしれない。今更になって多くの不安が襲いかかってくるので、和希は教室の方を見上げながら、真美に聞こえないようにため息をついた。
——蓮二に嫌われるのは嫌だな。本当に、嫌だ。
そう思いながら空を眺めていると、次第に真美が泣き止み始めた。嗚咽が止んで、冷静に呼吸ができているようである。目元は酷く真っ赤に晴れているが、和希が「落ち着いた?」と聞くと、真美は小さく「うん」と呟いた。
「和希くん、ごめんね。……あの、和希くんだけでも教室に戻らないと。怒られるよ」
「いいの。そんなの」
もっと怒られることしちゃったし、とは言わなかった。美優を蹴り飛ばしたことは真美に内緒にしておきたいと思う和希であったが、さすがに隠し通すことは難しいだろうと思うと気が重くなった。そもそも、こんな暴力沙汰を起こしてしまったら謹慎処分になるのかもしれない。男子同士の喧嘩であってもお互いに謹慎処分になることがある。男子が女子を一方的に蹴り飛ばしたとなると、何をどう弁明すれば良いのだろう。
和希がこれからのことを考えていると、真美は懐からカードを取り出した。「水」の逆五芒星のカード。それは画用紙のような分厚い紙でできているようで、よく見ると黒い部分はマジックペンで塗りつぶされている。詩音のそばにあったカードも血で染まっていたことから、同じように紙で作られたのであろうことが推測できる。
「これね」
真美がゆっくりと呟き始めた。
「先週の月曜、学校に来たら机に入っていたの」
先週の月曜といえば、事件後に初めて登校した日である。朝、真美が机の中を見ながら顔を真っ青にしていたことを思い出して、あの時に見つけていたのだろうと和希は推測した。和希が荷物検査は大丈夫だったのかと真美に聞くと、真美は「富士宮先生は黙っていてくれるって」と予想通りの返答をした。
「黙っていてごめん。和希くんがカードの持ち主を探してくれるっていうのに」
「ううん。正直、そうじゃないかなって思ってたから」
「……そうなの?」
「ちょっと様子がおかしい感じがしたから。でも、大丈夫。真美が詩音を殺したわけじゃないってことくらいわかってるから」
真美が嬉しそうな、悲しそうな、複雑な表情をしている。
和希が真美の右手を掴んで「大丈夫」と呟くと、真美はまた堰き止めていたものが溢れ出したように泣き始めた。
「私……殺されちゃうのかな……? 嫌だ、死にたくない、嫌だよ、怖いよぉ……!」
崩れそうになる真美の肩を抱いて、和希は自分の胸元に真美を抱き寄せた。恥ずかしさはあったが、こうして泣き崩れる真美を放っておけるわけもなかった。
自分の心臓がバクバクと鼓動していることがバレないか不安になりつつも、真美の髪を優しく撫でる。綺麗な髪。指に優しく絡まって、するりと逃げ出していく。木漏れ日が髪に反射してゆらめいている。真美の体が震えていることに気づいて、和希は両腕で真美を抱きかかえた。
「絶対、真美を死なせない」
真美の耳元で、緊張を押し殺しながら呟く。
「俺が……守るから。大丈夫。絶対大丈夫。俺を信じて」
返事はなかった。真美が小さく首を縦に振っているようにも感じられたが、和希には確信が得られなかった。首を縦に振っていてほしいという願望が見せた幻覚かもしれない。真美は今も泣き続けている。その不安を少しでも取り除けるように、和希は何度も背中をさすった。こういうときにキスができれば、真美は今よりもっと安心するのだろうか。しかし、和希は自分にはまだそうするだけの権利がないように感じられて、背中や頭を撫でることだけに徹した。
そして、そろそろ五時限目が終わるであろう時刻。ようやく落ち着きを取り戻した真美はゆっくり顔をあげると、悲しみと、そして憎しみを込めた声で呟くのであった。
「お願い、和希くん。……詩音を、詩音を殺した犯人を、見つけ出して!」
もう、真美の涙は止まっていたが。
最後にもう一度だけ、和希は真美を抱きしめたのであった。
---
「おかえり」
放課後になってから、和希は教室に戻った。真美と二人で教室に戻るのは何となく躊躇われて、真美だけ先に教室に行かせたのである。誰もいないであろう時間を狙って和希は戻ってきたのだが、教室には蓮二だけが残っていた。
「……ただいま」
教室に戻る途中、和希はキョウと遭遇した。教室での一部始終を見ていたというキョウは、和希が出て行った後、蓮二が美優を保健室に連れて行ったということを和希に伝えた。
「蓮二、あのさ、……美優を保健室に連れて行ってくれてありがとう」
「全くだぞーお前、美優を抱きかかえて保健室に行くの、結構大変だったんだからな?」
蓮二の顔がにやにやとしている。しかしいつもよりは元気がない。動揺と……少しの喜びが見える。和希と普通に話せて喜んでいるのかもしれない。そうであってほしい、と和希は思った。
「美優から伝言預かってるぜ。ごめんって、和希に謝ってほしいって言われた。和希じゃなくて真美に謝れよって言ったんだけどさ、頑固として謝らねぇの」
「……そう」
「でもまぁ、別に美優の骨が折れてるとかじゃなさそうだし、美優も先生に『和希くんは悪くないんです! 怒らないでください!』って懇願してたから、和希はお咎めなしで済むんじゃねぇの?」
「そういうものかな。さすがに、気が引けるんだけど」
「いいじゃんいいじゃん。真美も教室に戻ってからは落ち着いた様子だったし。とにかく帰ろうぜ!」
そう言って、蓮二は和希に鞄を放り投げた。すでに蓮二が鞄に教科書などを入れてくれていたようで、もう和希は帰ることができる状態になっている。蓮二の気遣いに甘えて、和希も帰ることにした。
しばらくは黙って歩いていたが、もうすぐ別れ道にさしかかったところで蓮二が思い出したように呟いた。
「そうだ、和希! デートどうだったんだよ! 映画観てきたんだろ?」
「観てきたけど。蓮二がオススメしてくれたやつは、もう真美が観たらしいから今回は観なかった」
「えー、なんだ。でもそれなら仕方ないな。……でも、夜はお楽しみだったわけか?」
「いや夜って……夕方には解散したよ」
「マジかよ」
「俺からしたら、蓮二のコメントの方が『マジかよ』だけど」
「いやいやいやいや」
いつも通りの風景。親友同士、冗談を言い合う関係。和希と会話をしながら、蓮二は今の緩やかな時間の大切さをしみじみと感じていた。
——やっぱり、和希とはこういう関係がいい。ずっと、こういう関係を続けていきたい。
お互いの顔をみて、お互いに笑っている。これでいい。和希も蓮二も、今この瞬間のような時間がずっとずっと続けば良いと思った。
同じことを願い続けているということに、二人は気づかないままお互いの帰路を辿るのであった。
---
ズット ズット シアワセデ イタイノニ
---
その日の晩。妙な夢を見て、和希は飛び起きた。
妙な夢を見た。何かを願って、何かを追いかけて、しかし足元から崩れ去っていく。何が起きたのかは全く覚えていないが、自分の頰に触れると涙がこぼれ落ちている。頭が覚醒してくると何があったのか本当に思い出せなくなって、次第に涙も止まっていった。
——まだ朝方だよな? 何時だ?
カーテンの隙間から見える窓の外の世界はまだ暗い。暗さと眩しさを兼ね備えていて、まだ日が昇ったばかりだということがわかる。ベッドの枕元に置いてあるスマートフォンを確認する。五月二十五日、火曜日、午前五時。起きるにはまだ早い時間である。スマートフォンを元の場所に戻し、和希はベッドの中へ潜ろうとした。
しかし、あることに気づいて和希は再び起き上がった。異常な数の不在着信がある。一分おきに電話を寄越してくるその者の名前を確認すると、『越智 蓮二』と表示された。そうして確認している間にも、再び着信の音が鳴り響く。
「……おはよう。蓮二。あのさ、俺は蓮二と違って早起きじゃないんだけど」
「それどころじゃねぇんだよ和希!! ……いや、ええと、落ち着いて聞いてくれ」
蓮二が何を言い出すのかはわからないが、スマートフォンの向こうから深呼吸をする音が聞こえる。和希が緊張しながら待っていると、蓮二はゆっくりと——衝撃の事実を口にした。
「美優が殺された。『火』のカードを、美優が持っていたんだ!!」