表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

那朗高校特殊放送部!

那朗高校特殊放送部~紅葉のお誕生日編~

作者: 那朗高校特殊放送部

筆者:紅葉 黑音


9月16日。


2、3週間前の灼熱の暑さはすっかり鳴りを潜め、

むしろ涼しいという言葉が似あうようになってしまったこの頃。


何て事の無い秋の1日ですが、私にとってはとても大切な日です。

なんたって、私の誕生日なのですから!


そんな今日も部室に向かいます。

部室と言っても、私たちはもう高校は卒業しているので、外に借りているアパートの一室を活動部屋にしている訳ですが。


秋服の準備をまだしていなかった私は、夏用の薄着に1枚羽織るスタイルで入口のドアを開けると、


「「「誕生日おめでとう!!」」」

パンッパンッパンッ

「んうぇ!?」


いきなり玄関から爆音が響き渡り、私は奇声と共に視界に何かが飛び込んできて、周囲に火薬の臭いが立ち込めました。

一瞬の思考停止ののちに、それが何かを理解します。


視界を覆う何かを払いのけて目の前を確認すると、放送部の面々が。

7人全員が各々の衣装を纏い出迎えてくれています。

払いのけたそれはクラッカーのリボンであり、周囲には紙吹雪が散っています。


「紅葉、今日誕生日よね?」

「そっ、そうですけど・・・!」


何かはあるだろうとは思っては居ましたが、これほどの規模だとは予想しておらず、

困惑気味なリアクションしか返せません。


「とりあえず、中、入ろうぜ」


何にしても、ここは玄関。

霜月さんの言葉に従って靴を脱いで玄関の前に上がると、いつもの収録部屋の前で城嶋君が待っています。


「先輩、こっちですよ」

「はっ、はい」


荷物も特に無いのでそのまま部屋に向かおうとしたら、その右手を引っ張られ、そちらを向くと夏輝さんがニコニコとした顔で私が部屋に向かおうとするのをせき止めていました。


「まずは着替えてからね」

「あ、着替えはするんですね・・・」


着替えとは、例の如く専用衣装の和服でしょう。

本当にこの先に待っているのが誕生日会なのか不安になってきます。


が、そんな不安は杞憂で、


着替えた先に待ちうけてたのは、


「黑音ちゃん」「紅葉」「先輩」

「「「改めて誕生日おめでとう」」」「「ございます!!」」


と、適度に飾られた色とりどりの装飾と、立派なホールケーキが中心に鎮座する、

まさに誕生日パーティと言える光景でした。

目の前のケーキには沢山のフルーツがトッピングされていて、とてもカラフルです。



「み、皆さん・・・っ!」

「ほら、祝わないのもおかしな話だろ?」


ロックな衣装からは似つかない照れを見せながら三条さんが、懐からロウソクを取り出してきます。


「確か・・・19歳か」

「あ、でも、この年になって、ロウソクはちょっと・・・」


年齢の本数分火を吹き消す奴は、なんというか、10本程度が年齢的にも見た目的にも妥当だと私は思っています。


「別にいいじゃない。年に1回しかないんだから」


しかし、そう言いながら倉井さんがそのロウソクを取りケーキに突き刺して、そのまま火を付けてしまいました。


「ほらやっぱり、火力高くありません!?」

「・・・そうね・・・」


目の前のホールケーキには、輪形に並んだロウソクの火がそれぞれ合体し、まるで火の輪くぐりのような形になっています。


「まぁまぁ、吹き消せればいいから!!」


そう言いながら夏輝さんが部屋の電気を消し部屋を暗くします。

普段は無い暗幕があったせいか、昼間にも関わらず部屋はそれだけで真っ暗になり、皆の姿は燃え盛るロウソクの光でぼんやりと橙色に照らされるのみとなりました。


「それじゃあ先輩!吹き消してください!!」


暗闇で顔はよくわかりませんが、白金君の声がします。

他の人からも、期待している息遣いを感じます。


「じゃ、じゃあ、行きますよ・・・?」


それなりに火力のあるロウソクに燃え移らないように、前に垂れてくる髪の毛を左手で拭い、その左腕から垂れてくる和服の袖を右手で押さえる、若干ヘンテコな姿勢で腰を落とし、ロウソクに顔を近づけます。

たかがロウソク、されどロウソク。

近寄ると熱気を感じます。


軽く息を吸ってから、


「・・・ふぅーーっ」


と、そこそこ強めに息を吐きだしました。

が、


ロウソクの炎はその数本が消えただけで、残りの火はまだまだ元気です。


「火、強っ」


結局、4回、5回と何度も息を吹いて、ロウソクの鎮火を完了したのでした。





------------------------------



ケーキのロウソクを吹き消した後は、明かりを付け、暗幕を撤去してから皆でケーキを食べる時間になります。

8人分きっちりと切り分けられた綺麗な三角形のケーキと、いつの間にか淹れてくれていた紅茶、

そして近所の駅で行列が出来ると噂のロールケーキもテーブルに並んでいました。


「こんなの、よく用意できましたね!?」

「頑張ったよー!?」

「えへへ・・・」


両手を腰に胸を張っている夏輝さんと、控えめにはにかんでいる与那嶺さんが、横に並んで笑っています。

おそらく、この二人が並んでロールケーキを用意してくれたのでしょう。


「夏輝先輩、一回近くを歩いていたアイドルさんに付いていきましたよね・・・?」

「あっ!?っそれ言っちゃダメ!!」


・・・実質与那嶺さんだけですね。

とはいえ、わざわざそれを指摘するのも野暮というものです。


「じゃあ、お二人に感謝して、早速食べましょう!」


ケーキを前にして我慢し続けられるほど、私は大人ではありません。

まだギリギリ未成年ですし。

なので、皆を先導しケーキを頂くことにしました。


「「「「いただきます!!」」」」


皆で卓を囲み、ケーキにフォークを入れて、上に載っているイチゴと共に頬張ります。


「んんっ美味しい!!」


甘いクリームと、イチゴの酸味、ケーキ特有の味わいが口に広がり、思わず美味しいと口に出す美味しさです。

他の女子部員も、大体同じリアクションをしています。

ケーキって、概ね材料は変わらないのに、どうして飽きることなく毎回美味しく頂けるのでしょうね?

やっぱり、特別感があるからでしょうか?


砂糖とミルクを入れ、ミルクティーにした紅茶で一旦口をリセットし、人気のロールケーキも食べてみます。

こちらもケーキと同じくスポンジとクリームで出来ているはずなのに、フルーツケーキとはまた違った美味しさを感じた気がしました。


「へぇ、これがあのロールケーキかぁ」

「やっぱ並ぶだけあるんですね」


男子達にも絶賛の様です。

どれもこれもハイクオリティなスイーツに、8人皆、舌鼓を打ちながら楽しく雑談でもしながらワイワイと過ごしていました。

その光景は、お誕生日会と言うよりも、ただのティーパーティーでした。

まぁ、その方が個人的には過ごしやすいので、アリと言えば有りでしょう。



------------------------------


一通り皆ケーキを食べ終わり、

雰囲気的には終わりかな?

と思い始めたころ、突然夏輝さんが勢いよく立ち上がりました。


「それでは!!黑音ちゃんへのプレゼントターーーーイム!!」

パァン!!


いきなり大声で宣言すると同時に、隠し持っていたのかクラッカーを炸裂させ、

またもリボンと紙吹雪が私に降り注ぎます。


「ぷ、プレゼント!?」

「そうだよ?誕生日と言えばプレゼントでしょ!!」

「そ、そうですけど・・・!」


まさか本当に貰えるなんて・・・

19歳、大学生の誕生日としては随分とコテコテというか、どストレート過ぎる流れに若干困惑してしまいます。

どうしていいか分からず、席に座ったまま頭や体に乗っている紙吹雪を取り除いていると、数人のメンバーがいくつかの箱を持ってきました。

どれも綺麗でツルツルなラッピングがなされています。


「これは俺ら男子勢からのプレゼントだ」


三条さんが、小さめで長方形の箱を持ってきました。

後ろには白金君と城嶋くんが控えています。


「・・・正直女子へのプレゼントって何がいいのかよくわかんないから、これでいいのかはわかんないけどな」


今日の三条さんはなんかイケイケ感が足りないというか、なんか緊張している気がします。


「・・・開けて良いですか?」

「勿論です!」


逆に白金君がドヤ顔で言ってくるので、遠慮なく包装を解きます。

大きさ的には、アクセサリとか、その辺かな?

と思いつつ包装を解くと、そこには上品な外見の茶色い箱が。

・・・これは・・・確か自然をモチーフにしたアクセサリがメインのブランド・・・?


若干ふさふさとしている箱の蓋を開けると、紅葉のネックレスでした。

葉が金色で、葉脈が銀色で作られている金細工の葉っぱが二枚、細めの鎖に下げられています。


「おぉ・・・」

紅葉(あかば)先輩だから、紅葉(もみじ)、って、ちょっと安直過ぎましたかね・・・?」

「いやいやいや!こういう私の事を考えてくれたプレゼントは嬉しいですよ!!」


城嶋君がちょっと申し訳なさそうに言うので、そこは断固として否定しておきます。

実際、この活動を始めてからモミジのアクセサリやグッズなどに目を惹かれるようになったのは事実、

そう言う意味ではこのプレゼントはかなり嬉しいんです。


「よかった、彼女でもないのにアクセサリプレゼントって引かれるかと思ったよ」

「あははは・・・私はそう言うの気にしませんから」


まぁ、そう言う人も居るかもしれませんが、という余計な一言は胸の奥に仕舞いこみ、

貰ったアクセサリを付けてみます。

元々胸元は開けている衣装。

空いたスペースに光る紅葉のネックレスは、アクセントとして良い存在感を放っています。


「おぉー、似合うじゃん!!」

「ふぅん、男子も結構いいセンスしてるじゃない」


夏輝さんと倉井さんが、付けたネックレスを覗き込みながら評価を下しています。

その間私は胸元を覗き込まれながら動けないでいました。




「じゃあ、今度はあたしらからのプレゼントだな」


お次は霜月さん&与那嶺さんペア。

一応、追加組という共通点はありますが、二人の趣味趣向は異なっていて、何がプレゼントなのか想像が付きません。


「えっと、私たちからのプレゼントは、これです!」


与那嶺さんから手渡されたプレゼントは片手で持てるサイズ。

やはり予想の付かないサイズです。


例によってラッピングを解いていくと、

見覚えのあるメーカーのロゴが。

何だったかな?と思って箱を開けると、

中にはトリートメントのパックが数パック。

私がいつも使っている物の、ランクが上の高級版です。


「あれ・・・私が使ってるトリートメント、わかるんですか・・・?」

「あ、えっと、私が使ってる物と同じだったので、香りで分かりました・・・」

「あぁ、なるほど!」

「実は、あたしが使ってるのとも同じブランドだ。香りは違うけどな」

「へ、へぇ、そうだったんですね!!」


なんという偶然!

とはいえこの高級版、いつか買って使ってみたいと思っていたので、これは嬉しいプレゼントです。


「じゃあ、これは一つこの家のお風呂場に置いておきますね!」

「紅葉この家で風呂入るの・・・?」

「ま、まぁ、撮影後とかに使えたら良いかな、って・・・」

「もうルームシェアの領域よねそれ」


・・・せっかくのお家ですし、解散前にサッパリしたいじゃあないですか?




「じゃあ次は私ーー!!」


夏輝さんが有無を言わさず両手で抱える程のサイズの箱をプレゼントしてきました。

もはや許可はいらないでしょう。

私はそのラッピングを解いて中身を確認します。


出てきたのは、何か派手な色のアクセントが入ったジャケット、

水着のようでいて、濡れさせたらダメそうな素材のもの、

同じく派手なアクセントの、変なパーツの付いたボトムス・・・


これって・・・


「・・・コスプレ衣装ね!」

「やっぱり!!」


夏輝さんらしいと言えばそうですが!!

とはいえ貰う側なのでマイナスな事は言えません。

しかし、元ネタはありそうな衣装ですが、私には分かりません。

案外、サブカルに一番アンテナを張っているのは夏輝さんかもしれません。


「大丈夫!!髪とか身体とか、黒音ちゃんに合うキャラのやつ選んできたから!」

「そう言う問題ではなくてですね・・・?」


そもそも私はコスプレ趣味とかでは無いので!


「まーこれは個人的に私がコス合わせして欲しいだけだから!ちゃんとしてくれたら本当のプレゼントあげるよ!」

「ほ、他にもあるんですか??」

「当然!!」


えっへん、と胸を張る夏輝さんですが、要するにそれ、条件付きプレゼントって事ですよね?

・・・ま、まぁ、プライベートでやる分には


「じゃ、じゃあ、またいつか、やりましょ」

「OK!」


サムズアップしてスキップしていきながら、夏輝さんは部室から消えていきます。


「じゃあ私着替えてくるね!!」

「いつか、って言いましたよね!?」


本当に伝わってるんでしょうか・・・

・・・それによく見るとこのコスプレ衣装も中々・・・夏輝さんは一体何着てくるつもりなんでしょう?



「最後は私かしら」


残っているのは倉井さん。

一番の幼馴染で、一番の理解者・・・だと、私側は思っている人。

一体何をプレゼントしてくれるのでしょう?


「はい。これ」


倉井さんは、ポケットから小さなカギを取り出して手渡してきました。


「これは・・・」

「鍵よ。明後日辺りに鍵付きのプレゼントが届くはずよ」

「それは・・・?」

「ふふ、内緒よ」

「き、気になる・・・」


なんですかそのプレゼントの方法!!


「うわぁ、ロマンチックですね・・・!」


与那嶺さんがキラキラした目で私を見てきます。


「ふふ、明後日が楽しみね」


クスクスと笑う倉井さん。

ううむ、一体何をプレゼントしてくれるのでしょう・・・

こんな思わせぶりな方法で渡してくるなんて、一体何が・・・


一旦そのカギは懐にしまい・・・


・・・この服にポケットに当たるものがない事に気が付き、とりあえず帯に埋めておくことにしました。





「皆さん、本当にありがとうございます!!」


皆からのプレゼントを貰い、感無量の私。

胸元に輝くネックレスも、テーブルに置いてあるトリートメントも、コスプレ衣装も、帯に埋めた鍵も・・・鍵と衣装は直接のプレゼントじゃあないですけど・・・

とにかく、こんなに暖かい誕生日パーティは本当に久しぶりでした。


「その、なんて言ったらいいのか分からないですけど・・・本当に・・・!」


こういう時に気が利いたことが言えないのが部長として玉に瑕ですね。


「その辺は気にしなくていいわよ。プレゼントなんて私たちの自己満足みたいなものだもの」


倉井さんは、いつもと変わらぬ態度で平然と言ってのけます。


「そうそう。次のあたしの誕生日になんかプレゼントしてくれればいいからさ」


霜月さんも。

あぁ、そうでした。

確かにここまでしてもらったんだから、お返しも考えるべきですね。


何にせよ、こんな誕生日会を開いてもらえて私は本当に幸せ者でしょうね。


「本当に、この特殊放送部を創部して、本当に良か」

「ねぇ!!冷蔵庫にもう一個ケーキあったんだけど!!」


締めの言葉に割り込むように、夏輝さんの声が響き渡ります。

振り向くと、両手にホールのチョコケーキを抱えた夏輝さんが・・・


「えっ!?」

「あ、そうだった!俺も買ってたんだ!!」


そんな夏輝さんを見て、城嶋君がハッとしています。


「城嶋お前!!」

「このチョコケーキどうするんだよ」

「え、えぇと・・・」


せめてここは部長らしく、


「じゃあ、皆で食べましょうか」


あれだけ良い雰囲気だったのになぁ、と思いつつ、これも特殊放送部らしいなぁ、と。

軽く溜息を吐きつつ、ふふっ、と笑いながらナイフとお皿を取りに行くのでした。


挿絵(By みてみん)

倉井「そう言えばクリスマスイブに子供を作ると、生まれてくるのは9月中旬辺りになりやすい、って話あったわよね」

紅葉「その話この空気感でします!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ