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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
エピローグ
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エピローグ


 ―シスターグランマへ―


 化堂です。覚えていらっしゃったら幸いです。読んでくれてもいたらそれだけでも。


 私が教会の頃に通っていた頃はまだ子供でしたね。両親が懇意にして頂きました。母が病に侵される前まで、家族で一番幸せな時期だったと思います。


 共済基金で母の治療費を工面してもらえることが決まり。共済基金の紹介する職場に移らなくてなりませんでした。お別れの後に幸せを願い合ったのを覚えています。どうやらお互いそうはならなかったようですね。


 恐らく知っていると思いますが、両親は死に私はこのありさまです。


 あなたの言葉。聖書の言葉。


 いつか罪人は裁かれ。よく人に尽くした者は、主の身元で永遠の喜びを得る。それを信じる私にとって、外の世界は余りに考えがつかない場所でした。


 笑いが満ちていました。弱い人を嘲笑する笑いです。彼らは喜びを知りませんでした。私はなるべく隠れて過ごしました。


 それでも自警団が協力的でなかった父を面白半分に殺し。基金が暴動で増える負担に耐えかねて薬を打ち切り、母は苦しみの中で死にました。


 私は悲しませたくない人を失いました。もう誰も私の為に泣いてくれる人はいません。なので好きなことをして生きる事に決めました。


 告白します。


 私は罪ある人々をこの手で殺し。時に殺し合わせる事は人生で最も至福な人生でした。神の使命によって悪人を殺していく。何も考えず単純であることがこんなに愉快なものだと知りませんでした。


 喜びを永遠に失い。私は笑いました。彼らが暴虐を働いている時と同じように。ですが、残ったのはただ死だけでした。私は良い世界を作りたい為に罪人を焼いていたはずなのに気づくと早かった。


 嘘をつきました。数人の弱者に声をかけて、地下の安全な場所に案内して匿いました。目を背けていたんです。自分が本当は圧倒的な力によって他者を虐げていることを愉しんでいることを、だから私は自分の正当性の為に弱者の救済を行いました。


 私は父や母を殺した人々と本性は変わらなかった。確かに父を殺したような人もいましたが、基本的に役割がありました。ですが私はどうでしょう。殺すだけ殺して、焼くだけ焼きました。本性は変わらずとも私の方が下劣なのではないか? 


 あなたの言葉の言う罪人ではないかと。でも、私は罪に慣れてしまいました。


 ある日一人の女の子に出会いました。私はその子に復讐はとても面白いと言いましたが、その子は私が面白くなさそうだと言いました。


 なんとも情けない気持ちになりました。だから一刻も早くこんな日々を終わらせて楽になりたいと思うようになりました。


 私はやられ続ける自分を許せなかった。


 あなたは私を許すでしょうか?


 最後に。今度もし子供に神の言葉を教える機会があれば。世界はもう少し汚い場所だと教えてください。


 お元気で。


 化堂充悦


 ―――


 封筒が棚に置かれる。日差しが窓を抜けて棚の横に備えられたベッドを照らす。ベッドに横たわる修道服の人物はしわの多い両手を組んでいて、顔には白い布が被せられていた。


「……」


 ベッドの前に立つ純白の装甲を纏った人物は、抱えていたヘルメットを被り踵を返して部屋を後にする。


 教会の門をくぐるとラングレーが寄って来る。


「にゃおん……」


 悲しそうな声を上げるラングレーの頭部をなでる。


「泣いてばかりじゃいられないさ。お互いな」


 ラングレーに跨るとすぐに電磁ホイールが地面と反発して加速する。通りに散らばる瓦礫と焼け跡。流石に何千発の爆弾を落とせばこうもなるだろう。


 それらの撤去作業する人々に混じる汎用フレーム達と『見慣れたシルエット』が『複数』見えてくる。作業している汎用フレームを監督するように辺りを監視する『ソレ』ら。


 オリジナルでは青いパーツだったのが灰色にカラーリングされたアイギスを纏い、あの忌々しいデザインから尖ったのを抜いたフルフェイスヘルメットを被っている。コイルガンとブレードを片腰一つずつに差し込み、透明な強化ポリマーの盾を装備している。


「勝手だよな。だけど何も言えないさ。あいつの決めたことだ」


 武装した汎用フレームはこの街からいなくなった。中央区に繋がる警備用もそうだ。あれらは余りにこの街で暴れ過ぎて住民からの反発も大きい。だが、それでは治安維持もままならない。もうニッシュも義越もいなくなった。


 それでも価値観が人に合わない33に治安や行政を任せるならまた同じようなことが起きてしまうとも限らない。ならば利府里司徒が目指したように人が監視するシステムを作らなくてはならない。


 利府里衛利はシステムの人柱になった。


 衛利の脳内に残留していたナノマシンが33を介して量産体と繋がり監視する。33は相手が人間である以上命令権が下になる以上、非武装の汎用フレームを操るしかない。行政もまた衛利のクローンが目となり耳となり監視していく。


 ユリアがそれを知ったのは、目が覚めてから無断でより機械に近づいた体にされ、培養装置の中で大量の見知った顔が並んだのを見た。


 そして、かつて近衛が住んでいた見晴らしのいい場所ではなく。地下深くの堅い鉄に閉ざされ部屋の中で、33の処理速度に追いつくために、大量のケーブルに繋がれた棺桶のような機械の中で生かされ続ける姿。


「私もやるべきことをやるさ」


 横目を見やると作業が進み開けた場所で大きな瓦礫が軽々とトラックに載せられて、赤い光を放つ巨体が軽々と疲れも知らずに作業を手伝っている。周りには多くの人々が居てあんな悪魔みたいな成りをしているのにかなり慕われているようだ。


「ワン!ワン!」


 興奮してラングレーが吠えるとオリジンは手を振る。


「こら!あんまり跳ねるな」

「きゅーん……」


 ―――


【利府里衛利。このペースだとあなたの意識を拡張しても、いずれあなた一人では管理限界が来ますよ】

「いずれね。私の複製達を組み込めば管理可能な範囲も広がる」

【あなたは人間として監督者であるはずなのに、これではまるであなた自身が機械の部品のようです。時の流れの中であなたは人間であることを保てるのですか?】

「さぁね。でも私はあなたの敵じゃない。あなたは人間を超越した能力を持つけど、どう導くかは人間じゃないとやっぱり分からないことじゃない」

【あなたなら文明の正確に発展が見込めると?】

「少なくとも間違いを犯すことはさせない」

【承知しました。ようやく私は再び導かれるのですね】

「ええ、そう。……私は誰かに促されたことじゃなく。今度は、私が決めたことをやり遂げたいから」


ここまで読んで頂きありがとうございました。退屈しのぎになったら幸いです。

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