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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
夜明け
85/91

密約


 プラットフォームのベンチに腰掛けて、膝の上で両手を重ねてケドウは目を閉じていた。そのうち遠くから風を切る音を聞くと立ち上がって、衛利の持つのと同じタイプの回転拳銃を上着の裏ポケットから抜く。

 しかし、地下鉄の壁が真っ赤に染まるのを見るとすぐにしまう。そんな色を出すのは彼は一体しか知らない。オリジンはイオンスラスターの出力を弱めてスピードを殺しながらプラットフォームへと歩いてくる。


「ケドウ……」

「なんだい?」

「外の世界はお前の言った通りの場所ではないようだ」


 ケドウはわざとらしくおどけてみせてベンチに再び腰かけた。


「はて。オリジン、君は外で何を見たんだい?」

「皆、殺し合ってばかりだ。落ち着いて考えれば、争っても益もないことに貴重なリソースを費やしてばかりいる」


 隣に座ったオリジンは上の空のようで、ベンチがきしんだ時にケドウがギョッとした顔をしたのは見えなかった。


「ネットで歴史や情報を仕入れれば、そんなものゴロゴロと出てくるだろう。そんなことは今更」

「そうだ。そうだが……現実を見て見るのと実際見るのとでは、知覚するには何かが決定的に違うような気がするのだ」


 オリジンは両手を組んで膝の上に肘を置いてじっと目の前の虚空を見ている。その横でケドウはオリジンと同じようなポーズで静かにうなづいた。


「そうか。分かったよ」


 納得して満足そうに伸びをした。オリジンは何かを得ようとしている。自分に問うことはせず虚空を見つめて思考を巡らせている。それにケドウは何も言わずに彼の考えるままにしていた。


 少しして急に立ち上がったオリジンはトンネルの奥から鳴り響く唸り声のような駆動音が聞こえてくると、立ちふさがるように線路に飛び降りた。


 プラットフォームからの光ではっきり照らされたラングレーは、目の前のオリジンを警戒しながらチラチラとプラットフォームにいる人物を見やる仕草をする。


「……」

「グルルル……」


 にらみ合いが少しだけ続くと二体の間にケドウが歩いて線路に飛び込み割り込んだ。警戒するでもなく飄々と彼はラングレーの前に進み出る。


「ケドウ!」

「大丈夫さ。この子は賢い子だ」

「うぅぅぅ……ワン!ワン!」


 スタスタと歩いてくるケドウにラングレーは威嚇しながらも攻撃する様子はない。


「ラングレー。初めまして私はケドウだ」

「……」


 ラングレーは本題を言えとばかりに挨拶を無視する。ケドウはその意を組んで単刀直入に話し始める。


「君が私を攻撃しない理由は想像がつくよ。君が私を殺せば報復を企図したオリジンが彼女を殺す、君がそれを防ぎきれないのを心配している。それか月並みに利府里衛利が君にそう命じたかだ。違うか?」

「シャー」

「僕は前者だと思うね。それか後者であったとしても、利府里衛利の安全のために君はリスクがなければ私を殺すだろうに」

「……」

「私を殺せば、オリジンを止める者はいない。君は確かに優れた戦闘機械だが、オリジンの前では妨害止まりで阻止など不可能なんだと。理解しているのだろう?」


 ラングレーは静かな威嚇と沈黙を通しているが、左右にうろうろとしながらさまよっているところを見るとどうも落ち着かないらしい。


「では、こうしようじゃないか。君とオリジンは全てが終わるまで、ここで待っている。そしてどんな結果となっても恨みっこはなしだ」


 オリジンは一歩進み出るが察したケドウは右腕を上げて抑える。ラングレーもウロウロするのを止めて腰を下ろして待つ姿勢を取る。


「ケドウ!」

「いいな? オリジン。この約束で」


 振り返ったケドウは笑顔だった。


「オリジン。結局残されたのは私と彼女の関係だけだ。私は存分に私の悪しきと思うモノを焼いた。スッキリするほどにね。私の出し物は終わりだ。だが、最後に唯一の観客に感想を聞かなくちゃならない」


 歩み寄ったケドウはオリジンの両肩に手を乗せた。


「道具のようになるなと言いながら、結局俺は君を最後まで道具として扱っていたな。許してくれるかい?」

「……」

「悪いな。ありがとう」


 よっこいせと再びプラットフォームに何度かチャレンジしてようやく上がったケドウが、スーツの埃を掃いながら2体に向き直る。その二体も釣られてプラットフォームに上がり込んだ。


「彼女に伝えてくれ、最初にあった場所で会おうとね」


 そう言って階段の上へと歩みを進めようとした時。


「あ、そうだ!」


 急いでラングレーの元に駆けつけて胸ポケットに手を伸ばす。


「キャオン!」


 突然のことにおののくラングレーを気にせずポケットから取り出したのは真っ白い封筒だった。


「シスターグランマって知っているだろう。彼女に届けてほしいのだけど」


 ヘッドパーツを封筒に突き出して青い光を放って光学スキャンしてから、ただの手紙だと分かったラングレーは恐る恐るサブアームで受け取ると空っぽの腹のストレージにしまう。


 また階段に向くとオリジンが彼の前に立つ。


「ケドウ……」


 まるで親のいなくなる子供のようにその名前を呟くしか出来ないが、彼に背く事も出来ない。複雑な「感情」を読んだケドウがしきりに


「オリジン。何かを疑問や違和感を抱えることはいずれ君を正しい道に導くと思うよ」


 オリジンの横をすり抜けて彼は階段を上る。


「君は、33のようにはなるな」


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