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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
夜明け
84/91

光に消える



「ぐぉぉぉぉおおおおおッ!!」


 取って返したラングレーはこれまで聞いたこともない唸り声でオリジンに飛び掛かり、前足に内蔵されていた小型の電磁ホイールで押し付けようとするが。オリジンは衛利を盾に掲げるとラングレーも体を逸らして通り過ぎるしかなくなる。


 その隙にオリジンが手の力を緩めると衛利はうつ伏せになってその場に倒れ、ラングレーが後ろに行ったタイミングを合わせてオリジンはセントラルビル方面に向かってダッシュを再開する。


 一瞥してオリジンが襲い掛かる様子はないことを確認して、一目散に倒れる衛利の下に駆け寄ってサブアームで体を持ち上げる。


「ワン!ワン!ワン!!」


 呼びかけながら頭部パーツを近づけてる。うなじ部分に内蔵されているアイギスのメインCPUに接続しようとコネクタを取り出すが、うなじ部分にあるアイギスのメインCPU部分は縦に圧し潰されたように破損していた。


「ラングレー? ごほっ」


 苦しそうにせき込みながら衛利が顔をあげる。


「キュィーン……」


 突然衛利に飛びついてラングレーは甘えた声をあげる。甘えてくるラングレーに頭部パーツに手を当てて撫でる。


「大丈夫。私はすぐにいけるから。ラングレーはあいつを追って」

「ワン!」


 すぐに応答しながらもすぐにラングレーが離れる事はなく、行こうと決心してからも何度か衛利の方に振り返ってから走っていった。


 喉元を圧迫されたことで多少息苦しくはあっても立って歩けなくもない。だが、アイギスはメインCPUを失い各部の補助CPUだけで動きの補助だけされている状態だ。


 いつもの提案や神経のオートメーションも発動しないし、ケドウの前にはオリジンが立ちふさがるだろう。一度ユリアと合流してからまた前進するべきか。


「ダメ。あの男は私が……」


 言いかけた言葉を飲み込んで立ち上がろうとするも動きは鈍く、もういちどその場に座りこむ。それから体の節々にあるフレームに埋め込まれた小さなボタンを押し込んでいきボタンは淡い赤色の光を放つ。


「非常解除を認証」


 アイギスのフレームが分離すると力なく疑似筋力繊維も脱力して、インナー姿の生身が露わになる。ひんやりとした空気に思わず両手で体を抱えてしまうが、前を見れば途方もなく線路だけが続いている。例えどれだけかかっても今は身一つで歩き続けなくてはならない。


 通信機とアイギスのスリットにしまってあった形見の回転拳銃を拾い上げる。ブレードとコイルガンを一瞥するが、ブレードは柄を持ってすぐに手放し、コイルガンはアイギスからの電力供給を断たれて表示の発光体から光が失われていた。


「もしいるのなら。あの男だけじゃなくて、私にも力を貸しなさい」


 ただ薄暗い闇のトンネルの中で、33ではない【何か】に向かって衛利は呟いた。


 ―――


 爆撃の音はもうしない。多くの人々は武器を置いて負傷者をみんなで担ぎ上げて、せっかく拾った命を一つでも多く零さないように拾い上げている。


 その中にはルッツもいた。彼自身はライフルを下げながら先ほどまで戦闘があった場所で警戒に当たっていた。援護してくれていたドローンが攻撃を止めたのが、戦いの終結を意味するものではないと考えていたし、残敵が突然牙を剥くかもしれない。


 ドローンが爆撃を不必要だと判断した基準はどこなのだろうか。一切の敵が動かなくなったのか、それとも敵は我々で仕留められるほど弱ってはいるが、引き金をこちらに向けるほどの元気があるのかもしれない。


 直接確かめるしか術がない。部下全員には救助に出払いただ一人。


(ニッシュは無事だろうか)


 重篤となった彼女に思いを割く余裕が生まれたことをルッツは自覚してしまいすぐに首を振って現実に戻る。


 ほんの数分前まで爆撃が行われていた場所に踏み込んでみる。危険はあったが今のところ周りで銃声などはない。建物の残骸などを覗いてもあるのは直撃し爆砕されたソルジャーの破片ばかり。


(うまく爆撃するもんだな)


 感心しながらも次はそこまで崩れていない家屋に入る。もしかすれば被害を免れたのかもしれない。嫌な予感がしながらもルッツは家屋に入り銃口を突き出して慎重に進んでいく。


 とある一部屋に入れば天井に穴が開けられていた。その部屋の角に居てはいけないシルエットが見えた。ソルジャーがうなだれてそこに居た。


 思わず引き金を引きそうになるが、すぐに指を離して様子を見る。いつでも撃てるように銃口を向けながら、ソルジャーが原型をとどめながらも損傷していることを確かめる。


 ただ、つま先に硬い物が当たった時に彼は一瞬目を下に見やった。しまったと思ってももう遅い。


 なぜ原型を留めないほど丁寧な爆撃をしていくのに、原型を留めた家屋やソルジャーがあったのか。よくよく振り返れば何千発もの爆弾を投下しておいて、例えイヌモ製の信頼性が高い兵器であっても一つや二つあってもおかしくないではなかった。


(不発弾が!)


 ルッツは強い衝撃で宙に浮いたような感覚を覚えると、白い光が見えてその中に一人の女性が居るように見えた。


(ニッシュか?)


 彼女が自分の手を取って、白い光の中に引っ張っていく。


(そうか。残念だな)


 すべてを察したルッツは抵抗もなくニッシュと共に光の中に消えた。

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